第125話 俺にしか立てられない計画
12月19日。火曜日。
朝。
俺はいつもより1時間以上早く家を出た。
外はまだ暗かった。
学校に着いた時。
校舎には鍵が掛かっていた。
俺は校庭の隅にある
体育倉庫の陰に隠れて、
校舎の様子を窺った。
時刻は6時30分を
少し過ぎたところだった。
こんなに早く来ることもなかったかと
俺は欠伸を噛み殺した。
しばらくすると。
校舎の裏から
車のエンジン音が聞こえてきた。
音が止んで数分後。
校舎の陰から
坊主頭に髭面の大男が姿を現した。
前田利通だ。
こうして見ると
その身長は190cm以上ありそうだった。
男は玄関の鍵を開けて、
校舎の中へと消えていった。
朝日が射してきた校庭を横切って、
俺は玄関へ走った。
靴箱のところで、
念のために周りを窺ったが、
前田の姿はなかった。
俺は茜の靴箱を覗いた。
上履きがあるだけで異常はなかった。
俺は廊下の陰に身を潜めて、
靴箱を見張った。
結局。
その後何事も起こらず、
次々と子供達が登校してきた。
そして。
その中には茜の姿もあった。
茜は俺に気付くと笑顔で駆けてきた。
俺達は一緒に教室へ行った。
1時間目の算数の授業が始まると、
俺は早くも欠伸が出てきた。
少しでも眠気を紛らわせるために、
俺は犯人について思考を巡らせた。
今朝。
茜の靴箱に異常はなかった。
男は茜との連絡に
靴箱を利用していた。
そして。
封筒が入っているのは、
決まって朝だった。
登校してきた茜が必ず気付くからだ。
封筒には紙が入っていて、
場合によっては、
屋上の鍵が
同封されていることもあった。
紙にはその日の待ち合わせ時刻が
書かれていた。
鍵が入っている時は、
茜が先に屋上へ行き、
男を待つことになっていた。
茜の方から連絡を取るのは、
緊急時に限られていた。
その場合は、
昼休みが終わるまでに、
メッセージを書いた紙を
靴箱に入れておく。
茜が男と会うのは、
いつも屋上だった。
屋上の鍵は
校長が管理しているはずだが、
その管理は杜撰だったのだろう。
現にナカマイ先生も
簡単に鍵を持ち出していた。
もしかすると。
男は合鍵を作っているのかもしれない。
どちらにせよ。
茜は薄い毛布の上で、
男の慰みものにされた。
男は自分勝手に欲望を処理すると、
さっさと茜を屋上から追い返した。
目を閉じれば。
あの日の茜の姿が
はっきりと瞼の裏に浮かぶ。
毎朝、
登校して靴箱を見るのが怖かったと
涙ながらに語った茜の姿が。
俺は茜の方に目を向けた。
ナカマイ先生の話に耳を傾けながら、
茜は真面目にノートを書いていた。
ふいに。
茜が顔を上げて振り返った。
茜は俺と目が合うと、
ニコッと微笑んだ。
時に笑顔は人を苦しめる。
茜の笑顔に、
俺は胸が張り裂けそうになった。
俺は無理に笑顔を作った。
そして。
俺は窓の外の景色に目を向けた。
次の瞬間。
頭の中を稲妻が貫いた。
同時に。
眠気が一気に吹き飛び、
意識が覚醒した。
俺は思考に集中した。
今学期最後の
授業がある22日は金曜日。
都合がいい。
この絶妙なタイミングに
天の意志を感じた。
いや運命か。
未来を知る俺にしか
立てられない計画。
必要な材料はすべて揃っている。
犯人は、
ボス猿を屋上から突き落としたことを
後悔するだろう。
まさかそれが、
自らの首を絞めることになるとは
思ってもいないはずだ。
『後悔先に立たず』
問題は。
男が茜を呼び出すかどうかだが、
これをクリアするのは簡単だと思った。
人は欲望に抗えない。
自然と口元が緩んだ。




