魔女シモネッタ
「これは……どういうことだ?」
「ふふふ、教えてあげるわ」
この女はどうしようもなく嫌なヤツだが、こうしてすぐに疑問に答えてくれる点だけは感心する。
「信者たちの祈りと、邪教徒たちの血と肉を糧に、魔王は誕生するわ。そしてその器になるのが……勇者よ。人間は魔族に進化するけど、勇者だけは、魔王に進化するの」
見ると、部屋の奥には高い木の磔が3本立っていた。
両脇には、セイクリッドセブンの二人……氷姫アリアと、雷剣のサラだ。
そして、中心の磔には……勇者モルテディオらしき男の姿が……
全員、ぐったりとしている。
「何をする気だ?」
「血の儀式よ。勇者という『器』を、邪教徒の忌々しい血で満たすの……」
「そんなことは……させない!」
「うふふ。まぁ、黙って見てなさい」
次の瞬間――
空気が凍り付いた。
シモネッタの暗示と共に、体が動かなくなる。
「く、くそっ!」
冒険者ギルドで、シュミット爺が使った傀儡の言霊に似ている。
……いや、ひょっとしたらこっちが本家なのかもしれない。
俺たちが抵抗できないのを良いことに、シモネッタは磔になったセイクリッドセブンの首を……
ひとりひとり、落としてゆく。
ボトン……
アリア=フロストハートが死に
ボトン……
サラ=サンダーハートが死んだ。
二つの首は、足下にある血のプールへと沈んでゆき……
そのたびに、勇者の体が大きくなってゆく。
……いや、あれは成長と言うより、膨張だ。
やがて、勇者が石化……いや、サナギの姿になる。
「うふふふ。もうすぐよ……もうすぐ魔王デオメット様が誕生するわ」
体が動かない。
いや、厳密に言えば、目は動かせるし、指先も動く。
ただ魔法は唱えられないようだ。
そう、シュミット爺さんの時と同じだ。
あの時も声は出せた。
「レベッカ、君も体が動かないか?」
「ああ、残念ながらな」
「でも、声は出せるんだろ?」
「……!」
それだけで察するレベッカ。
「 では、試してみよう」
「ロケット・パァンチ!!」
そう。ロケットパンチは声認証だ。
体が動かなくても、義手だけは独立して、シモネッタを攻撃できる。
「きゃぁーーー!!!」
ダメージを喰らい、集中力が途切れたのか、全員の暗示が解けた。
「な、生意気な……これでも喰らいなさい!!」
シモネッタが無数の火球を放つ。
「どっせーい!!!」
しかし、エマの盾がその全てを防いだ。
「よくやった! エマ!」
「はんっ! 褒めるのは勝ってからにしなっ!」
火球は防いでも防いでも、降り注ぎ続ける。
これまでの魔族とは、比べものにならないくらいの強さだ。
敵はシモネッタだけではない。
羽化した魔族たちが、次々と現れ……襲いかかってくる。
レベッカも、ミネアも、アネモネも、アヴィも……
その対応に追われ、シモネッタを攻撃できない。
まずいぞ……このままだと、じり貧だ。
そのとき――
「シールド・ストライク」
エマの声が響いた。
見ると、手にした盾をシモネッタめがけ、フリスビーのように投げつけている。
「うぐっ……ぎゃぁーーーー!!!」
盾は弧を描いて飛び、シモネッタの首を落とした。
「見ただろ? 防御は最大の攻撃なのさ」
そして、エリザの肩にぽんと手を置き……
「ウィル王子の仇……討ってやったぞ!」
優しい声で囁く。
エリザの瞳から、涙が一筋流れた。
「はい!」
しかし……
シモネッタは、ヘビのように執念深かった。
首だけとなった姿のまま……呪うように呟く。
「時間は……稼ぎましたわ。魔王様……」
そう、彼女は最初から、俺たちに勝つ気などなかった。
ただ魔王デオメットを誕生させるための……捨て駒だったのだ。
やがて、かつて勇者モルテディオだった男のサナギが割れ……
今、魔王デオメットが降誕する。




