リトライ上限
もちろん、再び目を覚ました。
場所は田園都市線、桜新町を出発した直後の車内だ。
格闘技に疎い私でもわかる。あの高校生は世界を狙えるスピード、正確さ、そして破壊力を持っている。そんな分析はどうでもいい。とにかく圧倒的に恐ろしいし、殴られる理由が皆目見当もつかない。
渋谷の1つ手前の池尻大橋で待ち伏せされていたなら、2つ手前の駒沢大学駅で降りれば会わないのではないか?
どうにでもなれと、駒沢大学で電車を降りた。
よかった。高校生の姿はない。
安堵したのも束の間、社用Androidから「メモリーの使用量が上限に達しました。」と通知が届いた。再びタイマーが作動する。今度のタイマーは20秒ほどある。
周囲を見回すが、iPhone高校生はいない。それどころか、ホームに人が誰もいなかった。入場規制でもかかっているのだろうか?
何にせよ、殴られる心配はなさそうだ。
その時、遠くから巨大な風を切るような音が響いてきた。
飛行機だろうか?
線路の奥から、土埃を舞い上げてこちらへ一直線に進んでくる人影が見える。
絶句した。あのiPhone高校生だ。
飛んでいる……常軌を逸している。
迫り来る彼女とは逆の方向へ走り出したが、私の足は遅い。
スーパーマンのような体勢で飛来した彼女は、片手のiPhoneを私の額に叩きつけた。
鈍い音とともに、私の頭部が胴体から離れる。
宙を舞う頭の中で、(なんでこんな目に遭うんだ……)と虚しく呟いていた。
「もう……嫌だ……」
電車の天井を見つめながら意識が戻った。心拍数が跳ね上がったままだ。
Androidに「メモリーの使用量が上限に達しました。」と通知が入る。タイマーのタイミングが早くなっている。まだどの駅にも着いていない。
さらに続けて画面にテキストが表示された。
『リトライ回数がマックスに達しました』
『管理画面から詳細を確認してください』
リトライ? 管理画面?
そんな設定画面があっただろうか。設定アプリを開いて探すが、それらしき項目は見当たらない。
頭が宙を舞った瞬間の記憶が蘇る。
どうして私だけがこんな目に遭わなければならないのか。沸々と理不尽への怒りが込み上げてくる。




