ヒデオの秘密(2)
「わかった。ちゃんと話すよ。俺の秘密を……」
ついにこのときが来てしまった。
もちろん、みんなの疑問に対して、正直に答えるつもりだが……
だとしても、説明が難しい。『ゲーム』なんて概念、ないだろうし……
「みんな聞いてくれ。俺は、こことは違う世界で暮らしていたんだ。こっちの世界の常識を知らなかったり、特別なスキルを持っていたりするのはそのせいだ。でも信じてくれ。俺はこのスキルを悪用するつもりはない」
「それは、信じるわ」
「はい。一緒に旅をしてきた私たちならわかります」
「それで、ヒデオさんのいた世界って、どんなところですにゃん?」
「そうだな。説明が難しいんだけど……そう、物語が溢れている世界だ。例えて言うなら……図書館とか? 俺はそこにあるたくさんの本の間違いを見つけて、報告するような仕事をしていたんだ。ここまではいいかい?」
「うん。なんとなく、イメージはできるわ」
「その仕事で出会った1冊の本……そこに、このハートランド王国のことが描かれていたんだ。ウィル王子や、君たちのことも……全部描かれていたんだ」
「予言の本……ということでしょうか?」
「俺もそう思っていた。途中まではその本に描かれていたとおりに物語が進んでいたんだ。実際、俺はその知識を使って強くなった。そして、自分の信じる『正義』のために頑張ってきたつもりなんだ」
「大丈夫。そこはみんながわかってるわよ」
「そうですにゃん」
「ありがとう。でも……いつの間にか未来は書き換えられていた。その本の中では、ウィル王子は生きていたし、レベッカは腕を切られなかったし、マルケーノフだって、あんなに強くなかったんだ。俺の知識は……もう通用しないんだ……」
「ヒデオさん……」
声を落とすエリザ。しかしアネモネは、わざと明るい声を出し、俺の肩をどーんと叩いた。
「こら! なぁに下向いてんのよ! 未来が見えないなんて、当たり前のことでしょ? 逆に、これまで見れてたのがラッキーだったのよ!」
「まぁ、確かにそうかもな」
「あの……ひとつだけ……教えてください。その本の中で、ウィルは……どんな活躍をしたのですか?」
「それはもう大活躍だったぞ。ウィル王子は物語の主人公として、勇者となり……セイクリッドセブンを全員仲間にして、ついに魔王デオメットを倒すんだ!」
「……だったら私たちも、ウィルの遺志を継いで、魔王デオメットを倒しましょう。だって私たち、勇者パーティなんですから」
「確かにそうだな」
「私たち5人、最強ですにゃん!」
「……にんよ」
「え?」
「『いいえ、6人よ』だそうだ」
「それって、アヴィも仲間になってくれるってこと?」
「……ちろん」
「『もちろん』って言ってる」
「あ、それは通訳しなくてもわかりますにゃん」
「……そ、それもそうだな」
こうして、アヴィゲイル=ダークハートが仲間になった。
◇
アヴィはカラクリ師だ。戦いは決して得意ではない。
……と思われがちなのだが、実はかなり強い。
機械の装甲を身に付けて、魔法ではなく科学の力で敵と戦うのだ。
そう。ガ○ダムで例えるなら、MS少女だ。
(いや、微妙に例えてない気もするけど……)
今、俺たちは例の高台にいる。
ここでアヴィが変身シーンを見せてくれるというのだ。
正直、不安しかない。
デバッグで何度も見たけど……あの変身シーンのムービー、すごく長いのだ。
しかもスキップができない。
二回目以降は、短縮版の変身ムービーが流れるのだけど、短縮版でも結構長い。
「お、そろそろ始まるぞ」
アヴィは両手を広げると、天を仰いで決め台詞(彼女の台詞の中で作中最長の文字数)を叫ぶ。
「泣いてる誰かがいる。駆けつける私がいる。今こそ変身、アヴィゲイル!」
すると被っている仮面の目が光り出し、そこからビームのような光線が発射される。
やがてビームは、アヴィの足下に魔方陣を描き出すと、魔方陣全体から虹色のオーロラが発生。
ガシャン、ぎゅぃーーーん!!!
オーロラはやがて結晶化し、アヴィの右足を覆い……左足を覆い……
その後、右手、左手と、どんどん装甲が広がってゆく。
やがてシャボン玉が飛んだり、謎の回想シーンが始まったり……
「……って、長いのよ! もっとちゃちゃっと変身してくれない?」
確かに長すぎる。
長すぎて敵のワイバーンもイライラしているように見える。
「アヴィ、変身の途中悪いがワイバーンだ!」
「ま゛」
アヴィは慌てて変身を完了させた。
ちなみに変身後のアヴィは『ま゛』しか喋らない。
これも古いアニメのリスペクトらしいが、古すぎて俺は全然知らない。
「ま゛」
敵の姿を確認すると、アヴィの背中に取り付けられたランドセルのような部分から青い炎が吹き出し……アヴィは空を飛んだ。
「おぉっ!」
「すごい! 翼もないのに飛んでますにゃん!」
「ま゛」
アヴィの右手にはビームサーベル。そして左手には小型の丸い盾。
ビームサーベルで殴るのか……と思ったら……
「ま゛」
なんと、盾をフリスビーのように投げて、ワイバーンたちを真っ二つにした。
「ま゛」
「すごいぞ俺たちのキャプテン!」
「でもさ、飛び道具使うなら……本人が空飛ぶ必要なくない?」
アネモネに冷静に突っ込まれ、気まずくなったのか、アヴィが小声で……
「ま゛」
と呟いた。
◇
蛇の道入口のすぐ近くに、明らかに不自然な岩がある。
背景と馴染んでなくて、『ここ破壊できますよ』と岩んばかり……いや、言わんばかりの岩だ。
実際、原作ゲームではこの岩の裏に洞窟の入口が隠されていた。
「アヴィ、ちょっとこの岩を殴り壊してくれないか?」
「ま゛」
右手で腰だめのパンチ。
どごーーーーん!!
巨大な岩は粉々に砕け、洞窟の入口が現れた。
「みんな。この先に温泉があるんだ。行ってみないか?」
「え? 行く行く!」
「いいな。ちょうど汗を流したかったところだ」
「温泉、いいですね」
「楽しみですにゃん」
「ま゛」
「あ、アヴィはそろそろ、変身を解いたほうがいいぞ」
こうして俺たちは、温泉へと向かうこととなった。




