第111話 放課後は恋人達のランデヴー
午後からの授業は、
すべて自習になった。
といっても。
ナカマイ先生は教室にいて、
机に座って何やら考え事をしていた。
6時間目が終わり、
ナカマイ先生は
帰りの会を早々に切り上げると、
挨拶もそこそこに、
そそくさと教室を出ていった。
子供達も次々と席を立ち、
教室を後にした。
その中には。
奥川、相馬、そして茜の姿もあった。
俺と翔太、そして洋の3人が
教室に残っていた。
6時間目の自習の時に、
翔太が算数の問題がわからないと
言っていたので、
俺と洋で教えることになったのだ。
最初のうちこそ翔太も
「うんうん」
と熱心に俺の話を聞いていたものの、
10分もすると、
大きな欠伸を漏らし始めた。
「おい、翔太!
せっかく俺とあっくんが
教えてやってるのに、
欠伸をするとは何事だ!」
「何だよ。
さっきから、
あっくんが説明してるだけで、
洋は何もしてないくせに」
「何だとー!」
洋が身を乗り出した。
「まあまあ」
俺は慌てて、
2人を宥めた。
窓の外では、
しとしとと雨が降り続いていた。
「あ~あ、
一服したいなぁ」
「ベランダでこっそり吸うか?
ひひひ」
洋の言葉に翔太はこくりと頷いた。
「待て待て、お前ら。
職員室には
まだ教師が残ってるんだぞ」
俺は慌てて2人に注意した。
「あっくんは心配性だなぁ」
「細かい男は嫌われるぜ」
俺の言葉に2人は不満そうだった。
「あ~あ。
雨って本当に嫌だね」
いつの間にか。
翔太は教科書を閉じていて、
洋も窓から外を眺めていた。
雨脚が少しだけ弱くなっていた。
「ねぇ、どうする?
一服できるところを探さない?」
「う~ん。
体育館に侵入できれば良いけど、
あそこは職員室から近いし、
危険だよな」
翔太と洋はまだ煙草を吸うことを
諦めていなかった。
「でもさ。
ナカマイ先生ならもう帰ってるよ」
「教師は
ナカマイ先生だけじゃないぞ」
俺は即座に指摘した。
「今頃。
ナカマイ先生とヒーローは
デートしてるんだよな。
ひひひ」
「そうだね。
でもナカマイ先生が
ヒーロー先生のことを
好きだったなんて驚いたよね」
「おい!
ちょっと待て。
ナカマイ先生と一色がデートって
どういうことだ!」
2人の会話の内容は
聞き捨てならなかった。
「そっか、
あっくんには
まだ話してなかったんだ」
翔太がポンと手を叩いた。
「実は僕達。
昼休みにすごい場面を
目撃したんだ。
ねえ、洋」
「ひひひ。
正確には耳にした
って言うべきだけどな」
そして2人は話し始めた。
昼休み。
数人の男子と
「かくれんぼ」
に興じていた翔太と洋は、
それぞれ隠れ場所を探している途中、
偶然にも屋上の扉の手前にある
掃除用具入れの前で鉢合わせた。
掃除用具入れは、
無理をすれば
2人で隠れることも可能だったが、
見つかった時は、
2人同時というリスクもある。
どっちが隠れるか、
じゃんけんで決めようとしたその時。
階段を上ってくる足音が聞こえた。
2人は急いで、
掃除用具入れの中へ身を隠した。
足音は2つあった。
そして。
足音は掃除用具入れの前で止まった。
ふいに声がした。
「話ってなんですか。
畑中先生」
その声の主は一色拓海だった。
「今ここでは話せません。
放課後。
お時間を頂けますか」
「いやぁ。
モテる男は辛いなぁ。
魅力的な畑中先生からのお誘いは
光栄なんですがねぇ。
実はですねぇ・・」
「兎に角!
放課後。
よろしくお願いします」
そして。
階段を駆け下りる足音と、
その足音から少し遅れて、
「畑中先生!
放課後は恋人達のランデヴー!」
と叫ぶ一色の声が聞こえた。
「というわけなんだよ、あっくん。
どう思う?」
「まさかナカマイ先生がなー。
ひひひ」
俺は教室の時計を見た。
帰りの挨拶を終えてから、
すでに40分以上が経過していた。
俺は2人に用事を思い出したと伝えて、
教室を飛び出した。




