第103話 深い霧
「ピーヒョロロ」
どこかで鳶が啼いていた。
「運動会が終わって少ししてから。
学校に変な噂が広まったでしょう?
覚えてる?」
俺が流した最初の噂のことだ。
俺は小さく頷いた。
「私達教師の誰もが、
悪質な噂と思って無視していたけど、
彼だけは違った。
彼はその噂に、
少なからず真実が隠されていると
考えていたの」
ナカマイ先生の声が遠くから聞こえる。
悪い夢を見ているようだった。
「・・彼が亡くなったあの日。
昼休みの後で、
彼は私に言ったの。
『今日。
葉山の死の真相が
わかるかもしれない』
って」
彼が亡くなった
という言葉のところで、
一瞬、
ナカマイ先生の声が震えた。
「でも結局。
それが彼と交わした
最期の言葉になって・・」
ナカマイ先生は、
指先でそっと目尻を拭った。
眩暈がした。
俺は倒れそうになるのを
足に力を入れて踏ん張った。
俺の出した手紙に
ボス猿が誘われたのは、
葉山の死の原因を探るためだった。
額に浮かんでいた汗が
頬を伝って地面に落ちた。
足だけではなく、
手も震えていた。
俺はそれを悟られないように、
後ろ手に組んだ。
「彼はきっと殺された。
彼が葉山さんについて
調べていることを
快く思わなかった人間に」
そこまで話すと、
ナカマイ先生は
「ふぅ」
と息を吐いた。
「犯人は・・。
この学校の私達教師の中にいる」
一陣の風が吹いた。
フェンスに手を掛け、
校庭に目を向けている
ナカマイ先生の横顔を、
俺は下からじっと見つめていた。
「・・ごめんね。
こんな話。
君に話しても仕方がないのに」
ナカマイ先生が
俺に向かって微笑んだ。
俺は自分でもわかるほどの
ぎこちない笑みを返した。
「何だか立場が逆ね。
でも不思議なの。
君は時々、
すごく頼もしい時がある。
兎に角。
君に話してすっきりしたわ」
そう言ってナカマイ先生は
大きく背伸びをした。
「でも。
君はもうこの話は忘れるのよ。
特に。
犯人がこの学校の
教師の中にいるって言ったのは、
先生1人の考えで、
何の証拠もないから。
絶対に他の人に言っちゃだめよ」
「う、うん・・」
俺は精一杯元気に返事をしたが、
心の中は深い霧に包まれていた。




