メスガキ蛇娘は甘えん坊過ぎるッッッ!!!
エウは泣きじゃくっていた。
片時も離れた事の無かった姉の死。二体とも不老不死という能力を持っていたが為に、死別等想像すらしなかった。
不老不死が絶対の能力で無い事は充分分かってはいた。不老不死の者を殺す方法等、実は幾らでも存在するからだ。
老いない為に老衰では死なず、自然発生する病気でも死なず、普通なら致命傷となる外傷を負っても死なない。その程度の能力でしか無い。
頭が消し飛ぼうが再生するが、身体の全てが跡形も無く消え失せればそれだけでも死んでしまう。
しかし不老不死抜きでも二人は強かった。少なくとも並みの冒険者達では千年以上も如何する事も出来ない位には。
予期せぬ死別はエウの心を深く、深く、深く抉っていたのだ。
「エウリュ=アーレ・ゴルゴンゾーラ!!
貴様は私が倒すッ!!これまでお前達ゴルゴンゾーラ三姉妹によって散って逝った仲間達の無念!!此処で晴らすッ!!」
「お姉ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!!!!
うわぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!!!!」
フォースは刀をエウに向けているが、エウは泣いたままフォースには目もくれない。
「くッ!!舐めるな――!!」
フォースが技を放つ為魔力を溜めようとした瞬間、ティシーが間に入る。
「!!……ティシーポネー様……何のおつもりですか……ッ!?」
「ティシーはステンスノーと約束しちゃったからね〜〜〜???
オジサンも話、聞いていたと思ったんだけどな〜〜〜???耳遠いのかな〜~~???」
「……ッ!!し、しかし!!
そのエウリュ=アーレは数多くの仲間を、同胞を、先人達を葬ってきたゴルゴンゾーラ三姉妹の一体なのですッ!!
ステンスノーの逝去で精神が不安定の今が最初で最後の好機!!今この機を逃し、討伐せず逃がす事など絶対に出来ませんッ!!彼女も姉の敵討ちにまたこの国を襲いに来るのは誰の目にも明白ッ!!争いの芽は此処で摘まなければッ!!」
「………ティシーはね???相手の力量が分かるの。
彼女、三姉妹で一番強いよ〜〜〜???
しかも、不老不死………。
オジサンが戦っても、燃やされて、終わり。
そもそもティシーが戦わせないんだけどね〜〜〜???」
フォースは全てを理解していた。頭では理解していても、殺された者達を想えばこそ、引く訳にはいかない。
「……ッ!!女神様だろうと、私は……ッ!!
この私は――」
「そう、もう分かった―――」
ティシーから、殺戮の女神から放たれた、明確な『殺意』。フォースが剣を構え防御の姿勢をとろうとした――
その時。
「――止めよ、フォース」
その言葉にフォースは動きを止める。
重く、心臓が握り潰されそうな圧の籠もった声。しかし、フォースを案じる優しさも込められていた。
ティシーも同様に動きを止めた。
あと一瞬でもこの声が遅ければフォースは殺されていた。ティシーはステンスノーの時とは違い、フォースを瞬殺しようとしていたのだ。
それは女神の契約を知りながら破ろうとしたフォースを不届者として断罪する為に殺そうとしたからである。
「我が国のギルドマスターが不敬を働き、誠に申し訳御座いません、ティシーポネー様」
赤髪にガーネットのような瞳の中年の男がティシーに頭を下げた。
それを見ると後ろに引き連れていた者達、フォースを始めとするギルドの冒険者や町の人達が驚いた様子を見せた後、慌てて膝をつく。
「私は『グラナート・アダマス』。
このアダマス王国の現国王を勤めております。
この度はステンスノー、及びメドゥーサーの討伐……長年苦しめられてきた強敵故、感謝してもし切れません……」
「国王さんなんだ!!!
お礼なんて要らないよ〜〜〜???」
満更でも無さそうなドヤ顔をしている。
「ギルドマスターの非礼は重ねて謝罪致します。
其処のエウリュ=アーレ・ゴルゴンゾーラの処遇に関しては、ティシーポネー様に全てを一任致します」
「――ッ!!国王様!!しかし――ッ!!」
「フォースよ。我々にはどのみちエウリュ=アーレを倒す事は出来まい。
それに、お前はティシーポネー様に殺される一歩手前だったのだぞ」
「――ッ」
「ティシーポネー様は我々に力を貸して下さり、エウリュ=アーレも姉と妹を失っている……。
これ以上続けても、永遠に復讐の連鎖が続いていくのみ……。エウリュ=アーレを殺したとて、終わるとも限らんのだ」
グラナートはティシーを見やる。
「ティシーポネー様、エウリュ=アーレが今後も無闇に人間を殺さぬよう、何卒お願い致します」
「………おっけーーー♡♡♡」
「ティシー、今の間……絶対『面倒臭いな〜~~』とか思ってたよね??」
「ねーっ!絶対思ってたよねーっ!」
空から降りて来ていたラグニアとアイギスがジト目でティシーを見ていた。
「いや〜〜〜???
ただ、エウの命は助けるってステンスノーのお願いは聞いたけど、無闇に殺さないようにって………ずっと見張ってなきゃいけないじゃん???」
「……そりゃそうだよ?」
此処で見逃して放置するつもりだった女神に一同はドン引きしていた。
「かと言ってさーーー、エウもステンスノーの仇のティシーと契約なんて絶対したくないじゃん???」
『契約』と聞いて泣きじゃくっていたエウが睨みながら口を開く。
「……フンッ!!当ッたり前だ!!
あーしがクソ女神と契約だなんて死んでも絶対しねェ!!
つーかエウって呼ぶなッ!!馴れ馴れしい!!」
ガルルル!!と威嚇している……もう魔人としての怖さは感じない只のメスガキだった。
「ほら〜〜〜。
あ、オニーサンが契約しちゃう???」
「……え?僕が彼女と契約?それって如何いう?」
「オニーサンに危害を加えられなくするの♡♡♡
あと命令には逆らえない♡♡♡」
「っ!契約っ!?あたしもお兄さんと契約するのっ!」
アイギスがぴょんぴょんと跳び跳ねながら主張している。
「ざーーーんねーーーん!!!
アイギスはティシーと契約してるから出来ませ〜~~ん♡♡♡」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!
ティシーが勝手に契約したのにっ!」
アイギスが泣き喚いてる。可愛い……。
「危害を……」
エウは何かを考えている様子だった。何やらチラチラとラグニアの方を見ている。
「……エウリュ=アーレは僕と契約してもいい?」
常識は欠落してるというのに女性への気遣いは健在だった……何故??
「だッ、誰がお前なんかと!!
あーしはエウリュ=アーレ・ゴルゴンゾーラ!!
偉大なゴルゴンゾーラ三姉妹の次女!!ステンスノー・ゴルゴンゾーラの妹だぞ!?高貴な魔人だ!!
お前みたいな人間如きと契約なんかするかよッ!!」
「……まぁそうだよね、しかもメドゥーサーの仇だもんね……」
「あン?別に其処はカンケーねェよ。
あーしはメドゥーサー嫌いだったし寧ろ大歓迎だ。アネキには懐いてたのにあーしには突っ掛かって馬鹿にしてきた生意気なクソ妹だったからな」
「……」
ラグニアはこれ以上メドゥーサーの話を続けて掘り下げるのは止めた。
仇と思っていないのならばスルーした方が互いに利が有りそうだとしての判断だった。
「………エウ」
「ンだよ、クソ女神ッ!!
つーかエウって呼ぶなッつッてンだろ!!
ヤルッつーなら今!!此処で!!
あーしがお前をッ!!」
「エウは。
命を賭してティシーに貴女の命を託したステンスノーの『想い』を、エウは無駄にするつもり???」
「……ッ。それ……は……ッ」
ティシーの言葉にステンスノーの最期を思い出して涙ぐむ……。
「悪いけど選択肢は三つ。
ティシーと契約する。
ラグニアと契約する。
ステンスノーとの契約を貴女から破棄し、即刻ティシーに殺される。
さぁ、選んで???」
エウは歯を食いしばりティシーを睨み付ける。
彼女はステンスノーの、愛する姉の仇……決して許す事は出来ない。
……そして、勝つ事も……。
続いてラグニアを見詰めると視線が絡む。ラグニア瞳からは敵対の意思は見受けられず、敵のエウに対しても優しさの感情を向けている事に気付く。
彼女は暫し考え込むと、口を開いた。
「……わぁッたよ。
コイツと……契約……する……ッ」
誰とも視線を合わせないまま、渋々契約を承諾した。
「よし、決まりだね〜〜〜♡♡♡
殺戮の女神、『ティシーポネー・エーリュニース』の名に於いて、
汝に『エウリュ=アーレ・ゴルゴンゾーラ・エーリュニース』の名を与え、
『ラグニア・エーリュニース』との契約を認める事を此処に宣言する!!!」
エウとラグニアの身体が光りを帯び、契約が結ばれる。しかしラグニアやアイギスのように透明な瞳と髪色には変わらなかった。
「はァ!?ちょっと!?
なに勝手に『エーリュニース』ってクソ女神と同じ名前が増えてンだよッ!?」
「それはあたしもだから諦めるしかないよ?
あたしはお兄さんと同じ名前で嬉しいけどっ♡」
「……あーしも同じ名前になったンなら、同じ名前って事にはもうそんな意味持たねェだろ……」
エウは呆れた顔で幸せそうなアイギスを見ていた。
そんなエウを見ていたラグニアはティシーに話し掛ける。
「ティシー、エウリュ=アーレの瞳と髪の色が変わらないのは何か意味が……?」
「んーーー???
単純な話、ラグニアもアイギスも髪色と目の色になんの意味も無いから変わっただけだよ〜〜〜???
エウの魔眼と髪の毛はマグマみたいになってるでしょ〜~~???
だから変わらないの。でも能力は付与されてるから、色を変えて能力の行使は出来るよ♡♡♡」
「なっ!あたしのゼニスブルーの瞳には意味有るもん!
聖なるあたしの高貴さが滲み出てるもん!」
「はいはいはい、そうですねーーー」
やれやれと肩を竦めながらテキトーにあしらう。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
「……はァ。クッソ騒がしい……お姉ちゃんはもっと静かで優しかったッつーのに……。
……あーしはもう寝るッ」
――ドサッ!
「ん?」
「えっ?」
「は???」
ラグニアの背中にエウが跳び乗っていた。
「……すぅ」
エウは両手両足でしっかりと抱き着くと双眸を閉じ既に寝息を立てていた。
「ちょっと!?ずるいっ!あたしも未だおんぶされた事ないのに!」
「あはは、僕が背中に乗ったり僕が抱っこされたりはしたけどね……」
「さて、ティシー達は国を出ようかな???
色々としたい事はあったけど」
取り敢えず状況が落ち着くと、ティシーはこれから如何しようかと考えていた。
「お待ち下さい、ティシーポネー様。
我が国でゆっくりと休息をお取り下さいませ。
ギルドマスターのように簡単には受け入れられない者もこの国には少なくはないでしょう……。
しかし、ステンスノーとメドゥーサーは倒され、エウリュ=アーレもティシーポネー様方の仲間に加わり、この国に平和が訪れました。
その御恩を感じているのは国民全員なのです。
我々に力になれる事が有りましたら何なりとお申し付け下さい」
「いいの???じゃあねーーー???
取り敢えず泊まれる場所。
それとアイギスのギルドカードの発行。
エウリュ=アーレのギルドカード……はラグニアのギルドカードの契約の欄に追記するのかな〜〜〜???
それと、アダマス・ドラゴンの解体をお願いしたいかな♡♡♡」
「……全てかしこまりました。フォース、力になってあげなさい」
遠慮無く列挙され少し驚くも了承した。
「……はっ。ティシーポネー様、先程の無礼の数々、何卒お許し下さい。
宿屋はお好きな場所へお泊り下さい。費用はギルドが……いえ、私が全額持ちます。
アイギス様のギルドカードは滞在中、何時でもギルドへ来て頂ければ。
……エウリュ=アーレに関しては、ラグニア様のギルドカードへの追記でも、個人のギルドカード作成でも、何方でも対応可能ですが……言葉を操る魔人なので追記とカードの発行の両方を行うのが安全かと。
アダマス・ドラゴンもギルドにて解体を出来ますが、何分何分手間と時間が掛かるので今からギルドへとアダマス・ドラゴンをお持ち頂きたいのですが……今は何方に?」
「此処に有るよーーー!!!」
地面を指差しドヤ顔をしていた。
「……承知致しました、それでは此方へ」
「それじゃ行ってくるねーーー♡♡♡宿屋でも探しておいて〜〜〜♡♡♡」
ティシーは手を振るとフォースと共にギルドへと入っていった。
「あたしも行くっ!今日ギルドカード作りたいっ!」
てってってっ。
アイギスも駆けて着いていった。ユニコーンとは思えない可愛い足取りだった。天使かな?
「それではラグニア様、私はこれにて失礼致します。ごゆっくりお過ごし下さい」
グラナートは一礼すると城の方へと歩き去って行った。
「さて、と。じゃあ宿屋でも探そうかな」
大きな建物が建ち並ぶ場所を遠目に見付けるとそちらへ向けて歩き出す。
――すり。
「ん?」
エウがラグニアの首筋に顔を埋め、頬を擦り寄せていた。
「……すぅ……すぅ……」
寝息が聞こえている……が。
「……いや、これ絶対起きてるよね?
エウリュ=アーレ……」
「……すぅ……すぅ……」
「……エウリュ=アーレ……?」
「……寝てるッつーの」
「……」
「……『エウ』でいい。
毎度毎度、長ったらしく一々名前呼ばれるのダルい」
『あんなにティシーには呼ばれたくないって言っていたのに良いんだ』、等と思いながらも口には出さなかった。
「……そっか。
エウ、甘えたいなら別に甘えても良いんだよ?」
「……フン。あーしを舐めンな。
あーしは、ンな事しない」
――すり。すりすり。すりすりすり。すりすりすりすり。すりすりすりすりすり。
「……」
(滅茶苦茶甘えてるじゃん!)
なんて言葉は口に出さずにラグニアは呑み込んだ。
魔人とはいえ家族を失ったばかり。好きなようにさせてあげたかったし、慰めてあげたかった。
エウは本当に姉のステンスノーの事が大好きだった。
しかし直接的な接触で甘える事は出来なかった。
ステンスノーが厳しく許されなかった訳でも、エウが恥ずかしさ故に甘えられなかった訳でも無い。
エウの力は強過ぎた。それはステンスノーの力を遥かに凌駕していた。
もしもエウがステンスノーに触れたら、ステンスノーの身体は雪のように溶けて消えてしまう。不老不死だろうと全てが溶けて液体になり蒸発してしまったら、当然『死』が待っている。
しかしラグニアは違う。契約による『主に対して危害を加えられない制約』。コレが有るからこそ現在、彼におんぶして貰うという接触行為が可能になっていた。
エウにとっては初めての他人との肌の接触、肌の温もりだった。
エウは普段から高熱を帯び高温を発している。地面が溶け出し溶岩へと変わり果てる程のモノを。それよりも遥かに低い筈のラグニアの体温は、何故かそれらよりも遥かに温かく優しく感じた。
魔物や魔獣、魔人は子育てをしない。哺乳類型の魔獣でさえも母乳という概念は存在しない。
そもそもゴルゴンゾーラ三姉妹は無から誕生した魔人。父や母は端から存在すらしない。
ステンスノーとメドゥーサーを失ったエウは、正真正銘の天涯孤独の身となってしまったのだ。
エウにとって初めての肌と肌との接触は心地好く、初めて安心感を肌で感じた瞬間だった。
ティシーの制約の話を聞いた時、真っ先に『触れてみたい』という願望が頭を過っていたのだ。
ラグニアをチラチラと見ていたのは『ソレ』が原因だった。
暫くすると街と街の堺……少し人通りが少なくなってきた。するとエウのラグニアへしがみつく力が少しだけ強くなる。
「……お兄……ちゃん」
先程までとは違う、甘えた声でぽそっと呟いた。
「……ん。よしよし」
ラグニアは背中のエウを軽く揺らしてやる。
「……グスッ」
「……ゆっくり歩こうか」
「……うん」
人通りが多くなるとエウの涙が見られてしまう。ラグニアはエウをおんぶしたまま、宿屋を探そうとゆっくりと歩き始めた。
設定
エウリュ=アーレ・ゴルゴンゾーラ・エーリュニース
『エウ』。甘えん坊。肌と肌との接触は好きだがラグニアとしか出来ない(というかラグニアとしかする気がない)為スキンシップが多めな傾向。しかし自覚が無い為面倒臭いタイプのメスガキ。
瞳と髪の色は変わっていないが能力は継承されているらしい。
グラナート・アダマス
赤髪にガーネットのような瞳の中年の男。アダマス王国の国王だが『戦える王』でフォースよりも強い。長年、ゴルゴンゾーラ三姉妹に苦しめられてはいたものの。争い・殺し合うだけでは負の連鎖を起こすだけと考えている為、ステンスノーの願いを聞き、ティシーが了承した瞬間にエウリュ=アーレを許す決心を固めていた。
国や民の為に敬語を使い、頭も下げられる真の国王。
オジサン呼ばわりされて内心傷付いている。




