第131話 嫉妬というこの世で最も愚かで醜い感情
俺は一旦教室へ戻って、
荷物を取ってから靴箱へ向かった。
俺は自分自身を納得させるため、
「正義」という言葉を免罪符に
あの男を罰した。
しかし。
本当はそうではないことを
知っていた。
『お前は。
少女と一線を越えないよう
自制した。
にもかかわらず。
あの男は少女達を
己の欲望のままに犯した。
それが羨ましく、
妬ましかったのだろう』
そう。
俺は嫉妬という
この世で最も愚かで醜い感情で、
あの男を罰したのだ。
「正義」という言葉は、
自分の行為を正当化するための、
言い訳に過ぎなかった。
どれほど崇高な理念を掲げようとも、
実力行使に及んだ時点で、
それは「正義」ではない。
『だが。
それの何が悪い』
薄暗い廊下を1人で歩いていると、
心が少しずつ
闇に浸食されていく気がした。
靴箱の前で俺は足を止めた。
玄関に立つ
少女の小さなシルエットが見えた。
俺の気配に気付いたのか、
少女が振り返った。
「茜・・」
茜の表情が、
ホッとしたように緩んだ。
「あっくんが心配だったから」
そう言って、
茜は微笑んだ。
俺達は並んで校舎を出た。
ボス猿の死体を発見した
あの日と同じだった。
あの日の空は、
ボス猿の血に染まった
花壇の花と同じマゼンタ色だった。
今は真っ黒な空が頭上に広がっていた。
「あっ、雪!」
ふいに。
茜が空を見上げた。
釣られて俺も頭上を仰いだ。
小さな結晶がパラパラと顔に当たった。
「わぁ、冷たいっ」
茜は両手を丸くして、
落ちてくる雪を集めていた。
「積もるかしら?」
「ああ、きっと。
来週の終業式の日は、
皆で雪合戦ができるかもな」
「そうなったら楽しいね」
「ああ」
茜は何も聞いてこない。
たとえ聞かれたとしても。
俺は本当のことを
話すつもりはなかった。
雪の粒が、
少しずつ大きくなってきた。
茜は両手を頭に載せ、
降りしきる雪を防いでいた。
「・・あれ?
今、どこかで声がしなかった?」
茜がキョロキョロと周りを見回した。
俺は茜の頭上でそっと傘を広げた。
「あっくん、
傘を持ってきたの?」
「雪が降るような気がしてたんだ」
「すごい!
超能力者みたい」
そう言って、
茜は笑った。
「そういえばあっくん。
朝、
持ってたゴミ袋には
何が入ってたの?」
「あの中には。
もう着れなくなった体操着が
入ってたんだ」
茜が目を丸くした。
「少し早いクリスマスプレゼントさ」
この程度なら。
手品の種明かしにはならないだろう。
「ふーん。
変なプレゼント。
そんな物を貰って、
喜ぶ人なんているのかしら」
茜は不思議そうに首を傾げた。
「茜、
雪が強くなってきたぞ。
急いで帰ろう」
「うん!」
俺のクリスマスプレゼントは、
毛布の代わりにはならないだろう。
それでも。
大好きな少女達の温もりは
感じることはできる。
その中には葉山の物もある。
『甘美な絶望に包まれて凍えて死ね』




