邪宗の門
飛空艇セイクリッド号――
デバッグでは何度も手に入れていたが、こうして実際に自分の物になったというのは非常に感慨深い。俺たちはこの飛空艇で大空を自由に駆けることができるようになったのだ。
まぁ、こいつを手に入れるまでの経緯は、ちょっとアレだったけど……。
ゲームだと、ここでジャスティス田中先生の名曲『天翔る艇』が、かかるんだけどな……
そう思っていると――
♪~
飛空艇のスピーカーから、その曲が大音量で流れ始めた。
「び、びっくりしたぁ!」
「でも、素敵な音楽ですね」
そう、この曲を聴くとテンションが上がるのだ。
「さぁ、乗り込もう!」
「はい」「うん」「はいですにゃん」「承知」「……たわわ」
返事こそバラバラだったが、みんな同じタイミングで頷いてくれた。
◇
飛空艇内部は、まさにハイテクだった。
金色の壁には謎のランプが点滅し、無数の計器類が動いている。
コクピットらしき場所には、バレット爺さんがいた。
「山田の旦那から。話は聞いてるぞぃ。ようこそ、飛空艇セイクリッド号へ」
「……ごい!」
アヴィがトテトテと爺さんに駆け寄り、抱きついた。
「『師匠おひさしぶり! 飛空艇を動かせるようにしたなんて、やっぱり師匠はすごい!』か……なぁに、いい文献が見つかったからな。ちょいちょいと直しただけじゃ」
どうやらこの飛空艇も、古代文明の遺産らしい。
「それで、タケベの旦那……どこに行きたいんじゃ? わしが操縦するぞぃ」
「そうだな……」
いろいろと寄り道をしたい気持ちはあったが、やはりここは王都に行って、新しく任命されたという『勇者』についての情報を集めたほうがいいだろう。
「まずは、王都に向かってくれ」
「承知したぞぃ! 飛空艇セイクリッド号、はっし」
「ちょ、ちょっと待って!」
バレット爺さんが操縦桿を握り、『発進』と言い切るのを、アネモネが阻止した。
「な、何じゃ?」
「あのさ、この飛空艇……酔わない?」
どうやら、以前の船酔いがトラウマになっているらしい。
「なぁに、酔ったらまた吐けばいい。はっはっは」
豪快に笑うレベッカ。
いや、吐かれるのも困るんだが……
「……いわよ」
「『制御装置が働くから、海を渡る船なんかよりも、ずっと揺れないわよ』だそうだ」
「アヴィの言うとおりじゃ、さぁ! ゆくぞぃ?」
「そうだな。飛空艇セイクリッド号、発進!」
俺の号令で、飛空艇が浮上する。
名曲『天翔る艇』のボリュームが、さらに大きくなった。
……うん! テンション上がる!
◇
飛空艇には、大きな窓が付いている。
そこから見えていた村や森が、どんどん小さくなり……やがて青い空と白い雲しか見えなくなった。
「わ、私たち……本当に空を飛んでるんですね」
「信じられん……このような鉄の箱が、翼も無しに飛ぶなんて……」
「……かげよ」
「『風のクリス……じゃなくて、風の魔光石のおかげよ』だそうだ」
あ……今、絶対『クリスタル』って言おうとした。
しかし、優しい俺は突っ込まなかった。
「そろそろ王都に着くぞぃ」
「え? もう?」
「あっという間ですにゃん!」
「さぁ、新勇者モルテディオとか言うヤツの正体を暴いてやろう!」
そう。『セイクリッド・ハートランド』の勇者は、ウィル王子ただひとり。
オブリ教の新勇者なんて、存在自体がバグだ。
デバッガーとして、見過ごすわけにはいかない。
◇
王都バルディアは、変わり果てていた。
もともとは、堅牢な石造りの城門だったはずなのだが、ちょっと見ないうちに邪悪で禍々しい姿へと変貌していたのだ。
「あんなに美しかった……王都が……」
「オブリ教の奴ら……ずいぶんと悪趣味なのね」
「許しませんにゃん」
王都出身の三人が、ショックを受けている。
無理もない。ほんの短い期間、この街で過ごした俺でさえ……思い出を汚されたような気分になってくる。
ハートランド王国の国教も、セレス教からオブリ教に変わったのだそうだ。
そう、この国自体が、創造の女神セレスティアではなく、破壊の女神オブリビアを称えるようになってしまったのだ。
「街の中がどうなってるのか……確かめなくちゃな。あんまり気が進まないが……」
今、ここでいったい何が起こっているのか?
俺たちは、邪宗の門をくぐり、王都バルディアの内部へと歩を進めた。




