異世界転生者はゲーマー過ぎるッッッ!!!
ラグニアがティシーと共にアダマス王国を目指して、少しが経過しようとしていた。
「ねぇティシー。
さっきの街で簡単なクエストでもこなして、少しでもお金を手に入れておいた方が良かったんじゃ……?
食事とか宿屋とか……」
ラグニアは記憶と常識は完全に欠落していたが、生前にゲームかアニメの類で得た知識によって多少こういう世界観に対しては精通していた。
「オニーサン、それなら問題ないよ♡♡♡
ティシーが熱いキスで『不老の身体』をプレゼントしてあげたでしょ〜〜〜???
極端な話、なーーーんにも食べなくても死なないから安心して♡♡♡
勿論、食べた方が体力とか魔力とかの回復速度は上がるけど、そんな面倒な事しなくてもティシーがぜーーーんぶ回復してあ・げ・る♡♡♡から♡♡♡」
「……成る程……ありがとうね、ティシー……」
「ふふん♡♡♡」
ドヤ顔のティシーを見るとこれ以上は何も言えなかった。
(お腹は鳴らないし空腹で死なないにしても、我慢出来そうな程度の空腹感はなんかずっと有るんだよなぁ……)
「それに〜〜〜。
彼処の人達み〜〜〜んな怯えちゃってて、お互い居心地悪いでしょ〜〜〜???」
(そりゃあ只でさえアダマス・ドラゴンを倒したのに、殺戮の女神ってバラしたり強そうな人を一方的に殺したらそうなるよね……。僕を思っての行動だったから責めるつもりは無いし嬉しかったけど)
「それなら偽名とか使った方が良かったんじゃ……ギルドカードを出す度にバレるよ……?」
「細かい事は気にしないのーーー!!!
オニーサンはホント、ビビりのざぁぁぁこ♡♡♡なんだから〜〜〜!!!」
頬を膨らませて拗ねた様子……。しかし本気で怒ってるわけでは無さそうだった。
「……あ。
えっと、ご飯は問題無いとして……その……宿屋は……」
「………………キャンプって心躍るよね♡♡♡」
聞こえは良い野宿が決定した瞬間だった。
更に道を歩いていくと、木々が深く生い茂り濃くなってきた。
視界も遮られ慎重に歩くべきなのだが、ティシーは強さ故に、ラグニアは無知とティシーを頼りにしてるが故に、気にせず只管に突き進んでいく。
――カサカサ。
二人の近くの草木が突然動き、微かに音が鳴る。風による自然な揺れではなく、生物が動いた事による直接的な揺れ。何かは分からないが魔力やオーラ、気配から察するにティシーにとっては取るに足らぬ敵。
「経験値だと思って、ここはオニーサンが頑張って♡♡♡」
ティシーは一切手を出さないつもりでいる。腕を組み、大好きなラグニアの初の戦いを思う存分観戦しようと見やすい空へと舞い上がると大きな樹木の上の方の枝へと座った。
「……うん、そうだね。
経験しておかないといざって時に戦えないし。
僕もティシーみたく戦えるようにならないと――ね!!」
ラグニアは辺りを見渡して警戒する。
……。
暫し考えると不意に疑問が頭を過った。
「……あれ?
そういえば僕、武器を何にも持ってないけど……?ティシー?」
ティシーの方を見上げながら尋ねた瞬間、先程の茂みとは別方向から、細い何かがラグニアの首目掛けて飛んでくる――!!
「――ッ!!」
ラグニアは完全に無意識だった。
『あ……死ぬ……』
そう思ったラグニアの身体が急成長を遂げ覚醒したのだ。
ラグニアの両眼が『レモンイエロー』の輝きを放つと、ラグニアの身体にレモンイエローの稲妻が駆け巡る――!!
――バチィッッ!!バチバチチチチッッッ!!
凄まじい光と音を轟かせながら間一髪で『ソレ』を避けるのと同時に両手で掴み、『ソレ』が飛んできた勢いを利用し背負投げの要領で思い切り逆方向へと投げ飛ばすッ!!
――ドゴォォォンッッッ!!!!!
『ソレ』は最初に揺れた場所辺りへと繋がっていて、其処から巨体の影が宙を優雅に舞い、円を描くように開けた場所の地面へと思い切りめり込んだ。
「……僕に……こんな力が?」
ラグニアは無意識の瞳の力ではなく、純粋な腕力の方に驚いていた。稲妻でバフが掛かっていたにせよ、元々の腕力の強さも自分で感じられたのだ。
「オニーサンの身体能力はフツーーーの人間とはもう全ッッッ然違うからねーーー!!!
ほらほらほら、頑張れーーー!!!」
両手を拡声器みたいに口にあてながら、脚をブンブンと振って応援していた。
殺戮の女神だなんて到底思えない、ただの幼女……。お兄ちゃんの応援に来ている小学生の妹のようだった……。
「ギッギギギ……ゴギッッ……ゴゴギ……グギ……ギ……ッッ!!」
煙の中から異形のモンスターが出てきた。
ソレは『スコルピオース』という蟲型魔物の一種、『スコルピオース・スピアー』だった。サソリに似てはいるが、眼は完全に退化し、腕のハサミと尻尾は禍々しい形の槍へと変化している。
槍の先端から紫色の粘度の高い液体がポタポタと垂れていた。
誰が見ても毒だと断定出来るそれが地面へと落ちる度に『ジュウー……』と気味の悪い音を立てながら草花を朽ちさせ地面をも腐らせていく。
「……その毒は喰らったら不老の僕でも流石に死んじゃいそうだね……」
「安心していいよオニーサーーーン!!!
もし死んじゃったらティシーが復活させてあげるからねーーー!!!」
「……その前に助けてはくれないんだね……。
でも、ティシーに頼ってばかりじゃなくて、自力でやれる処までは全力でやらないと……ね」
ラグニアが覚悟を決めると、両眼がレモンイエローからスカーレットへと変わり光り始める。
――いや、光るというよりも淡く燃え上がっていた。
「ギヂヂヂヂッッ!!」
スコルピオース・スピアーが口を開くと口の周りにも槍があり、其処から毒液を水鉄砲のように勢い良く吹き出す!
「ハァ――ッ!!」
ラグニアが空を切るように右手を左から右へと思い切り薙ぎ払うと、スカーレット色の炎の壁がラグニアとスコルピオース・スピアーを隔てるように出来上がり、ラグニアを狙う毒液を一滴残らず燃やし尽くす。
その炎の壁からラグニアが飛び出すと凄まじい速度で距離を詰める。スカーレットの炎が両脚を包み込み、ラグニアの筋肉を活性化させ運動能力を著しく向上させていた。
「グギギヂヂヂヂィィィィ!!」
尾を伸ばし、先端の毒槍がラグニアの左眼を狙う!!
ラグニアは飛び上がると回転しながら余裕で躱し、親指だけを内側へ折り曲げた炎の手刀で尾を切り裂いた。
「グギギィィィィィィィ!!??」
紫色の毒液と緑色の体液が色鮮やかに飛び散るが炎に焼かれラグニアには届かない。この其々の液体が違う毒の効果を有していたのだが、呆気無くラグニアに無効化された為、スコルピオース・スピアーは後ろへ飛び退き距離を取った。
本来は半日程度で完全再生する槍を犠牲に、毒に倒れた相手をゆっくりと捕食する習性を持つ魔物。
毒が効かない相手と判断すると分が悪く、本能で逃走行動へ走る。
しかし、これはラグニアにとっては初陣。経験を上げる絶好の機会なのだ。それを逃がす筈がない。
「どうせ食べる場所無さそうだし、美味しくなさそうだし、食べたくもないし、悪いけど燃やし尽くす……!!」
陸上選手のクラウチングスタートのように低い姿勢を取る。
ゆっくりと吐いた息すらも炎のようにスカーレット色に揺らぐ。
右脚の一点にに力を込めると――
一気に跳躍した。
「ギヂヂヂヂ!!」
スコルピオース・スピアーは反応し両腕の槍をラグニア目掛け突き刺そうとする!!
――が。
槍がラグニアに触れる直前、毒と体液毎、鎧のような外殻と肉が全て沸騰し蒸発しながら溶けて消えていく。
「ヂヂヂヂヂ!?!?」
眼を持たないスコルピオース・スピアーは熱感知の器官を持っていた。
だからこそ分かる。
眼前に迫る異常な熱源の恐ろしさが。
ラグニアはスコルピオース・スピアーの頭部を思い切り殴ろうと拳を振るうが、余りの高音に槍同様にスコルピオース・スピアーの頭部は灼熱に染まりながら溶け落ち、背後の森林を焼失させた。
「はぁ……。はぁ……。か、勝った……」
「やったねーーー!!!」
「あはは、ティシー、僕、やった――よォォォォォッ!?」
枝の上からラグニアの腹に向かって突撃してきたティシーによってラグニアは思い切り吹っ飛んだ。
激突した木が軽く圧し折れた時点で相当な衝撃だったのを物語っていた。
「よくやったね、オニーサン♡♡♡
でもケガしてるね〜〜〜???
やっぱりまだまだまだざぁぁぁこ♡♡♡
後で治してあげる♡♡♡」
「……こ、これは今……ティシーにやられた傷だよ……ゴプッ」
ティシーは心底愉しそうに左眼を純白に光らせると回復魔法をかけてあげた。
ラグニアは少しずつ、この殺戮の女神に与えられた力を使いこなしつつあった。
元々の身体能力やセンスではなく、元ゲーマー兼元オタクとしての知識や経験が活かされていた。
既に先程のギルドに居た冒険者達よりは遥かに強い存在へと成長していた。
(……僕は強くなってやる……!!
ティシーに守られるだけじゃない、守れる存在に……ゴプッ!!)
――傷は深かった。
設定
ラグニアの能力
ティシーと同じく瞳の色を変化させるとそれに応じた能力を行使出来る。今後強くなると、共に全く同じ効果になるのかはティシーにさえも未知数だったが今回の戦いで全く異なる事が判明した。
『不老』によって食べなくても死なないのは、身体がサイクルを必要としていない為。食事で体力や魔力の回復は可能だが、微々たるモノ。空腹感が有るのは前世の感覚の名残り。
スコルピオース
一般的な中級の蟲型の魔物。ハサミと尾の形によって種類分けされるがそれ以外の生態はほぼ同じ。紫色の毒液は地面をも腐らせる。体液は緑色で毒性の酸。腐らせる毒と溶かす毒。尾や腕の槍の他身体は一部であれば半日程度で再生する為、尾や腕の槍を犠牲にして毒に侵された強敵すらも捕食する。
スコルピオース・スピアー
ハサミと尾が槍型の個体。体色はモスグリーン。刺す動きしかしない為、スコルピオースの中では攻撃に対し対応しやすい部類になる。




