第45話 秘密は秘密だからこそ価値がある
翌朝。
俺は母に急き立てられるようにして、
家を出た。
手のかからない俺の唯一の欠点が、
朝だった。
歩きながら。
俺は大吾の遺品について、
考えを巡らせた。
洋からビデオカメラを
取り上げた大吾は、
他人の秘密を盗み撮りしていた。
ある時。
大吾はその秘密を
利用することを思い付く。
つまり。
強請だ。
強請の相手は茜と校長。
茜には従順な手下を強要し、
校長からは金を引っ張り出した。
これで。
あの大金の説明もつく。
ビデオテープは、
大吾にとってまさに金の成る木だった。
そう考えたら。
大吾がテープに映った秘密を、
誰にも話さなかったことも頷ける。
秘密は秘密だからこそ価値がある。
そして。
ナカマイ先生の秘密に関しては、
強請の材料にはならないだろう。
それに。
仮に強請ろうとしても相手が悪い。
小学生が本職の極道相手に
喧嘩はできない。
遠くでチャイムの音が聞こえた。
一瞬、
走ろうか迷ったが、
結局、
俺はそのまま歩き続けた。
教室に入ると室内は騒ついていた。
ナカマイ先生は
「ギリギリセーフ!」
と言ったが、
実際は5分の遅刻だった。
「では今から席替えをします!」
ナカマイ先生は、
俺が席に着いたことを確認してから、
そう宣言した。
すぐに歓声があがった。
子供達にとって、
席替えは定期的に開かれる
一大イベントだった。
周りを見回すと、
興奮している子供達の中で、
相馬だけは普段通り、
机の上の本に目を落としていた。
いや。
もう1人。
窓際の一番後ろの席で、
誰とも話さずに、
外を眺めている男がいた。
だが。
池田の場合は、
話す相手がいないだけで、
相馬とはまた違った意味で孤独だった。
その存在が希薄すぎて、
大吾のいじめの標的にすら
ならなかったのも、
当然といえば当然なのかもしれない。
池田圭は単に友達のいない、
大人しい子供だった。
そんな男が。
大吾の死に関して、
俺に声を掛けてきたのは意外だった。
悪趣味か。
それとも。
好奇心は人並み以上ということか。
席替えは、
目の悪い生徒が、
優先的に前の席を選んでから、
あとは平等にくじ引きをした。
そして。
俺は運良く、
窓際の一番後ろの席を引き当てた。
これまで池田が座っていた席だった。
この日の帰り際。
俺は靴箱で茜を呼び止めた。
「どうしたの、あっくん?」
「これを渡しておこうと思ってさ」
俺は鞄からビデオテープを出した。
「これは?」
茜は手に取ったビデオテープを、
不思議そうに眺めていた。
「大吾が隠し撮りしていたテープだ」
「えっ、本当?」
茜の顔がパッと明るくなった。
「これで安心だろ?」
「うん!
ありがとう、あっくん」
茜はテープをすぐに鞄に入れると、
恥ずかしそうに俯いた。
「・・あっくん。
これ見た?」
「一応中身は確認した」
俺は正直に答えた。
「・・そう」
「でも。
茜が心配するような映像は、
映ってなかった。
あの映像を見ても。
誰も茜とはわからないはずだ」
「ありがと。
あっくん」
茜は顔を上げると、
安堵の表情を浮かべた。
「よし!
俺達も急いで帰って、
『Riverside Doom』に集合だ。
あの2人は、
待たせるとうるさいからな」
「うん!」
茜は元気よく頷いた。




