飛空艇対決(1)
突然宣告された、原作者山田疾風怒濤との対決……
一介のデバッグアルバイトである俺に、勝算はあるのだろうか?
飛空艇は、天才カラクリ師・バレット爺さんが考案し、今、開発の真っ最中だ。
爺さんと出会って、開発に協力すれば……手に入る可能性は高い。
こっちが有利な点としては、爺さんの弟子であるアヴィを仲間にしていること。
それと、転生者なので時間が確保できることだ。
観察者の山田疾風怒濤は、睡眠時間しか活動できないからな。
しかし不利な点……知識の質と量に、圧倒的な差がある。
彼は子供の頃から何十年も、この世界を夢で観察し、記録し続けてきた。
ほんの数年、このシリーズをデバッグしただけの俺とは大違いだ。
能力だって未知数だ。
原作者ならではの、とんでもないスキルを持っている可能性もある。
……勝てるのか? いや、でも挑まれた勝負だ。受けて立つしかない。
「アヴィ、君の師匠に聞いたんだけど……力を貸してくれる?」
「……かせて」
「『任せて』だそうだ」
「あ、それも通訳する必要ないですにゃん」
……またミネアに突っ込まれてしまった。
◇
ミネアの師匠であり、飛空艇研究の第一人者・バレット爺さん……。
彼は、ヴァルカニアの北にあるテラピン村に住んでいた。
辿り着くためには、山脈をぐるっと迂回する必要があるのだが……
「ま゛」
変身したアヴィが山を切り拓き、あっという間にショートカットができた。
……マジですごいぞ、MS少女。
「このまま道沿いに進めば、テラピン村に着きますにゃん」
「そうなんだけど、ちょっと寄り道をさせてくれ」
飛空艇を完成させるには、エネル岩という魔石が必要なのだ。
先にこれを手に入れてから、バレット爺さんに会った方が効率がいい。
「この先にある『湖畔の森』に棲む魔物を退治してからにしよう」
「何か考えがあるのね?」
「ああ。任せてくれ」
◇
湖畔の森は、強大な魔物で溢れていた。
巨大な一つ目の熊、クリティカル攻撃を得意とする一角のウサギ。そして黄金色に輝くイノシシ……。
それらは全て、アヴィとレベッカの『カラクリシスターズ』が瞬殺した。
「ま゛」
「ロケットパァンチ!」
特に金色のイノシシは、獲得できる経験値もゴールドも高い。
稼ぎ場所としては最適なのだが、ミネアがちょっと不満そうだ。
「私たち、あんまり活躍できてませんにゃん」
「この先、ちゃんと出番があるぞ。準備していてくれ」
森の奥には、電気を帯びたネズミの大群がいた。
電気ネズミと言っても、マスコット的な可愛らしいモンスターではない。
『エネラット』という、発光するドブネズミだ。
「アヴィ、レベッカ! 気を付けろ! ヤツに触れると、機械が誤動作するからな」
「ま゛」
「承知!」
「ミネア! 水属性の魔法攻撃!」
「はいですにゃん! フラッシュ・フラッド!」
突然現れた鉄砲水によって、エネラットたちは溺死した。
「よくやったぞ、ミネア!」
「活躍したら、頭なでてくれる約束ですにゃん」
「え? そんな約束、したっけ?」
……まぁいいや、と思いながらミネアの頭をワシワシする。
「ずるい! あたしも!」
「ま゛」
「わかったわかった。平等だもんな」
ひとりひとり、順番に頭をなでてゆく。
……それにしてもアヴィ、あの仮面の上からなでられて、感覚とかあるのかな?
◇
やがて俺たちは、湖畔の森最奥部に辿り着いた。
その名の通り、広い湖が広がっている。
ただの湖ではない。光の加減によって、湖面がエメラルドグリーンやコバルトブルーに染まる幻想的な景色が広がっていた。
「すごく……綺麗な場所ですね」
「ああ。ターコイズ・レイクと呼ばれているらしい」
以前と比べると、エリザはこうやって感情を表に出してくれるようになった。
それがすごく嬉しい。
「でも気を付けてくれ。そろそろ、この湖のヌシが出てくる頃だ」
言い終わらないうちに、湖面が急に波打ち……やがてザバァッと真っ黒な影が顔を出した。
「ひっ! ヘビ……ですか?」
「安心しろ。デンキウナギだ!」
「あ、だったら平気ですね」
どの辺が大丈夫なラインなのか、俺にはちょっとわかりかねるのだが、エリザが戦えるなら心強い。
「こいつもさっきの敵と一緒だ。直接攻撃はカラクリを誤動作させる!」
「だったら、あたしの出番ね! グランド・ハリケーン!!」
巨大な竜巻が何本も現れ、湖のヌシに大ダメージを与えている。
……いつの間にか、アネモネの風魔法も進化したようだ。
「よし! とどめだ! ブレイズ・オブ・アルマゲドン!!」
俺が炎系の最上位魔法を唱えると、湖のヌシは一瞬にして黒焦げとなった。
そして死体から、虹色に輝く岩が転がり落ちる。
「エネル岩だ。これを持って、バレット爺さんのところへ急ごう」
「はいですにゃん……あれ?」
ミネアの視線の先には、不自然に貧乏ゆすりをしているアヴィがいた。
「ん? どうしたアヴィ、行くぞ?」
「ま゛ま゛ま゛ま゛ま゛ま゛ま゛ま゛ま゛!!」
「ど、どうしちゃったの?」
「機械の……誤動作だ!」
「そう言えばさっき、尻尾の一撃を食らってましたにゃん」
「ま゛ま゛ま゛ま゛ま゛ま゛ま゛ま゛ま゛!!」
アヴィの右手に怪しい光が集まり始めている。
まさか俺たちに……攻撃をしようとしている?
きゅぃーーーん!!
俺たちが戸惑っている今この瞬間にも……アヴィの右手にはどんどんエネルギーが充填されている。あれを喰らったら……ひとたまりもないぞ?
そのとき――
「グランド・ディスペル!!」
間一髪、エリザの状態解除魔法が発動し、アヴィは正気に戻った。
……いや、効果がばつぐん過ぎて、変身解除どころか全裸になっている。
しかも、付けていた仮面まで外れて素顔が見えている。
……童顔で小動物っぽい可愛らしさだ。
美少女仮面という二つ名も決して誇張ではない。
「み、見ちゃダメです!!」
俺の視線に気付いたエリザが、上着を脱いでアヴィの顔を隠す。
……え? 体は……見て良いのか? さすがに倫理的な問題が……
「彼女、ヒデオさんに素顔を見られるのをすごく恥ずかしがってたから……」
「な、なるほど」
アヴィは気絶したままだ。小柄な割に……スタイル良いな。出るとこ出てるというか……あぐっ!
「体も見ちゃダメですにゃん!」
「喰らえ! サルミブラインド!」
ミネアの電撃魔法をくらい、レベッカの義手から放たれた『まずい飴』に両目を塞がれ……俺も気を失った。




