義手完成!
機械都市ヴァルカニアに戻ると、街のネオンは既に明るくなっていた。
「なんか、派手になってますにゃん」
「派手って言うか、どぎつい感じよね……」
まぁ、確かにちょっと、明るくなり過ぎな感じがしないでもない。
動く歩道もきちんと動くようになっている。
「これであの人たち、ますます運動しなくなるんじゃない?」
言った後、辺りをキョロキョロしながら……
「あ、今のは批判じゃないからねっ!」
と念を押すアネモネ。
「そうですにゃん。街が便利になりすぎると、ますますみんな出不精に……はっ!」
「い、今……デブって……」
「大変! ヤツらが来るわ!」
ミネアがタブーを破ってしまったため、またデブ軍団がわらわらと集まってくる。
「あぁ! もうこの街、めんどくさい!」
俺はとっさに、『茶色い飴玉』を投げた。
すると、みんなが一斉に反応する。
「おっと! 飴ちゃんだ!」
「甘味! 甘味!」
「俺にもっとカロリーを……!」
飴玉の落ちた方向へと、我先に走ってゆく。
まさに、デブまっしぐらだ。
「ヒデオさん、ありがとうございますにゃん」
「いや、もともとミネアがくれた飴だったからね」
そう、サブクエ『ミネアの落とし物』イベントで得た報酬が、こんなところで役に立ったのだった。
◇
研究室に入ると、アヴィが迎えてくれた。
相変わらず巨大な仮面を付けていて表情はまったく見えないが、ぴょんぴょん跳びはねているので喜んでいることはわかる。
「……しね」
いきなりの暴言だが、もう誰も動揺しない。
「『あなたたちのおかげで、電力の供給が安定したわ。義手もほとんど完成してるし、これでようやく装着テストができるしね』だそうだ」
「うんうん。よかったわ」
「……ぺったんこ」
「だ、だぁれの胸がぺったんこですってぇ?」
……さっきの『もう誰も動揺しない』って言葉、撤回させてもらおう。怒りだしたアネモネを、俺が必死でフォローする。
「いや、違うって!『でもその前に、何か食べ物持ってない? ずっと研究してて、私のお腹ぺったんこ』って言ったんだよ」
俺がアイテムボックスから、おにぎりを取り出して渡すと、アヴィはいたく感動したようだ。
「……きるわ」
「『すごい! 片手でご飯食べられるなんて画期的! これなら研究と栄養補給を両立できるわ』……だそうだ」
この味に感動して、アヴィはその後『魔導おにぎりマシーン』を作ってくれるのだが、それはまた別の話だ。
◇
「……たわわ」
「ま、また胸の話をしてるの!?」
アネモネの被害妄想がひどいが、もちろんアヴィはそんなこと言ってない。
「『義手はもう、ほとんど完成してる状態よ。前金貰えたおかげで、だいぶはかどったわ』だそうだ」
「増えてる! 『わ』がひとつ増えてるじゃない!」
……たぶん、アヴィなりのわかりづらいジョークなのだと思う。
彼女の通じにくい会話はさらに続く。
「……ぬいで」
「い、いきなり『脱いで』なんて……どういうこと?」
またアネモネが突っ込むが、これは言葉通りの意味だ。
「『これから装着テストをするから、レベッカさん服を脱いで』だそうだ」
「そうか、では脱ぐとしよう」
躊躇なく脱ぎ出すレベッカを見て、ミネアが慌てる。
「ま、まだ脱いじゃダメですにゃん! ヒデオさんが見てますにゃん」
「ん? 私は別に気にしないが?」
「あたしたちが気にするの!」
……と、部屋を出されてしまった。さみしい。
あ、いや! 別に見たいわけじゃなくて、純粋に義手の進捗状況に興味があるんだぞ。
あくまでも、スポンサーとして……
◇
ビビビビビッ!!
バシッ!!
「あうっ……くっ!」
どごどごっ! ゴビビューン!
「あぁぁ!!!」
隣の部屋から、怪しげな機械音とレベッカの苦しそうな声が聞こえてくる。
何が行われているのか、ものすごく興味深い。
「あふんっ……んあぁぁっ!!」
どうしたんだレベッカ、大丈夫なのかレベッカ! ……いろいろと心配だが、俺はただ待つことしかできない。
しばらくして、エリザがやって来た。
「ヒデオさん、もういいですよ」
そう言われて研究室に入ると……
「ヒデオ殿、見てくれ! すばらしい出来だぞ!」
喜んでいるレベッカ。
すごい……というか、左手との違いがわからないくらい違和感がない。
「ありがとう。ヒデオ殿、これはいいものだ」
「触っても?」
「もちろんだ。好きなだけ触るといい」
恐る恐る触れてみたが、肌のきめの細かさ、弾力、体温までが本物そっくりだ。
「違和感なく動かせるし、触感まである。アヴィゲイル殿の技術は素晴らしいな!」
「ああ、まるで本物の腕みたいだ。こうして触り比べても、どっちが義手だかわからない」
「ちょっとぉ、いつまでレベッカの腕、触ってるのよ?」
なんか、アネモネがジト目になってこっちを見ている。
「……たわわ」
『“この世界に、『役に立たない物』などない。ただ、それを『役立てられない者』がいるだけだ。”……これがダークハート家の家訓よ。みんなが集めてくれた物のおかげで、いい仕事ができたわ』だそうだ。
「だから、なんで『わ』が一個多いのよ」
「あの……結局、私のまずい飴だけ……役立てられなかったのですかにゃん?」
「……わよ」
「『そんなことないわ。人差し指の第二関節を押すと、指先から飴が発射できる機能を付けたわよ』だそうだ」
「どれ、試してみようではないか」
バシュッ!!!
レベッカの右手人差し指から、真っ黒い物体が発射され――
ミネアの口の中へと飛び込んでいった。
「ぎにゃーーーー! ま、まずいですにゃん!!!」
……この機能、今後使い所があるのだろうか?




