メスガキ女神は怖過ぎるッッッ!!!
「ほらほらほーーーら。
ヨッッッワヨワヨワなオニーサンでも無傷で無事だったでしょ〜〜〜???
ティシーの優秀なバフに感謝してよね〜〜〜♡♡♡」
「……それはそうだけど、此処の地面凄い事になってるけど……?街だよね?修繕費とか請求されちゃわないかな?」
「あは♡♡♡ダイジョーブだよ♡♡♡
取り敢えず、このドラゴンを素材にしたり売ったりしたら暫くはお金には困らない気がする!!!」
二人が話をしている様子を冒険者達は唖然と見ていた。
するとギルドの中から慌ただしく一人の筋肉質な爺さんが出てきた。右眼には黒の眼帯をしており、その眼帯では隠し切れない程の大きな古傷が顔を覗かせていた。
「な、なんと……ッ!!
間違いなく此奴はアダマス・ドラゴン!!
……あなた方が倒したのか……?
たった二人の力で……?」
「そうでーーーす♡♡♡」
ティシーは誇らしげにダブルピースしてみせている。
「あはは、正確には僕は何もしていないので彼女が一人で倒しちゃいました……」
ラグニアの一言に冒険者達はざわめき立つ。
「さ、最上級の魔獣をあの幼女一人で……?」
「……し、しかしあの瞳と髪の毛……只者では無さそうだぞ……?」
ティシーとラグニアはドラゴンから飛び降り、爺さんの前へと歩いていく。
「……見たところ、アダマス・ドラゴンにダメージは見受けられないのだが……?」
「ティシーが顎をちょっと殴ったら衝撃で脳がダッッッメダメダメになっちゃったみたいで〜〜〜。
多分もう死んでたけれど、着地の時に一応首の骨も折りました♡♡♡
あ。ギルドなんだよね???
このドラゴンの解体お願い出来るかな〜〜〜???」
「……こ、拳で……?最高硬度のアダマス・ドラゴンを……」
にわかには信じ難いが、アダマス・ドラゴンの亡骸を見ると信じざるを得なかった。
「……挨拶が遅くなり申し訳ない。
ワシはこのギルドのマスター、『アルコス』。
残念だが、この小さなギルドにはアダマス系統の魔獣を解体する為の道具も設備も技術も無い。
鱗の買い取り位ならやってやりたい気持ちは有るが、あまりにも高価過ぎてそれすらも……」
「え〜〜〜???
じゃあ他のギルドを探さないとね、オニーサン???」
ティシーの右眼が『アイスブルー』一色に光を帯び始めた。
アダマス・ドラゴンの亡骸へと手を翳すと、アダマス・ドラゴンの身体の表面から『パキ……パキパキ……』と心地の好い音を放ちながら凍結していく。
「氷だと……ッ!?」
この世界に於いて氷の魔法はとてつもなく珍しく、それだけで一生楽して暮らしていける程の魔法だった。
食料や魔物の保存に加えて暑い地域での需要は半端なモノではなかった。
続いてティシーの左眼が『漆黒』に光ると、凍結されたアダマス・ドラゴンの亡骸が地面を覆う影へとみるみるうちに沈んでいき、やがて跡形も無く消え去った。
「なんと……」
(これ程までの芸当を簡単にしてみせるとは……成る程。あのアダマス・ドラゴンをワンパン出来る筈だ……)
アルコスは内心納得していたが、他の冒険者達は目の前で行われたそれらを理解出来ずに身体も脳も固まっていた。
「あ!!!
折角だし、ギルドで冒険者登録だけでもしておこうかな〜〜〜???」
「!!その強さで未だ冒険者になっていなかったのか……。
よし、それならばワシに任せてくれ……。
二人共着いて来い」
二人はアルコスの後を着いて行き、ギルドへと入って行った。
ギルド内部は年季が入っていて多少廃れては居たものの、人は多く賑わいを見せていた。
中には受付や依頼の掲示板が有る他、酒場が併設されていて、先程の騒ぎにも全く動じず……いや、そもそも酔っ払っていた所為で気付いていないだけかもしれないが、酒を樽のジョッキで浴びるように呑む冒険者達が居た。
受付にはいい感じに熟した30代の美人受付嬢達も居たのだが、二人の対応はアルコス自らが担当した。
「本来ならばあんた等の強さを見るに、もっと強いランクを与えるべきなのは分かるんだが、コレはギルドの規則だ。
最低ランクの『Fランク』から、一つずつ地道に昇級を目指してくれ。ランクは昇級クエストをこなしたり、昇級試験を受ける事で昇級が可能になっている。
とはいえあんた等なら直ぐにトップレベルになれるだろうがな……。
生憎今この街に昇級クエストは存在していない」
「あは♡♡♡
気にしなくてダイジョーブだよ♡♡♡
このラグニアを強くする為に一からやりたいから!!!」
ティシーは無邪気な笑顔でラグニアのお尻をバシバシ叩いた。
「ガーッハッハッハー!!おい糞ガキィ!!そのニィちゃんを強くするだァ!?
オメーもそのニィちゃんも随分とヒョロっちィじゃねーか!!
オメー等じゃクエストに行った処で直ぐにおっ死ぬのがオチだ、無駄死にする前に止めとけや!!ガーハッハッハー!!」
大きな樽のジョッキに入ったビールをかっ喰らいながら、酔っ払いの大男が絡んできた。彼は『Dランク』の冒険者だった。EランクやFランクばかりのこの街ではDランクであっても強い部類に入る。その為己の力を過信していたのだ。
アダマス・ドラゴンの一件を見ていた他の冒険者は静止すらも躊躇う。大男は普段から威張り散らしていた為助ける義理はない。それに、止めて下手にティシーの怒りを買う事態は避けたかった。
ギルドマスターであるアルコスですら何もしなかった。この大男を見捨てた訳ではない。これは純粋な元冒険者としての興味。
大男が弱いと言い放ったこの二人の強さの一端でも、自身に残された片眼で拝んでおきたかったのだ。自身を隻眼にしたあのアダマス・ドラゴンを単身葬った者の実力を。
しかし大男に絡まれても完全に無視し、ティシーは気にも止めていなかった。
「あ。そういえば『アレ』を解体出来るギルドがある街は何処に――――――」
「テメ……!!この俺様を無視してんじゃねェよッ!!」
大男はプライドを傷付けられ、顔が真っ赤に染まり、血管が浮き上がる程に激昂した。
大男がティシーに殴り掛かろうと、手前に居た位置的に邪魔なラグニアを押し退ける為、手を伸ばした瞬間――
振り返ったティシーに睨まれて身体が硬直する。その一瞬で酔いが完全に醒めてしまった。それ程までの圧と恐怖、そして『死』の予感。
大男は無意識に後退る。本能が叫んでいたのだ。
――『逃げろ』と!!!
「オジサンさーーー。
今、ティシーの大切な大切な大ッッッ切なラグニアにさーーー。
何をしようとしたの………………???」
笑顔が消えたティシーの右眼がディープブルーに光り煌めく。
「ひッ!?な、なんだその眼は――ッ!?がッ――!!?ゴポッ……ッッ!?」
突然、大男の様子がおかしくなる。大男自身も、ラグニアも、アルコス、受付嬢も、このギルド内の全ての人間が何も理解出来ずに居た。
(な、何だこりゃ……ッ!?い、息が……ッ!!しかも身体の動きが鈍くッ……まるで……水中にいるみてェな……ッ!?)
このギルドでも腕っぷしは一番の大男が、何故か首を押さえながら藻掻き苦しんでいるのだから。
「これは……」
アルコスは絶句する。圧倒的な実力の違いに。今まで見た事もないような魔法……いや、魔法であるのかすら分からない程の未知の力を目の当たりにしたのだ……。
苦しむ大男以外、誰一人動く事なく、大男が倒れ込み痙攣している姿を、絶命し完全に動かなくなるまで黙って見ていた……。
大男と一緒に呑んでいた連中ですら何も言わない。
「……うちの冒険者の非礼、すまなかった。
では、冒険者カードを作らせて貰う。
あんた等の名前を……」
「ティシーの名前は『ティシーポネー・エーリュニース』!!!『殺戮の女神』である!!!」
只でさえ静まり返っていたギルドが暫しの沈黙の後、一気に淀めいた。
この世界に於いて『神』を自称する行為は禁忌で有り、神ならざる者が口に出せば即刻神罰が下る。
……そして今この瞬間、ティシーに神罰が下らなかった事により、ティシーが女神であるとこの場の全員が思い知ったのだ。
「殺戮の女神って……エーリュニース三姉妹の末っ子……?」
「本物の女神様……」
「な、なんでこんな辺境の街に女神様が……!?」
ティシーとラグニア以外の全員に緊張が走る。
女神の気紛れ一つで簡単に自分の命が、果てはこの街が終わってしまうのだ。この空間から一刻も早く逃げ出したいという衝動に駆られる。
「あ。みんな楽にして良いからね〜〜〜♡♡♡
ティシーのラグニアに手を出さないなら、ティシーは殺さないから♡♡♡」
アルコスは手際よく、ティシーのギルドカードを作成すると手渡す。
「……此方になります、ティシーポネー様。
それと、この世界の地図を」
「わーーー!!!
見て見て見てよラグニア♡♡♡」
ティシーはギルドカードと地図を嬉しそうに見せながらぴょんぴょん跳び跳ねる。
「ラグニア……様のお名前は?」
「あはは、僕に『様』は要らないよ。僕は『ラグニア・エーリュニース』」
『エーリュニース』の姓に更にざわつくギルド内。『ラグニア』という名に聞き覚えは無いが、女神と同じ姓を持つ人物……。男神なのだろうか等と思考を巡らせていた。
「……ラグニアのギルドカードも出来たぞ。
アダマス・ドラゴンを解体したいのであれば『アダマス商会』の有る『アダマス王国』に行くのが確実だろうな。
アダマス系統のモンスターのスペシャリスト達が山程居るし設備も技術も一級品だ」
「そうなんだ、アリガトーーー♡♡♡」
「……礼を言うのはワシの方だ。あのアダマス・ドラゴンはずっとこの街の近辺に住み着いていた厄介な魔獣でな。ワシも昔挑んだが片眼を潰され、冒険者を引退へと追い込まれたんだ。
だから本当に感謝している。
……心配無いとは思うが、くれぐれも気を付けてな」
「はーーーい♡♡♡じゃあ行くよオニーサン♡♡♡」
「……あの、因みに……僕達が壊したギルドの前の地面は……」
「気にするな、さっきも話したがあのアダマス・ドラゴンには長年悩まされていた。感謝こそすれ、恩人に修繕費の請求なぞするものか。アイツを討伐してくれた代金だと思って我々で直す。安心してくれ」
「……ありがとうオルコスさん。
じゃあ、また会える事を願って……」
「嗚呼、元気でな!!」
アルコスはギルドの前まで出て、二人を笑顔で見送った。
ラグニアの力は彼には未知数だが、数多くの冒険者達を見てきた彼には確信が有った。
ラグニアはとても強い冒険者になる、と。
「ラグニア!!!アダマス王国を目指して行くよーーー!!!」
「うん、頑張ろうね!!」
二人は元気一杯に、『アダマス王国』へと向けて歩き出していく。
設定
アルコス
右眼に眼帯をしたお爺さんギルドマスター。大きな黒い眼帯でも隠しきれない程の大きな古傷。白髪のオールバック。身体中にも古傷。生き延びたのはアダマス・ドラゴンに敵とすら認識されていなかった為。討伐隊の一人をオヤツ代わりに食べようとした際に近くのアルコスも巻き添えになった。
大男
普段から悪絡みをしていた為、腕っぷしはギルド一番でも尊敬の念や仲間意識というものを一切持たれておらず、ティシーに絡んだ際に止めてくれる人が一人も居なかった。死因は人望の無さ。
DランクだがDの中でも底辺。
ラグニアの異世界転生の弊害
敬語を使わない、大男が殺されそうになってもティシーを止めようとしない、等は『転生前の記憶の欠落』によって生前では考えられない思考回路になっている為。
ゲームの中に入り込んでいるような感覚に陥っている。ゲームの腹の立つモブキャラが殺されそうになろうが、必死になって止めるプレイヤー等居ないのと同義。




