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デバッグアルバイトのおっさん、転生して勇者となる。(デバゆう)~デバッグ知識で、異世界の壊れた運命を書き換える~  作者: うずまき鳥


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宗教都市バルディア

 バルディアの街は、閑散としていた。

 お昼時、人で溢れているはずの広場も、なぜか人っ子ひとりいない。

 あんなに活気のあった街だったのに……


「みんな、どこ行っちゃったんだろ?」


 人がいないだけではなく……妙な違和感がある。

 この街には、何かが足りない。

 そのせいで……妙に胸がざわつく。


 辺りを見渡した、ちょうどそのとき――

 教会の鐘が、ゴーンと鳴った。

 時を告げる鐘の音だ。


 時計なんてめったにない世界なので、みんな数える習慣が付いている。


「あれ? 今、鐘が13回鳴った?」


「鳴らし間違えてしまったのかもしれませんね……」


 しかしその直後、街のあちこちから……低い呪文のような声が一斉に響き渡った。


「エル・イル・アラム・デオミスム……エル・イル・アラム・デオミスム……」


 ……聞いていると背筋がぞくっとなるような不気味な声だ。


「家の中から聞こえてくるみたいだな……」


 その中の一軒をこっそり覗いてみると、家族全員が女神像に向かってひれ伏し、全員で呪文を唱え続けていた。


「エル・イル・アラム・デオミスム……エル・イル・アラム・デオミスム……」


 こんな像、今まで見たことがなかった。

 黒くて禍々しい女神像だ。


「あれが破壊の女神・オブリビアよ」


 アネモネの怒気をはらんだ声。


「この街は……人の心まで、変わってしまったのですね……」


 そして、エリザの寂しそうな声。


「エル・イル・アラム・デオミスム……エル・イル・アラム・デオミスム……」


 祈りは終わりそうになかった。


「行こう……」


 みんな静かに頷き、広場へと戻った。


 ◇


「皆さん、オブリ教の経文を唱えて、お祈りをしてましたね」


「あんなの……祈りじゃなくて、呪いよ!」


 敬虔なセレス教徒のアネモネは辛辣だ。


「国教がセレス教からオブリ教に変わったって話、実感しましたにゃん」


「しかし、あの国王がそれを許すとはな……」


 国葬の後、俺にウィルの形見を託してくれたブライアン=ブレイブハート国王は、とても思慮深い人物に見えた。どういう意図で、国教を変えるなんて判断をしたのだろう?


「……いけど」


「『まずは大聖堂に行ってみましょう。……入れてくれるかどうかは、わからないけど』だそうだ」


「そうね。それがいいわ」


 大聖堂へと向かう途中、あちこちに石像が建っていた。

 これも旅立つ前には無かったものだ。

 等身大で、やけにリアルな造形だ。色や質感的に、石膏像のようなものだろう。


「見て、この像……トルネさんにそっくり!」


 確かに、王都でお世話になった? 商人トルネさんの姿によく似ている。


「え? でもなんであの人が石像に?」


「わかんないけど、急に偉くなって、称えられてるのかも?」


「そんなまさか……」


 この街を出て、まだ一週間も経っていないはずだ。急に像が建てられるなんて……

 いや、いつの間にかあんな禍々しい門が作られていたことを考えたら、何があってもおかしくはないか……


 ◇


 大聖堂の手前には、大きな花壇があった……はずだ。

 なのに、土が掘り返されて、花は一輪も咲いていなかった。


 代わりに大きな立て看板が設置され、こんな文字が書かれていた。


『花になど心を惑わされるな。女神様の美しさのみを称えよ!』


「ひ、ひどいですにゃん……」


「ええ。花を愛する心すら、否定するなんて……」


「……くないし」


「『言うほどあの女神様、美しくないし』……だそうだ」


「ウィルがこの花壇を見たら、悲しむだろうな」


 街に入ったときに感じた違和感……

 その正体に、俺はようやく気付いた。


 街に花が咲いていないのだ。

 以前は窓際や家の前、広場などのあちこちに、小さな花壇が置かれていた。

 そんな光景が当たり前すぎて、気にも止めずにいた。


 しかし、オブリ教が国教になって、街から全ての花が排除されている。

 違和感はやがて……静かな怒りへと変わっていった。


 宗教は人の心を豊かにするもののはずだ。

 花を美しいと思う気持ちを、奪ってはいけない。


「オブリ教のヤツら……馬鹿なんじゃないの!」


 アネモネの言うとおりだ。

 ただ、そんなふうに特定の宗教を完全否定してしまうのは良くない気もする。


『どんな宗教でも、その人の心のよりどころになっています。そのため、表面的な部分だけ取り上げて批判するのはやめましょう』


 会社で毎年見せられる『倫理研修ビデオ』でそう言っていた。


「もう少し、オブリ教について調べてみよう。怒りをぶつけるのは、その後でも遅くない」


「え? なんで庇うのよ?」


「宗教イコール悪、みたいな決めつけは良くないと思うんだ」


「でもさ、実際に信者を騙して悪いことばっかりしてる宗教もあるでしょ? そういうのも批判しちゃダメなの?」


「あ……いや、架空の宗教なら批判してもいいんじゃないか?」


「架空じゃないでしょ! オブリ教はここに、こうして、実在する宗教なのよ?」


 ……確かにそうだ。

 なんかまだ、俺はこの世界がリアルだという自覚が足りないのかもしれない。


「おっと! そろそろ教会に行ってみようか」


「あ、今ヒデオさん、ごまかしましたにゃん」


 ミネアにも突っ込まれてしまった。



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