第17話 苦い記憶
苦い記憶が蘇る。
高校2年生の時だった。
初めて彼女ができた。
隣のクラスの女の子だった。
彼女の名前は長野しのぶ。
茶色のショートカットが似合う
元気な子だった。
付き合い始めて半年が経ったある日。
両親が出かけて1人になった家に、
俺は彼女を誘った。
俺達は家の近くの
レンタルビデオ店に行って、
彼女が観たいという映画を借りた。
まだDVDすらない時代だ。
借りたのは、
数年前に話題になった洋画だった。
俺がビデオテープをデッキに入れると、
彼女はカーテンを閉めて、
部屋を暗くした。
「こうすると。
映画館にいるみたいだね」
彼女は笑って俺の隣に腰を下ろした。
映画は、
ベッドの上で男女が交わっている
シーンから始まった。
男の上に跨ったブロンドの女が、
男の両手をベッドの柵に縛り付けて、
激しく腰を振っていた。
女の腰の動きが徐々に激しくなった。
女は絶頂を迎える直前に、
ベッドスローの中に手を忍ばせた。
次の瞬間。
女が絶頂と共に、
手に握ったアイスピックを
男めがけて振り下ろした。
1度。
2度。
女は髪を振り乱しながら、
何度も何度もアイスピックを
男の体に突き刺した。
衝撃的だった。
その殺害のシーンも勿論だが、
初めて映像として、
男女の営みを目にしたことが、
俺の頭を痺れさせた。
俺は隣の様子をそっと窺ったが、
彼女は平然と画面を見ていた。
その後も。
ストーリーに集中しようとする度に
挿入される官能的なシーンが
俺の心を乱した。
3度目の絡みが始まったその時。
彼女が俺の肩に頭を預けてきた。
心臓が早鐘を打った。
俺は右手をそっと彼女の肩に回し、
小さく息を吐き出した。
それから。
俺は左手で彼女の頬に優しく触れた。
彼女は目を閉じていた。
俺は彼女の唇に自分の唇を重ねた。
初めてのキスだった。
直後。
彼女の舌が俺の口内に侵入してきた。
一瞬。
戸惑ったものの、
俺も彼女の舌を貪った。
そして。
震える手で彼女の服を脱がせた。
俺は彼女の白い肌に触れ、
その滑らかさと柔らかさに感動し、
生い茂った森に守られた
秘密の洞窟から溢れ出る
甘酸っぱい聖水で口を潤した。
しかし。
いざ、
彼女の洞窟へ侵入を
試みようとしたその時。
肝心の分身が、
萎縮していることに気付いた。
彼女はそんな俺の分身を、
口や手で優しく愛してくれた。
それでも。
俺の分身は殻に閉じこもったまま
ピクリとも反応しなかった。
「こんな日もあるよ」
別れ際に。
彼女はそう言って、
俺を慰めてくれたが、
その言葉がより一層俺を惨めにした。
彼女は「こんな日も」と言った。
まるで「こんな日じゃない日」を
知っているような彼女の口振りに、
俺は小さな疑いを抱いた。
1週間後。
2回り以上年上の男と
腕を組んで歩いている彼女と、
街中でばったり出会った。
すれ違う時。
彼女は俺の方を一度も見なかった。
俺達の関係は自然に消滅した。
そして。
俺は青春時代を参考書と共に過ごした。
俺は高校を首席で卒業すると、
この国で最も偏差値の高い大学へと
進学した。
大学に入学してすぐ、
3つ年上の先輩とホテルへ行った。
俺は酒を飲み、
過去の苦い思い出を忘れるように、
彼女の体を貪った。
だが。
そこでも俺の分身は萎縮していた。
俺が酒のせいと言い訳をすると、
彼女は
「大丈夫?」
と言って笑っていた。
それから。
俺は「女」とは無縁の人生を
送ってきた。




