第102話 暗い影
足が小さく震えていた。
俺は口の中が、
カラカラに乾いているのを感じた。
それでも。
俺は辛うじて言葉を絞りだした。
「せ、先生・・。
そ、それってどういう意味?」
ナカマイ先生は
少し困ったような表情を浮かべた。
話し過ぎたことを、
後悔しているようだった。
やがて。
ナカマイ先生は
ゆっくりと口を開いた。
「私と彼は・・。
将来結婚するつもりだったの。
でも。
彼の両親がそれに反対しててね。
原因は、
私の実家にあるんだけど・・」
彼女はそこで言葉を濁した。
考えた結果。
2人は既成事実を作ることにした。
つまり子供である。
しかし。
その過程で、
ボス猿には
子供が作れないことが判明した。
「彼には。
葉山さんを妊娠させることなんて
できなかったの。
あの遺書に書かれていたことは、
全部嘘」
「それなら。
葉山を殺したのは別人・・」
自然と声が漏れた。
ナカマイ先生の話が本当であれば、
ボス猿の遺書は偽物である。
しかし。
遺書には葉山の妊娠という
葉山を殺した犯人しか
知りえない情報が書かれていた。
つまり。
葉山を殺した犯人が
ボス猿の遺書を書いた。
一体何のために?
そもそもなぜあの時。
ボス猿は死んでいたのか?
まさか。
ボス猿は葉山を殺した犯人に
殺されたのか?
そして。
その死は自殺に偽装された。
すーっと血の気が引いていくのが
わかった。
「私はそのことを警察に話したの」
思考の海で溺れそうになる寸前に、
俺はナカマイ先生の声で
現実に引き戻された。
俺は大きく息を吸い込んだ。
「でも。
妊娠する可能性はゼロではないし、
遺書で本人が認めてるからと
相手にされなかった。
私はその遺書が
偽物だって主張してるのに・・」
前提が誤っている故に、
当然結論も誤っているという
主張に対して、
結論が正しい故に、
前提も正しいという主張。
話が噛み合うはずがない。
真っ赤に染まった空に、
薄っすらと暗い影が差し始めていた。




