第28話 体操着泥棒
「今日ね。
3時間目に
体育の授業があったじゃない?」
空になった俺のグラスに
アイスコーヒーを注ぎながら、
奥川が言った。
「うん?」
「それでね。
帰りに荷物を見たら、
私の体操着が無くなってたの」
奥川は大きく溜息を吐いた。
「誰かが間違えて持って帰ったのか?」
「そんなわけないでしょ」
奥川は腕を組んで頬を膨らませた。
少し怒っているようだった。
ならば。
奥川は誰かが
故意に体操着を盗んだと
考えているのだろうか。
すぐに大吾の名前が浮かんだ。
「先生には言ったのか?」
「言わないよ。
実はちょっと前から、
他にも体操着がなくなった
っていう子が何人かいるの。
それに。
私達のクラスだけじゃなくて、
先週は隣のクラスの実果も、
体操着がなくなったらしいのよ」
俺が他人のことを
言えた義理ではないが、
世の中、
変わった性癖の持ち主は、
少なからず存在している。
しかし。
小学生のうちから体操着泥棒とは
将来が心配である。
「へぇ」
「『へぇ』じゃないわよ、もう!」
俺の反応に不満なのか、
奥川はまた頬を膨らませた。
「ごめん、ごめん。
でも被害者が多いなら、
尚更先生に言うべきだろ?」
「わかってないな、
あっくんは」
奥川は小さく溜息を吐くと、
アイスコーヒーを一口だけ飲んだ。
「その先生が犯人だったら、
どうするのよ」
「えっ?」
予想外の答えだった。
「ナカマイ先生が
何のために
そんなことをするんだよ?」
奥川は一体何を根拠に、
そんなことを考えたのだろう。
「誰もナカマイ先生が犯人とは
言ってないでしょ。
私達の間では、
犯人はボス猿じゃないか
って話してるの」
ボス猿。
それは子供達が影で呼んでいる
猿田権造の渾名だった。
猿田は男子生徒には厳しかったが、
女子生徒には甘かった。
そして。
猿田が時折、
いやらしい目で
女子生徒を見ていることは、
子供達の間では有名だった。
奥川の話を聞いて、
ボス猿なら
あり得るかもしれないと思った。




