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12/16

メスガキ蛇娘は結婚願望が強過ぎるッッッ!!!

 朝。部屋に射し込む陽の光でラグニアは目覚める。


「ん……。


 良く眠れた……良いベッドだとやっぱり睡眠の質が違うね……。


 ……ん?」


 ラグニアは頭だけ右側を向いて居たのだが左耳に何やら違和感を感じる。


 柔らかい感触に……水音?




 ――ちゅぱちゅぱ♡




 そっと目だけで左側を見てみると、エウが耳朶(みみたぶ)をしゃぶっていた……。


「はむはむ……あむあむ……」


 昨日のキスマークとは違い、完全に眠りながら無意識でしゃぶっているようだった。


 起こすのも悪いし、起きていても起き上がる事が出来ない……。


「……寝よ」


「いやいやいや、起きなよオニーサン」


「ッ!?」


 突然の声にビクッと身体が跳ねる。跳ねた事で右腕にアイギスがしがみついている事に気付く。幸いエウとアイギスは起きなかった。


「ビックリしちゃった〜〜〜???」


 ティシーは悪戯顔でエウとアイギスを起こさないように小声で喋っていたが、反対側に寝ている為ラグニアからは顔が見えていない。


「そりゃ普通にビックリするよ……。


 無事に来れたんだね。一番目立つホテルにして正解だったね」


「オニーサン、やっぱりざぁこざぁこざぁこ♡♡♡


 別にどんなに小さくて分かり辛い場所のホテルでも探し出せるよ???」


「前よりは強くなったよ?これからもっと強くならなきゃいけないけど」


 何で探し出せるのか、聞くのが怖くてスルーした。


「ふふふ♡♡♡


 あ、そうそうそう。アダマス・ドラゴンの解体、数日は掛かるってさーーー。


 暇だし何かクエストでもしてみたいなーーーって思ってるんだけどやるよね♡♡♡」


「あたしやるのっ!」


「ッッッ!!?」「ッ!?」


 二人して驚いた。ティシーは直ぐに素に戻ったが、ラグニアの鼓動は早まったままだった。心臓に悪いからやめて欲しいと思いながらアイギスに視線を落とす。


「エウが起きちゃうから、未だ静かにね?」


「…エウはもう起きてるのっ!」


「え?」「え???」「……はむはむ」


「なんならあたしもティシーが起きるより前から起きてたの」


「へ?」「なんて???」「……あむあむ」


 暫し部屋に静寂が訪れる……。


「……はむはむ……あむあむ」




「よし、それじゃあやろうか!!


 ランクの昇級もしたいしね!!」


「頑張るのっ!」


「ティシーが手を出したら一瞬で終わっちゃうし、手加減しながらやらなきゃね♡♡♡」


「……はむはむ……あむあむ」


「よし、エウは起きるつもりがないみたいだからこのまま抱っこしていこう!!おんぶより恥ずかしいと思うけど!!甘えん坊なのバレバレだけど!!見せびらかしに行こう!!」


「……おんぶッ」


 ティシーとアイギスから殺気が放たれていたが、ラグニアは気付かないフリをしながらエウを背負って部屋を後にしようとする。


「……あ。行く前にお風呂入りたいかも。


 昨日は入る前に寝ちゃったし」


「あれ、お兄さん気付いてないんだ?」


 アイギスはなにやらドヤ顔をしている。


「……な、何を?」


「あたしは聖獣だよっ?


 あたしの近くに居るだけでお風呂に入ったかのように清潔になるのっ!」


「……あ、だから外で寝てたりしたのにあまり気にならなかったんだ……」


「そうなの!だからクエストに終わったらゆっくり入ればオーケーだよっ!」


 アイギスは早く行きたい様子で足踏みをしながら目を輝かせている。


「よし、気を取り直して行こう!!」


「おー!」


 いよいよホテルを出てギルドへと歩みを進める。






 ギルドへ着くとフォースが出迎えてくれた。


「ティシーポネー様、皆様もおはようございます。


 ギルドカードの件、昨日は作成出来ずにすみません。早速作らせて頂きます。


 先ずは聖獣様の物を……。


 お名前をお願いします」


「あたしは『アイギス・モノケロース・エーリュニース』だよっ!」


「……はい、完了です。


 アイギス様のギルドカードです」


「わぁっ!あたしのっ!」


 ギルドカードを嬉しそうに眺めてる。


 フォースは目を閉じると静かに深呼吸する。未だ思う処が有るのだろう。精神を落ち着かせるとラグニアと背負われているエウに視線を向ける。


「……それでは次は――」


「……ン」


 エウはラグニアの(うなじ)に顔を埋めたまま、フォースに対して左手を差し出して見せた。


「……な」


 フォースが今までに見た事のない顔で固まってしまった。


「オジサーン???おーーーい???


 え、なんで固まって―――」


 ティシーはフォースの顔を見て、フォースの目線の先を辿ると、同様に固まってしまった。


「んっ?二人共何して――」


 アイギスはあまりのショックにギルドカードを床に落とした。


「え、みんな如何したの!?」


「…お兄さん、それっ」


 アイギスが指を差し示すのは、エウの左手の薬指だった。


「ん?あぁ、『エンゲージリング』?っていうらしいんだけど……僕の知ってるエンゲージリングって男の人が女の人にプロポーズをする時に渡す物なんだよね……」


 要らぬ知識だけは欠落せずに覚えていたラグニアだった。


「……ぎ、ギルドカードをお預かり致します」


 フォースはラグニアからギルドカードを受け取ると、作業をした後に返却する。


「出来ました……どうぞ」


「ありがとう、フォースさん。


 どれどれ……ん?」


「……ッ」


 エウがラグニアの服を掴む力が少し強くなる。


「……えっと、これって……どういう?」


「オニーサン、ソレを聞きたいのは此方なんだけど〜~~???」


「そーだそーだっ!」


 不満そうなティシーとアイギスは説明してくれる気が無さそう……。


 エウはずっと黙っている為、ラグニアがフォースに視線を送り無言で説明を求めていた。




「……ゴホン。その……基本的にギルドの冒険者となるのは『人間』です。


 稀に人間にとても近い種族……『エルフ』、『ドワーフ』、『人魚』等も居ます」


「……成る程」


 ゲームの知識は覚えていたラグニアは察する。それらの種族は顔が人間と大差ない種族だった。


「それで、異種間での婚姻も少なくは無いのです」


「……ん?」


 予想外の流れに首を傾げる。


 いや、確かにエンゲージリングは婚約指輪という認識ではあったし、ギルドカードを見ても理解出来てない現状だが、話の流れが見えなかった。




「これらの種族は人間と変わらずに婚姻が出来るのですが。


 『魚人』や『竜人』など人間よりモンスターに近い存在となると話は別なのです。


 人間の外敵となる恐れも有りますから。


 其処でこの『世界』が生み出したルールこそが『エンゲージ』なのです」


「……成る程?」


 話自体には付いていけてはいる。


「この『エンゲージ』。


 『婚姻相手の人間に対して敵意が無い』事の証明となります」




「……なんで?」




 急に分かんなくなっちゃったラグニアは遠い目をしている。




 フォースはティシーに視線を送るも、ティシーは視線を逸らして説明するつもりは無いらしい。他の受付嬢達も同様だった。


「ゴホン。


 『エンゲージ』とは『人間に近しい存在』と『人からは遠ざかっている存在』の婚姻を認める儀式のようなものでして」


「……はい」


「このお二方……。


 今回は『人間に近しいラグニア様』と『魔人であるエウリュ=アーレ』……私も魔人のパターンは初めてなのですが……」


「……はい」


「……五つの項目全てをお二方がクリアしているのが条件でして」


「……条件?」


「一つ目は『互いに相手に敵意が無い』。


 少なくとも相手の人間に近しい存在とは友好関係に有る証明になります」


「……敵意」


「二つ目は『互いに意思の疎通が出来る』。


 言葉を話せずとも、疎通が出来れば問題ありません。有事の際に抑えられるのか如何かが大切でして」


「……疎通」


「三つ目は『互いに独身である』。


 一夫多妻の種族も居ますが、エンゲージに関しては認められていません」


「……独身」


「四つ目は『互いに相手の名前を知っている』。


 『人ならざる者』には変身能力や擬態能力を有する者も居る為ですね。」


「……名前」


「五つ目は『互いに好意を抱いている』。


 最後にして一番大切で有り当たり前過ぎますが、好意が無ければそもそも成り立ちません」


「……好意」


「これら五つの条件を満たした上で、口付けを交わした瞬間に『エンゲージ』が発動致します……ので」


 フォースは暫し言い淀むも……。


「ラグニア様とエウリュ=アーレが出会ったその日の内に五つを満たし、口付けを交わした結果『エンゲージ』が発動、証である『エンゲージリング』が付与され……こうして『婚姻』が成立した事になります」




 ラグニアのギルドカードに『エウリュ=アーレ・ゴルゴンゾーラ・エーリュニース』の名が刻まれたのだが、先日言っていた『契約』では無く『エンゲージ』の文字が刻まれている。


(……成る程。如何やら昨日の口付けの瞬間、僕とエウの婚姻が決まっていたらしい……)




「オニーサン、手を出すの早いんだね〜~〜」


「お兄さん穢れてるよっ」




 メスガキ二人のジト目視線を気付かないフリをしつつラグニアはフォースに話し掛ける。


「『エンゲージ』については理解したよ。


 じゃあ――」


「……ッ」


 エウは再び無意識にラグニアの服を強く握り締めていた。


 ラグニアはこの後、エンゲージの破棄について話を聞くのだろう、と。




「――エウのギルドカードの作成もお願いするよ」


(……え)


 エウは顔は上げず、項に顔を埋めたまま目だけを見開く……。


 ラグニアから紡がれた予想外の言葉……。


(『エンゲージ』に関してはもう何も聞かねェのか……?)


「承知致しました。『魔人』のギルドカードを作成するのは初めてですが、他の皆様と同じカードになります。


 どうぞ」


「有難う、フォースさん。


 後で渡しておくよ」


「……ッ!!」


 エウは顔をそっと上げ、ラグニアが受け取った自身のギルドカードを覗き込む。


 『エンゲージ』の文字がはっきりと刻まれている。


 続けて『ラグニア・エーリュニース』の文字も。


 余程嬉しいのだろう、再び顔を埋めると両の脚をバタバタと交互に振っていた。






 こうしてこのパーティ全員がFランク冒険者として登録された事になった。




「それじゃあいくよーーー???


 Eランク昇級クエストに挑んじゃおーーーッッッ!!!」


 ティシーとアイギスは跳び跳ね、ラグニアは微笑ましく眺め、背のエウも密かに笑みを浮かべていた。

 設定


 エンゲージ

 『婚姻』。この『世界』が生み出したルールであり『婚姻相手の人間に対して敵意が無い』事の証明。『人間に近しい存在』と『人からは遠ざかっている存在』の婚姻を認める儀式。

 『互いに敵意が無く』、『互いに意思の疎通が出来』、『互いに独身であり』、『互いに相手の名前を知っていて』、『互いに好意を抱いている』二人が口付けを交わした瞬間に発動して『エンゲージリング』が付与され、『婚姻』が成立する。

 エンゲージはギルドカードにも刻まれる。


 アイギスの『清潔』

 聖獣の力。周りに居る者を清潔に保つ。攻撃の作用は無い為『清潔にする事がダメージに繋がる』個体に関しては作用しない。お風呂に浸かったのと同等の効果がある。

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