楯の乙女エマ(2)
鉱山都市グラニット。
その内部には、幻想的な景色が広がっていた。
通されたのは、宴会用の巨大なホール。
壁のあちこちに発光するキノコが置かれていて、それが照明となっている。
「さぁ飲め、食え、歌え! 宴の始まりだぁーーー!」
「「「「うぉーーーーーー!!!」」」」
こうして大食い対決が始まった。
俺のすぐ隣にはエマ。二人並んで、皿に盛られた一口サイズの肉を食い続ける。
「はい、じゃんじゃん!」
食い終わると、お付きの女性がかけ声と共に次の皿を出す。
「はい、どんどん!」
肉は旨い。ちょっと辛いけど、食えない辛さではない。
旨辛な味付けだ。しかし、どんなに旨い食い物でも、限度というものがある。
「はい、どっこい!」
これはもう、わんこそば状態。いや、わんこ肉だ。
これ以上食えない……何度もそう思ったが、そのたびにエマに睨まれ、お付きの女性からは容赦なく新しい皿を出され……俺は限界を超える。満腹の……その先で……俺は何度も気を失いかける。
勝たなければ……勝たなければ……
◇
俺が大食い対決で苦しんでいる間……
他のみんなは、普通に飲み食いして楽しそうだ。
「ヒデオ、負けるな!」
「ヒデオさん、頑張ってください!」
もちろん負ける気はない。頑張っても……いるつもりだが……そろそろ限界だ。
「タケベヒデオ、なかなかやるじゃないか! 味付けはどうだ? 辛くはないか?」
「いや、大丈夫。こんなうまい肉、初めて食べたよ」
「そうか、じゃあ気合い入れて、頑張れ!」
エマがどーんと、豪快に俺の背中を叩く。
限界まで腹一杯の状態で、背中に刺激を受けたせいなのか……俺は、マーライオンのように吐いた。
「おっと、あたしが背中を叩いたせいか?」
「いや、それは関係ない。ごめん……床を汚してしまって……げふっ……」
「気に入った!」
「……え?」
「気に入ったぞ、タケベヒデオ! 大抵のヤツは、負けると他人のせいにする。しかしあんたは、それをしなかった」
「……って、ことは?」
「認めてやるよ。タケベヒデオ! あたしはあんたの仲間になる!」
「よか……った……」
そこから先は……記憶が無い。
◇
……死。
いや、まだ生きている。
だけど……死ぬほど体調不良だ。
このままだと、ウィル王子のように三日寝込む。
「ヒデオさん、生きてますかにゃん?」
「あぁ、なんとかな……」
見るとミネアは、真っ黒な丸薬を持っていた。
「これは?」
「天空の町ボルテにあった忍者っぽい部屋で見つけましたにゃん。見た感じ……丸薬か、シカの糞のどっちかですにゃん」
「な、なぜその二択?」
……でも、これがもし……雷剣のサラが持っている謎の胃薬『忍者エール』だったら、この体調不良も一発で治るはずだ。
丸薬か……シカの糞か……?
シカの糞を飲んでしまった場合、さらに体調が悪化する危険性はある。
それと……人として何か大切なものを失ってしまうような気がする。
しかし……それが何だというのだ。
大切なのは俺の尊厳なんかよりも、国の平和だ。
「よし! 俺は飲むぞ!」
究極の二択は見事成功し、俺は無事体調を戻すことができたのだった。
「さぁ行こう、王都へ!」
マーライオンのように嘔吐した姿を見せてしまった後だと、この台詞はなんだか妙に締まりが悪い。




