観察者との邂逅
「キャー! 誰か覗いてる!」
せっかく俺が、令和の倫理基準を守って紳士的に行動しているというのに……
女湯を覗く、などという罪を平気で犯す奴がいるなんて……うらやま……じゃなくて許せん!
「だ、大丈夫か?」
「平気ですにゃん。レベッカさんが捕まえましたにゃん」
「すごいんだよ。義手から網が出て、のぞき魔はもうがんじがらめ」
「あの……ヒデオさんは、私たちが服を着るまでもう少し待ってください」
……
…………
………………
時間にして、5分ぐらいだったと思う。
しかし俺には5時間ぐらいに感じた。
いったい、誰が覗きを?
ここに来るまでの洞窟……結構手強い敵がいたはずだけど……
まさか単独でここまで?
敵……なのか?
……っていうか、みんな見られちゃったのか?
たくさんの疑問が、頭の中でぐるぐると回る。
◇
「はい。もういいですよ」
ようやくエリザから許可が出て、女湯へと向かう。
そこには、きっちりと服を着た女の子たち。
……湯上がりの上気した肌と、濡れたままの髪が色っぽいな。
おっと、邪念は滅却しなければ。
もちろん、アヴィもしっかりと仮面を被っている。
……あぁ、素顔を見たかったな。
そして、網で拘束されたアロハシャツの男。
……ん? アロハシャツ……まさか……
見るとアロハ男の目には、あのまずい飴がびっしりと貼り付いて、目隠しのようになっている。
きっとこれもレベッカの義手から発射された物なのだろう。……便利すぎるだろ、あの義手。
「覗き魔は、許しませんにゃん!」
「そうだな。少し痛い目に遭わせてやろう」
レベッカが男に剣を向けている。
「や、やめてくれ、怪しい者じゃない。俺はただの観察者なんだ」
「つまり、覗きを白状したってことね?」
「ち、違う! 観察者だ!」
「どこが違うのよ!」
アロハ男の声にも聞き覚えがあった。
よく、インタビュー動画などで聞き慣れた声だ。
「目隠しをとってあげてくれ。それと……俺はこの男と二人っきりで話がしたい」
「わ、わかりましたにゃん」
こうして、この世界の原作者・山田疾風怒濤との対話が始まった。
◇
「原作者の山田疾風怒濤先生ですね?」
「ああ、そうだ。でも『先生』はやめてくれ。敬語も必要ない。同じ日本人同士だからな」
「わかった。そうさせてもらう」
「私のことを知ってるなら、自己紹介の必要もないな。それじゃ、こっちからも質問させてくれ。お前は、転生者か?」
「そうだ。他にもいるのか?」
「死体で3体ほど確認された。生きてる転生者に会ったのは初めてだ」
確かに、この世界の魔物は強い。いきなり転生したら、瞬殺されてしまうのが普通だろう。あの二階堂主任のように……
「俺は元の世界で、このゲームのデバッグをしていた。そのときに得た知識やスキルで、なんとかここまで生き残ってきたんだ」
俺がそう言った途端、山田疾風怒濤は嘲るような表情になった。
「そうか、ただのデバッガーか。安心したよ。開発者だったら、この世界を勝手にいじくりまわされちまうからな。そう言えば、『始まりの森』の宝箱を開けたのはお前か?」
「……あぁ、そうだが?」
少しむっとしながら、俺は頷いた。
「まぁ、そのくらいならお前にくれてやるよ。でもデバッガーなら今後は分をわきまえて行動してくれよな。今のお前、ちょっとラノベとかの主人公気取りじゃないか?」
……くそっ! どんどん腹が立ってきた。
「俺のことだったら、何を言われても反論する気はない。大した人間じゃないからな。でも、デバッグという仕事を馬鹿にするのはやめてくれ」
「……ん? 馬鹿にしたつもりはないが……まぁ、下には見てるかもな。あの仕事は、クリエイティブではない」
「く、クリエーターのくせに、デバッグの重要性がわからないのか?」
「あぁ、知らないし、わかる気もないね。デバッグの仕事なんて、ゲーム作りの底辺だ。私から言わせて貰えば、デバッガーなんてただのモブに過ぎないんだよ」
……なんだこの傲慢な態度!
俺は怒りにまかせて言い返した。
「モブなんて名前のキャラクターはいない!」
「へぇ……その台詞のネタ元は?」
「しょ、植物学者・牧野富太郎のパクりだ」
「『雑草という名の草はない』だな。某漫画や、さる高貴なお方の台詞としては有名だが、原典を知ってる奴はあまりいない。ふふっ……お前とは話が合いそうだ」
「そりゃどうも」
「確かにさっきは言い過ぎたよ。すまん。撤回する」
「なんで急に?」
「まぁ、私自身……お前らを馬鹿にできるほど、大したヤツじゃないからな……」
「謙遜か? あんたは原作者だろ?」
「ああ。確かに私は、あのゲームの原作者だが……別にこの世界を作ったわけじゃない」
「ど、どういう意味だ?」
「さっき言ったろ、私はこの世界の観察者だって……」
原作者じゃなくて、観察者? ……なんだか、頭が混乱してきた。




