観察者・山田疾風怒濤
「確かに私は、あのゲームの原作者だが……別にこの世界を作ったわけじゃない。私はこの世界の観察者だ」
山田疾風怒濤の言葉……どういう意味なんだ?
「もう少し詳しく教えてくれないか」
「あぁ。そうだな。この話を誰かにするのは初めてだし、言っても信じて貰えないかもしれないが……ジュゼッペ・タルティーニが作曲した『悪魔のトリル』って曲は知ってるか?」
「夢の中で悪魔が……ってヤツか?」
「そうだ。ある日、タルティーニの夢の中で悪魔が出てきてヴァイオリンを弾き、そのメロディがあまりにも美しかったため、目が覚めてからすぐに書き取ったという伝説がある曲だ。そこでお前に聞きたいんだが……この曲は、盗作だと思うか?」
「自分で見た夢なら……盗作ではないと思うが?」
「そうだな。タルティーニは夢の力に頼らずとも、自力で何曲もの名曲を生み出したからな。では聞くが、もし、彼が書いた全ての曲が夢からの『引用』だったとしたら……彼は作曲家と呼べるだろうか?」
「何が言いたいのかわからないが……自分で書いてないなら、作曲家とは呼べないだろうな」
「そう、それが私だ」
「……え?」
「私は子供の頃からずっと、同じ世界の夢を見ていた。それがハートランド王国だ。夢で見た人物や出来事を、起きて細かくメモしていたら……いつの間にか、ゲーム一本分の物語が完成していた。それが『セイクリッド・ハートランド』だ」
「そうか。だから原作者ではなく、観察者なのか……」
「まぁ、自分の夢から盗作した『剽窃者』なのかもしれないがな……」
そう言って山田疾風怒濤は寂しそうに笑った。
夢で見た物語を引用し、ゲームを作る……ちょっとしたチート能力だ。
そのゲームが大ヒットして有名人となり、天才ゲームクリエーターとして、もてはやされている山田疾風怒濤。そうか……時折インタビューで見せる自嘲的な発言は、それが理由だったのか……
「ってことは、あんたは俺と違って、死んでない?」
「そうだ。目覚まし時計が鳴ったら、私は元の世界に戻る」
山田疾風怒濤は転生者ではない。
ハートランド王国という『夢の世界』と、日本という『現実世界』を、行ったり来たりできる人間……
だとしたら……真っ先に聞きたいことがある。
「教えてくれ。日本はどうなった? あの地震は……?」
「北関東大震災のことか。地震の規模としては大きかったが、震源地の影響で津波の被害が少なかったのは不幸中の幸いだった。死者は20名くらい? ただ、ナッシング・トゥ・ルーズ社の建物は老朽化していたから、倒壊して数名の死者が出た」
「それが……俺か……」
「ああ。残念ながらな」
「じゃあ、あのゲームは? 『セイクリッド・ハートランド4』は……無事発売されたのか?」
「いや、エクスプロージョン&グローリア社も少なからず被害を受けたからな。発売は一年延期された。で、その期間を利用して、シナリオやシステムを全面的に見直したってわけだ。主人公も、名前入力したキャラひとりになり、セイクリッドセブンはその仲間という仕様にも変更した」
「そりゃ、大改装だな」
「あぁ。現場からはだいぶ叩かれたが、私が強行した」
……そうか。発売は1年延期されたのか。
正直、欠点の目立つ作品だったから、1年間ブラッシュアップできるのは作品にとっては良いことだ。システムやシナリオも見直し……ん?
不意に俺の心は、どうしようもない怒りの衝動に支配された。
「じゃあ、やっぱりあんたが……あんたがシナリオを書き換えて、ウィル王子を殺したのか!!」
胸ぐらを掴んで持ち上げる。
「んぐっ……く、苦しい……」
「言え! 正直に答えろ!!」
山田疾風怒濤は小太りで、体重は間違いなく90キロ近くあるだろう。
しかし、俺の腕力が上がっているせいか、簡単に持ち上がった。
「違うって! とりあえず下ろしてくれ。……せ、説明するから!」
「わかった。聞かせて貰おうか……」
俺は腕の力を緩め、山田疾風怒濤を地上に降ろした。
「何度も言ってるが、私は観察者だ。基本的に、自分でシナリオは書かない。ただ、私の見る夢はランダムなんだ。場所も、時代もな。だからネタが足りなければ私が想像で補完し、作っている部分もある。『セクハラ4』で言えば、港町アエリアのマルケーノフのあたりだ」
「だからあそこのシナリオだけ、妙にクオリティが低かったのか……」
「わ、悪かったな!」
「事実だろ?」
「まぁ、否定はしない。あのエリアだけ、どうしても夢で訪れることができなかったんだ。でも震災後、冒険者時代のマルケーノフに会うことができた。私は観察者だから、物語には干渉しない。そんなポリシーでこの世界を訪れていたが、このときだけ禁を破ってヤツに忠告した。『お前の魔物使いの能力、もっと活かせよ』ってな」
「…………」
口には出さなかったが、ヤツは俺のレポートをちゃんと読んでくれたようだ。
「ただ……マルケーノフに会って以来、いろいろと頼られるようになって、私も調子に乗って隠し宝箱の場所を教えたりはした。でも、まさかヤツがウィル王子を殺すとは思ってもみなかったんだ。それは信じてくれ」
「まぁ、あんたにとっても大切なキャラクターだったろうからな」
「そうさ。私はウィル王子が大好きだった。私だって、あんな未来は望んでなかったんだ。……そもそも、この作品を作ろうと思ったのも、彼の偉業を伝えたいと思ったからなんだぞ?」
……だとしたら、俺はウィル王子の仇を、どうやって討てば良いのだろうか?




