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黄昏は悲しき堕天使達のシュプール  作者: Mr.M
八章 Return 11月

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101/136

第101話 虚実

「先生はね。

 猿田先生が自殺したなんて、

 どうしても信じられないの。

 見つかった遺書にしても、

 あれは彼が書いたモノじゃない」

ふいに。

ナカマイ先生はそんなことを言った。

恋人が自殺をしたというだけでも、

その悲しみは筆舌に尽くし難いのに、

その恋人は、

教え子と関係をもっていた。

教え子といってもまだ子供である。

そして。

教え子の妊娠がわかると、

非情にもその命を奪った。

そんな事実から。

目を背けたいという

ナカマイ先生の気持ちは理解できる。

しかし・・。

「猿田先生はね。

 悩みを抱えていた葉山さんの

 相談に乗っていたの」

ぼんやりと考え事をしていた俺は、

ナカマイ先生の言葉に

すぐに反応することができなかった。

俺は洋が屋上で目撃したという

ボス猿と葉山の様子を思い出した。

洋は葉山が泣いていたと言った。

それを見た洋は、

ボス猿が葉山を泣かせたと思った。

実際。

同じような状況に出くわせば、

多くの人間がそう考えるに違いない。

しかし。

それを別の角度から見た場合。

全く違った構図が

浮かび上がるのではないか。

例えば。

泣いていた葉山を

ボス猿が励ましていたのだとすれば。

「・・せ、先生。

 葉山さんは何を悩んでいたの?」

「・・こんなことを。

 君に話していいのかしら」

ナカマイ先生はそう呟くと、

口元に手を当てた。

俺はそんなナカマイ先生の姿を

ただじっと見つめていた。


「ピーヒョロロ」

どこかで鳶が啼いていた。


やがて。

ナカマイ先生は大きく頷いてから、

口を開いた。

「君は他の子に比べて、

 賢いから話すけど。

 葉山さんは・・。

 この学校の誰かから、

 嫌がらせを受けていたようなの」

「い、嫌がらせ・・」

俺は無意識にその単語を繰り返した。

「ええ。

 猿田先生はいち早く、

 葉山さんの変化に気付いたの。

 ある時。

 猿田先生は葉山さんを

 呼び出して訊ねたの。

 彼女は

 『困ってる』と言ったらしいわ。

 でも。

 何に困っているのか、

 具体的なことは、

 一切言わなかったそうなの。

 猿田先生も。

 無理には聞き出そうとせずに、

 しばらく様子を見ることにしたの」

ナカマイ先生の声が、

ぼんやりと耳に入ってくる。

「そんな中。

 夏休みになって、

 あんなことが起こった・・」

あんなこと・・。

「猿田先生は、

 無理にでも葉山さんの悩みを

 聞き出しておくんだったと

 自分を責めていたわ」


これは夢か。

はたまた俺は狐に化かされているのか。

俺は目の前に立つ、

ナカマイ先生の顔をじっと見つめた。

その表情は、

嘘を吐いているようには見えなかった。

そもそも。

ナカマイ先生が

俺に嘘を吐く理由がない。

ならば。

ボス猿がナカマイ先生に

嘘を吐いていたのか。

何のために?

自分と葉山の関係を隠すため?

しかしそれは。

ナカマイ先生が2人の関係を疑っていた

ということが前提になる。

だがナカマイ先生は

遺書に書かれたような2人の関係を

信じていない。

つまり。

ボス猿がナカマイ先生に

嘘を吐く理由もない。

では。

葉山がボス猿に嘘を吐いていた

という可能性はあるだろうか。

それこそ無意味だ。


「せ、先生・・。

 その話は本当なの?

 何かの間違いじゃないの?」

それでも。

俺は確認せずにはいられなかった。

「本当のことよ。

 私も一度、

 猿田先生に頼まれて、

 葉山さんに確認したの。

 同性の私には

 話してくれるかもしれない、

 猿田先生はそう考えたのね」

しかし。

葉山はナカマイ先生にも

詳しいことは話さなかった。

「私は葉山さんから

 信用されてなかったのかな」

そう言って、

ナカマイ先生は

目尻にそっと指を這わせた。

俺は息苦しさを感じた。

全身の毛穴から、

じっとりと汗が

吹き出してくるのがわかった。

「遺書は偽物。

 猿田先生は、

 絶対に葉山さんを殺してないし、

 遺書に書いてあったような

 不適切な関係には

 なっていないことだけは、

 断言できる」

ナカマイ先生の目が

俺の目を正面から捉えた。

恋人を信じたいという

ナカマイ先生の想いが、

痛いほどに伝わってきた。

だが。

葉山の妊娠は事実なのだ。

そのことだけが引っかかっていた。


「だって。

 彼には子供を作ることが

 できなかったのよ」

続くナカマイ先生の言葉は、

俺の目の前の景色から、

色という色をすべて奪っていった。

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