簒奪者の棲む地
「認めてやるよ。タケベヒデオ! あたしはあんたの仲間になる!」
その言葉通り、楯の乙女エマは俺たちの飛空艇に乗り込んできた。
「へぇ、こんなでかい乗り物が空を飛ぶのか! え? 爺さんが発明した? すごいじゃないか!!」
バレット爺さんの背中を、どーんと叩く。
「うがぁっ! 腰が……腰がやられたぞぃ!」
「た、大変! ヒール!!」
エリザの回復魔法で、一命を取り留めたバレット爺さん。
「おっと、すまなかったね。つい力が入り過ぎちまった!」
……と、些細なトラブルはあったが、俺たちはようやく王都へと到着した。
◇
王都バルディアは……さらに閑散としていた。
人の気配すらしない。
その代わり、以前よりも石像が増えていた。
「ヒデオさん……この像って……」
「ああ、おそらく……石化の呪いだ」
闇酒場に行ってみる。
バーテンダーも、酒場に集まっていた信者たちも……全員が石化していた。
「まさか……みんな石になっちゃったの?」
「おそらくな。でも、いったい何のために……?」
「ここで考えてたって答えは出ないよ。首謀者をとっ捕まえて、優しく聞き出せば良いだけの話さ」
……なるほど。
エマの考え方は、シンプルでいい。
「よし、王宮に向かおう!」
◇
王宮の門番も、石化していた。
「ニック、君まで……」
言葉を交わし、名前まで覚えた相手の……こんな姿を見るのはつらい。
いや、元に戻す方法は必ずあるはずだ。
俺は試しに、原作ゲームに登場する石化解除アイテム『不死鳥の羽』をデバッグコマンド【ADD_ITEM】で取り出し、使ってみた。
しかし、何の効果もなかった。どうやらこれは、ただの石化ではないようだ。
門番たちが石化しているため、王宮内部にはすんなりと入ることができた。
そのまま地下へ……
地下にも兵士の石像が、ずらっと並んでいる。
「今にも襲いかかってきそうですにゃん」
「ミネア、そういうフラグ……立てないでくれ」
「え? フラグって……何ですにゃん?」
「いや、こっちの話だ」
説明が難しいので、誤魔化すことにした。
◇
王宮の地下最奥部。
その床には、巨大な魔法陣が描かれていた。
そして、その魔法陣を取り囲んでいる、ものすごい数の石像たち。
「ここは……?」
「ふふふ。教えてあげるわ」
俺の独り言に、答える声があった。
「うふふふふ。初めまして……かしら?」
黒のドレスを着た妖艶な美女が、豊満な肉体を見せつけるようなポーズで立っている。
「ハートランド王国第三王妃・シモネッタだな?」
「そうよ。あなたがタケベヒデオね。想像してたより、いい男じゃない」
「そんなお世辞よりも、聞きたいことがある。ここで何を企んでいるんだ?」
「企んでいる? ずいぶん人聞きが悪い言い方ね。私たちはただ、この地を取り戻そうとしているだけよ」
「取り戻す? どういう意味だ?」
「この土地は元々、私たち魔族の聖地だったの。それを強奪したのが初代ハートランド国王よ」
そう言って、シモネッタが正体を現す。
背中から悪魔のような翼が生え、額からはヤギのような角が伸び始める。
「魔族……?」
アネモネの問いに、シモネッタが答える。
「そうよ。私たちは魔族。奪われた聖地を取り戻すために、ここにやって来たわ」
「石にされちゃ人たちを……元に戻してください!」
「あら、あなた……セイクリッドセブンね」
「だとしたら……何だというのです」
「簒奪者である初代ハートランド国王……その子孫が7つの家に分かれた。つまり、セイクリッドセブンには全員、にっくき簒奪者の血が流れているってことよ。だから全員殺してやるの!」
「まさか……ウィル王子も……? 女神像を爆破させたり、大聖堂を魔香炉に改装したり、マルケーノフを操って、魔物に偽神父を演じさせたのも……お前の仕業なのか?」
「察しが良いわね。そうよ。ぜんぶ私が計画したことよ」
くそっ! マルケーノフを操っていたのは、山田疾風怒濤だけではなかった。
こいつが真の黒幕だったのか……
「どう? 憎いでしょ? うふふふ……私、あなたたちみたいな下等生物が、怒りでジタバタする姿を見るのが大好きなの」
「下等生物だと?」
「あら、事実でしょ? イモムシはサナギになり、やがて蝶に進化する……それと同じよ。人間はみんな、幼虫なの。でも女神オブリビア様に祈ることで、サナギになれるわ」
「サナギって……まさか……?」
「あら、そろそろサナギが羽化する頃ね。見ているといいわ」
直後、部屋に並んでいる石像が割れ、中から魔族が現れる。
そう。まるでサナギが羽化して……蝶になるように……
「さぁ、こいつらがあなたの相手よ。元人間を、殺せるかしら? あーっはっは!」
高笑いしながら、シモネッタは奥の部屋へと去っていった。
そして気が付くと……
俺たちは、大量の魔族たちに取り囲まれていた。
背には翼が生え、頭には角があるが……全員に、人間だった頃の面影がある
「ぐぉーーーー!!」
俺をめがけて、まっすぐに向かってくる魔族がいた。
……間違いない。あれは、ニックだ。
くそっ! 泣くな!
涙で『敵』が見えなくなる!
心を殺して、俺はニックの首をはねた。
「みんな、俺に続け!!」
「はい」「うん」「はいですにゃん」「承知」「……たわわ」「はいよ!」
全員で魔族と応戦する。
生まれたばかりのせいか、一体一体の力はそれほど強くはない。
しかし数が多い。
そして何より……元人間であるとわかっているため、心が痛む。
「くそっ! 何が進化だ! こいつらには心が無い! 笑顔が無い! ……こんなの、退化だ!」
「そうよ、あたしたちは幼虫なんかじゃない! 人間よ!」
アネモネの言うとおりだ。
俺は……俺たちは……
こうやって地面を這いつくばっても……人間であり続ける!
「人間を、なめるなぁ!!!」
気が付くと、あれだけ大勢いた魔族たちは……すべて死体となっていた。
「行こう。シモネッタを追いかけるんだ」
全員が、無言で頷いた。
◇
広いホールの、さらに奥……
そこに、シモネッタが立っていた。
その周囲には……血のプールに浮かぶ、おびただしい人間の死体。
「これは……どういうことだ?」




