第33話 向こう側
翌日。
5月25日。
昼休みが始まると、
子供達は一斉に
教室を飛び出していった。
俺は大吾、翔太、洋、そして茜を
教室の後ろへ集めた。
大吾と洋が
「何だよ早くいかねーと、
場所が取れねーだろ」
「話があるなら早く話せよ」
と催促した。
今日はドッジボールの日だった。
「今日の放課後。
もう一度、
『Tombstone in 城之三崎』
へ行こう」
俺の言葉に4人は一瞬、
固まった。
「何言ってるんだよ。
お前だってこの前見ただろ」
「さすがに悪い冗談だぜ、
あっくん」
「あれは無理だよ。
落ちたら死んじゃうよ」
「そうよ。
それに私、
高い所は苦手だわ」
4人はすぐに反論した。
「あの程度の障害なら問題はない」
俺は詳しい説明はせずにそう言った。
「勿体ぶるなよ」
洋が口を尖らせた。
「わかったけどよ。
期待させておいて、
ダメでしたじゃ許さねーぞ」
大吾はそう言うと、
話は終わったとばかりに、
教室を出ていった。
翔太と茜も後に続いた。
洋はまだ何か言いたそうだったが、
結局何も言わず、
3人の後を追いかけていった。
教室には。
俺を除けば2人の生徒が残っていた。
机で本を読んでいる相馬沙織。
そして。
窓際の一番後ろの席に座って、
ただ窓の外を
ぼんやりと眺めている池田圭。
俺は相馬に話しかけようか迷ったが、
読書の邪魔をして、
また印象が悪くなるのも嫌だったので、
思い止まった。
その時。
池田と目が合った。
池田は緊張した面持ちで頭を下げた。
俺は軽く手を挙げたが、
池田はすぐに窓の外へ視線を戻した。
帰りの挨拶が終わると、
大吾達は我先にと教室を出ていった。
俺も急いで席を立った。
「あっくん!」
その時。
俺を呼ぶ声が聞こえた。
振り向くと奥川が手を振っていた。
俺は
「後で連絡するから」
と手を振り返してから、
すぐに大吾達を追いかけた。
奥川との関係も
ケジメをつけなければならない。
このままズルズルと、
恋人ごっこを続けていけば、
俺はいつか必ず彼女を傷付ける。
そうなる前に。
終わりにしなければ・・。
今ならまだ。
彼女の傷は浅くて済む。
『Tombstone in 城之三崎』
に着くと、
丁度中から住人の1人が
出てきたところだった。
オートロックのドアが閉まる直前に、
洋が素早く体を滑り込ませて、
俺達は正面から堂々と侵入した。
エレベーターで最上階まで上がり、
外階段に出ると、
すぐに問題の鉄格子に
行く手を阻まれた。
「で。
どうするんだ?」
大吾が溜息を吐いて俺を睨んだ。
「大吾。
俺を肩車してくれ」
俺は鞄から金切り鋏を取り出した。
大吾は多少不満そうだったが、
素直に跪いた。
大吾の肩に乗ると、
鉄格子の金網と
俺の目線が同じ高さになった。
俺は金網に金切り鋏を突き立てた。
作業は思ったよりも早く終わった。
金網が取り除かれて、
ぽっかりと大きな穴が口を開けた。
最後に。
俺は穴に沿って手を当てて、
危険がないことを確認してから、
大吾の肩から下りた。
「これなら通り抜けられるだろ」
俺は皆の顔を見回した。
「うん!」
「すげーぜ、あっくん」
「私。
スカートだけど大丈夫かしら」
翔太と洋は目を輝かせながら、
そして茜は多少不安そうに、
穴を見上げていた。
大吾だけは黙って穴を睨んでいた。
「よし、行こうぜ。
翔太」
洋が真っ先に鉄格子に飛びついた。
そして身軽な身のこなしで、
穴を抜けると、
向こう側へ着地した。
「洋。
待ってよ!」
すぐに翔太も後を追った。
スカートを気にしていた茜も、
俺と大吾に
「見ないでね」
と釘を刺してから、
鉄格子に手を掛けた。
翔太は鉄格子の向こうから、
茜が穴を抜けるのを
心配そうに見守っていた。
茜が向こう側へ下り立ったとき、
上から洋の声がした。
「おーい。
見晴らしが最高だぜ。
早く来いよ」
「洋、1人でずるいぞ!」
「翔太さん、
私達も行きましょ」
翔太と茜が階段を駆け上がっていき、
俺と大吾が取り残された。
「どうした。
行けよ」
大吾は興味無さそうに呟いた。
「大吾、
上に行けば排水管を使って、
お前を引き上げる方法が
あるかもしれない。
皆で考えるからここで待ってろよ」
俺は大吾を残して穴を抜けた。




