天空の町ボルテ
飛空艇に戻った俺たちは、まずは雷剣のサラを仲間にしようと決めた。
……というのも、最初にエマを仲間にすると、『大食い対決』が始まってしまい、その結果俺の胃袋が死んで三日間寝込んでしまうからだ。
しかし、サラが仲間になっていれば、彼女が持っている謎の胃薬『忍者エール』で治すことができるのだ。
「バレット爺さん、まずは天空の町ボルテに向かってくれ」
「がってん承知じゃぞぃ!」
ジャスティス田中先生の名曲『天翔る艇』が流れ、飛空艇セイクリッド号が発進する。
「こんな便利な乗り物があるなら、ヴァルカニアに行く時に使いたかったですにゃん」
「ほんとよ。あの時は船酔いで、ひどい思いをしたんだから」
ミネアとアネモネがジト目でこっちを見てるが……俺のせいじゃないぞ。
◇
「着いたぞぃ」
あっと言う間に、天空の町ボルテに到着する。
天空の町とは言っても、ラ○ュタのように空を飛んでいるわけではなく、マチュピチュのような高地にある都市だ。
そしてマチュピチュが発見当時から廃墟だったように……
天空の町ボルテにも、人の姿は無かった。
ただ、石造りの建物が整然と並んでいて、戦いのあった形跡もない。
「誰も……住んでないみたいですにゃん」
「みんな、どこに行っちゃったの?」
……違う。
デバッグでプレイした天空の町ボルテと、全然違う。
「この町は……もっと緑に溢れてたんだ。花もたくさん咲いてた。綺麗な水も流れてて、貧しい町だったけど、みんな笑ってた。よそ者の俺たちにも良くしてくれて……」
俺は、町で一番大きな建物を指さした。
「あの建物は、領主の館で……歓迎の宴も開いてくれたんだ。そこで俺は……雷剣のサラと踊ったんだ。そんな記憶が……全部……書き換えられてしまったのか……?」
ウィル王子が死んでしまった世界線の物語だ。
原作ゲームと違っていて当たり前。
デバッグで得た知識も通用しなくて当然だ。
しかし……思い出が丸ごと、ごっぞりと消えてしまっているのは、泣きたいくらい悲しくて、寂しい。
◇
広場の中央には、女神セレスティアの像があった。
しかし地面に倒され、破壊されている。
特に顔の部分は、念入りに潰されているようだ。
壊され、汚された女神像。
その像のすぐそばに、老人がひとり立ち尽くしていた。
「爺さん……この町のみんなは?」
「…………」
答えない。
爺さんは、泣いていた。
しばらく嗚咽を繰り返した後……ようやく絞り出した言葉は……
「みんな……連れてかれたよ」
爺さんの話によると、10日前突然、町に兵士たちが現れて、オブリ教への改宗を強要されたのだそうだ。逆らった者たちは、全員王都へと強制送還され、女神セレスティアの像につばを吐きかけた爺さんだけが許され、この町に取り残されたのだという。
「落ち着いてくれ、爺さん。サラは? 雷剣のサラは一緒じゃなかったのか?」
「彼女も連れてかれたよ。『逆らえば、わしの孫を殺す』と、そう脅されてね……」
「そ、そんな……」
「わしは……どうすれば良かったのじゃ? 娘や孫にも、つばを吐けと……そう言えば良かったのか? 孫の命などどうでも良いから、サラ様だけでも逃げてくれと……そう言えば良かったのか?」
やがて……抑えていた爺さんの感情が……爆発した。
「あぁあ! あぁあぁぁーー!」
叫び出すと、老人とは思えない速さで町の外へと走り出していった。
……おそらく、スキルを使っているのだろう。
「まずい、追いかけるぞ!」
……しかし、爺さんは町の外で、魔物に食われて死んでいた。
◇
名前も聞けぬまま、死んでしまった爺さん。
その遺体を埋葬しながら……俺は後悔の念に苛まれていた。
もう少し、爺さんの心に寄り添えていれば……彼の命は……救えたはずだ。
でも……どんなに嘆いたからって、過去を変えられるわけではない。
心に傷を負いながらも……それでも前に進むしかない。
「行こう。鉱山都市グラニットへ……おそらく、あの町も狙われている」
全員が無言のまま頷いた。




