第35話 ある種の恐ろしさ
大吾の死から1週間が過ぎた。
事故の後。
俺達は学校と家で、
こっぴどく叱られたが、
同時に俺達を気遣う声も多かった。
ナカマイ先生は、
当然のように俺達を庇ってくれたし、
校長の
勅使河原平八
や6年1組の担任の
一色拓海
も俺達が必要以上に
責められないようにと
気を配ってくれた。
おかげで。
俺達は警察の事情聴取もそこそこに
解放された。
しかし。
事情を聴かれたところで、
事故としか答えようがなかった。
元々気の弱い翔太は、
事故の後、
3日間寝込んだ。
直接その瞬間を見ていない洋でさえ、
事故の翌日は学校を休んだ。
予想外だったのは茜だった。
彼女は、
多少元気がなさそうに見えたものの、
休まず登校していた。
いざとなると。
男よりも女の方が
肝が据わっているというのは、
強ち間違いではないらしい。
今、
改めてあの時のことを思い返す。
そして。
自問自答する。
俺は本当に大吾を助けようと、
全力で手を伸ばしたのか。
あの時。
俺は地面に膝をついたまま、
手を差し出した。
翔太のように腹這いになっていたら、
大吾の手は掴めたのではないか。
しかし。
俺は頭を振って、
その考えを否定した。
突然の状況に俺は冷静ではなかった。
洋を呼んでも無視され、
翔太はすでに限界だった。
考えている時間はなく、
俺は急いで手を差し出した。
それに。
腹這いになれば力も入らない。
では。
手を離した翔太が悪いのか。
いや。
翔太は1人で頑張った。
ならば。
洋が悪いのか。
洋は俺達がふざけて遊んでいると
思ったらしい。
「悪かったよ。
俺がすぐに駆けつけてたら」
そう言って、
洋は肩を落としていた。
どちらにせよ。
洋がいたところで、
大吾を助けることができたかどうか。
それよりも。
大吾が転落した後。
慌てふためく俺達を尻目に、
冷静に煙草とライターを
処理していた茜の姿が、
頭から離れなかった。
茜のおかげで。
俺達の悪事は、
マンションへの不法侵入と、
金網の破損だけで済んだのだが、
あの状況でそこまで気が回る茜に、
俺は感謝の気持ちよりも、
ある種の恐ろしさを感じた。




