第18話 映画代
夕食の席で、
箸の進んでいない俺を見て、
母は怪訝な表情を浮かべていたが、
俺が
「今夜友達と映画に行く約束をした」
と言うと、
「お菓子を食べるつもりなのね」
と1人で納得していた。
この時代。
土曜日はオールナイトといって、
深夜まで映画が上映されていた。
映画は子供達にとって、
かけがえのない娯楽の1つだった。
校則により20時以降の外出は、
父兄同伴とされていたが、
6年生でそれを守っている生徒は
ほとんどいなかった。
それに。
子供達の娯楽に付き合うほど、
大人も暇ではないのだ。
俺の家は母が厳しかったが、
それは「前世」に限ったことであって、
「今世」では随分と緩和されていた。
これも。
ひとえに俺の日頃の行いの
賜物と言えた。
「この家に越してきてから、
あっくんが随分と成長したのよ」
数日前に。
母が父にそう話しているのを耳にした。
俺は母に映画代として2000円を貰い、
自転車で家を出た。
それから。
通学路の途中にある
小さな薬局へ向かった。
薄暗い店内には他に客はいなかった。
カウンターにいた禿げたオヤジが
「何か探し物か?
坊主」
と面倒くさそうに聞いてきた。
「避妊具を買ってこいって、
お父さんに言われたんだけど、
ありますか?」
俺は無垢な子供を演じた。
この時代。
コンビニやドラッグストアも
身近ではなく、
避妊具を買うのも一苦労だった。
「お使いとは感心だな、坊主」
オヤジは下卑た笑みを浮かべると、
後ろの棚に手を伸ばした。
大人の目を欺くのは簡単だった。
店を出た俺は、
肩からさげた小さな鞄に、
買ったばかりのモノを押し込み、
力一杯ペダルを踏み込んだ。




