令和の温泉サービス回
温泉へと続く洞窟は、ヴィヴァノンの隠し洞窟と呼ばれている。
……たぶん、これも昭和ネタだ。
魔物も何体か出たが、すべてレベッカのロケットパンチで瞬殺された。
そしてついに……
「わぁ! ほんとに温泉がある!」
「天然の露天風呂ですにゃん!」
洞窟を抜けると、露天風呂があった。
入口が岩で塞がれていたわけだから、ここは自然が作り出した天然の温泉という設定なのだと思う。でも、その割にやたら近代的というか……広さは25メートルプールぐらい。きっちりとした岩組みで、しかも男湯と女湯がついたてのような岩で不自然な程しっかりと分断されている。
もちろん、これには理由がある。
昭和や平成のレトロゲーム……例えば桃太郎が電車に乗るシリーズなどでは、サービスシーンとして女湯を覗けるイベントがあった。花の名前のついた女の子たちが勝利のポーズを決める大戦ゲームでも隊長が「か、体が勝手に……」と、ふらふらとシャワー室へ向かうのが恒例だった。
でも今は令和だ。
倫理的にも、いろいろと厳しくなってきているのだ。
女湯を覗くこと自体は犯罪だ。これをサービスシーンなどといって、肯定的に描くこと自体がNGになってきている。確かに覗かれて裸を見られてしまった女の子の気持ちをまったく考えていない。これはジェンダー的に見てもアップデートが必要なのだ。
まぁ、俺自身は正直「そこまで厳しくしなくても……」とは思う。でも、今がそういう倫理基準になっている以上、デバッガーとしてはそれを元にチェックする必要がある。そして、そのチェックする側の仕事をしていた俺がリアルで女湯を覗くなんて、あってはならないことなのだ。
「ふぅ……いい湯だな」
広い男湯で、独り言を呟く。
当然、誰も返事なんてしてくれない。
なんでこのパーティ、男が俺だけなんだ?
「やっぱなんか、寂しいな……」
あぁ……今が昭和、いや、せめて平成だったら良かったのに……
残念ながら今は令和。俺の体が勝手に動き出すことはない。
◇
隣の露天風呂からは、女の子たちの歓声が聞こえてくる。
……覗くのはダメだけど、まぁ聴くぐらいなら問題ないだろう。
「ねぇねぇ、アネモネさんって……やっぱり、ヒデオさんのこと好きなんですかにゃん?」
「そ、そんなわけ……ないでしょ……」
おっと、ミネアとアネモネの恋バナが始まったぞ。
これは聞き逃すわけにはいかない。
「はっはっは。確かにそうだな。あのおっさんとアネモネでは、年の差がありすぎる」
「あの……おっさんと言うほどの年齢ではないと思います」
「え? なんで急に庇うの? ひょっとしてエリザもあいつのこと……」
「ち、違います!」
「あ、今アネモネさん『エリザも』って言いましたにゃん。つまりアネモネさんは……」
「ミ、ミネアだって、ヒデオのこと好きなくせに!」
「私は最初から、ヒデオさんのこと大好きですにゃん」
「あ、あたしだって……」
「はっはっは。気が合うな」
「え? まさかレベッカも?」
「ああ、あんないい男、なかなかいないぞ? なぁ、エリザ」
「ひ、否定はしません」
……な、なんか急にモテ期到来か?
いや、勘違いしちゃダメだな。これはあくまで、仲間として信頼してるとか、人間として好感が持てるとか、そういう友情っぽい『好き』だ。
そんな風に考えていると……
「……たわわ」
「え? 誰?」
「知らない女の子? ……って、まさかアヴィさんですかにゃん?」
「おぉ! 仮面を取った顔、初めて見たぞ」
「まぁ、そんな可愛らしいお顔、隠すなんてもったいないですよ?」
「意外と幼いですにゃん」
「ってこら、今私の胸を見て『幼い』って言わなかった?」
「……たわわ」
「ええ、そうですよ。あたし以外、全員たわわな胸ですよ」
……あぁぁ、見たい。
いや、これは決して女湯を覗きたいという意味ではない。
仮面に隠されたアヴィの素顔を……どうしても見たい。
しかし、令和の倫理基準に縛られている俺には、体を勝手に動かすことすらできない。
この時ばかりは、昭和の倫理基準を羨ましく思った。
アヴィの素顔が見たい。しかし女湯は覗けない。
そんなジレンマに身もだえするほど悩んでいると――
「キャー! 誰か覗いてる!」
女の子たちの悲鳴が聞こえてきた。
……お、俺じゃないぞ。
俺じゃないからな。
……っていうか、誰?




