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黄昏は悲しき堕天使達のシュプール  作者: Mr.M
二章 Renewal 5月

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第19話 アイスコーヒー

門扉は軽く押すだけで開いた。

玄関の前で、

俺は一度大きく深呼吸をしてから、

呼び鈴を鳴らした。

しばらくすると。

玄関のドアが開いて、

笑顔の奥川が顔を出した。

「いらっしゃい」


玄関を入ると。

すぐ目の前にホールが広がっていた。

奥川は右手にある階段へ向かった。

俺は急いで後を追った。

階段を上っていく奥川の

ショートパンツから伸びた

白く健康的な太ももが目に入った。

俺は思わず、

ごくりと唾を飲み込んだ。

2階の一番手前の部屋が、

奥川の部屋だった。

奥川は俺に中に入るよう促してから、

「ちょっと待ってて」

と言って、

ふたたび階段を下りていった。


俺は中へ入り、

さり気なく室内を見回した。

勉強机、

本棚、

そしてベッドが整然と置かれた部屋は、

小学生の少女にしては、

落ち着きすぎている気もした。

窓に引かれた

薄いピンクのカーテンが

部屋の主が女の子であることを

告げていた。

その時。

俺の目が、

ベッドの上に

脱ぎ捨てられたモノを捉えた。

広げられたTシャツの下から、

淡い水色の紐が顔を覗かせていた。

どくん。

心臓が跳ねた。

俺はすり足でベッドに近づいた。

どくん。

心臓の鼓動が指先まで伝わったのか、

俺の手は微かに震えていた。

Tシャツに手を伸ばしかけた時、

ドアの開く音がした。

俺は咄嗟に姿勢を正して、

ドアに正対した。

グラスとケーキの乗ったお盆を持った

奥川が立っていた。

「お、奥川・・」

奥川は

「そこに座って」

と微笑んだ。

「う、うん」

俺は内心の動揺を隠しつつ、

その言葉に従った。

フローリングの床に腰を下ろしてから、

俺は小さく深呼吸をした。

奥川はテーブルにお盆を置いて、

ケーキとグラスを並べた。

俺はグラスに手を伸ばし、

心を落ち着けるように

ゆっくりと一口飲んだ。

絶妙なバランスの苦みと酸味が

口の中に広がり、

香ばしい香りが鼻から抜けた。

それらは俺の記憶を刺激した。

以前何度か通った

喫茶店のコーヒーを思い出した。

店主のこだわりが強い店だった。

「美味しいな。

 このアイスコーヒー」

俺がそう言うと、

奥川は目を丸くした。

「シロップとクリームを

 入れないで飲むなんて。

 苦かったでしょ?」

奥川はくすくすと笑った。

一体、

何が可笑しいのかわからず、

俺は首を傾げた。

そんな俺の仕草に、

奥川は一瞬キョトンとしたが、

すぐにまた声を出して笑い始めた。

そこでようやく。

俺はその理由に気付いた。

確かに。

コーヒーに砂糖を入れずに飲む

小学生は珍しいだろう。

そして。

俺も噴き出した。

俺達は顔を見合わせ、

しばらく笑い合った。


それから。

俺達は他愛もない話をして過ごした。

話題はクラスメイトや教師のことなど、

主に学校のことだ。

2人でケーキを食べながら、

俺はシロップを入れないまま、

アイスコーヒーを飲んだ。

グラスが空になると、

彼女がお代わりを持ってきた。

俺が豆の種類を訊ねると、

姉が冷蔵庫に作り置きをしているから、

わからないという答えが返ってきた。

どうやら。

奥川はコーヒーには

あまり興味がないようだ。

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