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黄昏は悲しき堕天使達のシュプール  作者: Mr.M
二章 Renewal 5月

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23/136

第23話 2種類の人間

帰りの挨拶が終わり、

子供達が一斉に教室から出ていった。

その中には奥川の姿もあった。

「おい。

 逃げるんじゃねえぞ」

その時。

背後から声がした。

振り返ると、

大吾がお供の3人を従えて立っていた。

「お前ら。

 こいつが逃げないように、

 見張ってろよ」

大吾は3人にそう命令すると、

先に教室を出ていった。

俺は

「早くしろよ」

という洋の言葉を無視して、

ゆっくりと時間をかけて

鞄に荷物を入れた。

そして。

予め道具箱から出しておいた彫刻刀を

ポケットに忍ばせた。

「行こうか」

俺は翔太と洋に挟まれて教室を出た。

後ろから茜が黙ってついてきた。


靴箱に相馬がいた。

彼女は俺達に好奇の目を向けた。

だがそれも一瞬のことで、

すぐにいつもの無表情に戻ると、

「サヨナラ」

と言って校舎を出ていった。

その挨拶が、

誰に向けられたものなのかわからず、

俺達は誰も返事をしなかった。

「・・相馬って変わってるよな」

洋が誰にともなく同意を求めた。

「いつも1人で難しそうな本を

 読んでるもんね」

難しそうな本を読んでいる人間が、

変わっているという翔太の発言には、

大きな語弊があるが、

概ね翔太も洋の意見には

賛成のようだった。

「私は相馬さんは、

 ちょっと苦手・・かな」

茜は独り言ちた。


俺達は渡り廊下を歩いて、

校舎の西へ向かった。

先頭を洋が。

続いて俺。

そして。

後ろから翔太と茜がついてきていた。

洋に

「どこに行くのか」

と聞いたら、

「体育館だよ」

という翔太の声が返ってきた。

そういえば。

以前にも放課後、

奥川と体育館へ向かったことを

思い出した。

気が重いという点では、

あの時と同じだった。

「そうだ。

 1つ聞きたいことがあるんだけどよ」

ふいに。

洋が足を止めて振り向いた。

しかし。

洋は口を閉ざしたままで、

その先を話し出そうとしなかった。

「どうした?

 聞きたいことがあるんだろ?

 早く言えよ」

「え、えっと・・。

 あ、あっくんってさ。

 奥川と付き合ってるんだろ?」

こんな時に何を言い出すのかと、

俺は少々拍子抜けした。

「それがどうしたんだ?」

「だ、だからさ・・。

 付き合うってどういうことなのか、

 気になってさ・・」

そう言うと、

洋は頭を掻いた。

俺は返答に困った。

「洋が言いたいのはさ。

 2人で何をして

 遊んでるのかなってことだよ」

翔太が洋の言葉を補足したが、

その質問にも答え難かった。

「別に・・。

 話をしたり、

 勉強をしたりしてるだけさ」

そう言いながら、

俺は奥川を脱がせた

あの夜のことを思い出していた。

「やっぱり2人は結婚するのかしら?」

茜の質問は、

あまりにも飛躍しすぎていた。

「そんな先のことはわからないよ」

俺はそう答えたが、

もしこのまま

奥川と付き合い続けることができたら、

どうなるだろうと思った。

そして。

同窓会に来ていた

30歳の頃の奥川の姿が頭に浮かんだ。

「でも。

 付き合ってるのは、

 お互いに好きだからでしょ?」

茜の追求は止まらなかった。

「そ、そうだな」

「なら結婚するよね?」

「できればいいな」

俺はそう言って誤魔化した。

俺の返答に満足したのか、

茜もそれ以上は聞いてこなかった。

そういえば。

将来、

茜は翔太と結婚する。

同窓会に揃って現れた2人を見て、

俺はお似合いのカップルだなと

羨ましく思ったのを覚えている。

2人はいつから

付き合い始めるのだろうか。


俺達はふたたび歩き出した。

ここからは、

誰も口を開かなかった。


体育館の前の階段に大吾は座っていた。

腕を組んで目を閉じているその姿は、

さながら、

不動明王のような凄味があった。

大吾は俺達が近づくと、

その気配を察したのか徐に目を開けた。

「おせえよ」

大吾は立ち上がると、

ゆっくりと俺の方へ歩いてきた。

そして。

1mほどの距離まで近づいてくると、

足を止めた。

大吾はただ黙って、

俺を睨んでいた。

その眼力は相当なモノで、

子供であれば

誰もが逃げ出すに違いない。

いや。

大人でも。

この眼で睨まれたらどうなるか。

仕事柄、

何度かその筋の人間と

やり合ったこともあるが、

今の大吾ほどの眼力を持った人間には、

それほどお目にかかったことはない。

人間には2種類いる。

人を殺せる人間と殺せない人間。

前者に属する人間は圧倒的に少ない。

そして。

大吾は前者に属する人間だった。

ただし。

それは決して褒められたことではない。

それは恥ずべきことなのだ。

前者に属する人間は、

どこか欠陥がある。

俺はポケットに手を入れて

彫刻刀を握った。

もし。

大吾が襲い掛かってきたら、

俺は容赦なくその体に

彫刻刀を突き立てるだろう。

泣き叫ぶ大吾を想像すると

自然と口元が緩んだ。

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