名前を言ってはいけないダンジョン
ヴァルカニアにある全ての機械は、魔導エネルギーによって動いている。
そして魔導エネルギーは、魔光石の力を源としている。
この魔光石……どう見ても青いクリスタルなのだが、ゲーム中は頑なに『クリスタル』とは呼ばず、『魔光石』と言い続けている。……きっと、大人の事情があるのだろう。
アヴィが言っていた北の洞窟は、別名『魔導坑路』と呼ばれるダンジョンだ。
しかし、もうひとつの別名があって……
「あのさ、エリザ……今回のミッション、エリザは同行しないほうがいい気がするんだ」
「なぜですか? ダンジョン探索には、回復役は不可欠なはずです」
「それは……そうなんだけど……何て言うか、あそこは君が苦手な敵が出ると言うか……」
「いいえ。私に苦手な敵などおりません。どうか同行させてください」
「その……『へ』で始まって……『び』で終わるヤツ……」
「平穏な日々……でしょうか?」
いや、残念ながらこれから話すのは……平穏ではなく、不穏な情報だ。
「じゃあ、はっきり言うけど、あのダンジョンは別名『蛇の道』と呼ばれてるんだ」
「ひっ!」
廃墟タルカスでも聞いたが、エリザは蛇が苦手だ。
『蛇』という言葉を聞いただけで、身がすくみ上がる。
「へ……例のあの、長ひょろい魔物が……たくさん出るのですか?」
「あぁ、洞窟の中は蛇と……蛇の卵でいっぱいだ……」
「ひぃぃ……で、でも……行きます! 聖女に二言はありません!」
だいぶ不安な要素を抱えながらも、俺たちは『蛇の道』……いや、名前を言ってはいけないダンジョンへと向かった。
◇
洞窟は高台を越えた先にある。
俺は迷わずここで【ENTRY_OFF】を使った。
実はこの高台には、上位種のワイバーンが出るのだ。
そう、港町アエリア付近でも現れた魔法耐性のあるワイバーンだ。
原作ではウィルの持つ『勇者の剣』の斬撃が効いたのだが、今の俺たちには火力不足だ。
アネモネの風魔法に頼っても良かったのだが、洞窟探索の前にMPを使いたくなかったので、ここでのバトルはスルーしてまっすぐ洞窟へと向かうことにした。
◇
「さて……いよいよ、例のダンジョンへと進むわけだが……」
「か、覚悟はできています」
不安を抱えつつも、ダンジョンへと潜入する。
すぐさま、奴が現れた。
キシャーーーー!!!
巨大な筒状の口には、びっしりと生えた牙。
そう、サンドワームだ。
ぬめぬめとした硬い皮膚に覆われた長い体……エリザは、こいつと戦えるのか?
しかし……対峙したエリザは、意外な反応を見せた。
「え? これは……ミミズじゃないですか。私、ミミズなら平気です」
「へ? そうなの?」
「はい。全然問題ありません」
……そ、そう言うものなのだろうか?
まぁ、だとしたらこのダンジョン攻略は楽勝だ。
レベッカとアネモネが跳躍し、サンドワームは一瞬でバウムクーヘン状の輪切りとなり、すぐに力尽きて消えた。
「洞窟の中では、あまり派手な魔法は避けたい。レベッカとアネモネが頼りだ!」
「承知した」「任せて!」
こうして俺たちは、『蛇の道』を奥へ奥へと進んでいった。
◇
『蛇の道』地下3階――
ここには恒例の隠し空箱がある。
レベッカ用の高性能な刀があるはずなのだが……
案の定というか、残念ながら……宝箱は既に開けられた後だった。
「くそっ! 山田疾風怒濤め……」
もう間違いない。これは山田疾風怒濤の仕業だ。
「ねぇ、ヒデオ……何悔しがってるの?」
「あ、いや……たいしたことじゃないんだ」
そう、全然たいしたことじゃない。
ただ単に、宝箱を一個、取り逃しただけだ。
RPGをプレイしていたら、こういう『取り返しのつかない要素』ってのは、よくある話だ。
◇
魔導坑路の最奥部――
そこには巨大なクリスタル……もとい、巨大な魔光石が安置されていた。その周囲には、エネルギーを取り込む装置と、そこから伸びる長いパイプライン。おそらく、機械都市ヴァルカニアまで続いているのだろう。
しかし、サンドワームによってパイプラインの半数が破壊されていた。
「よし! あそこにいる一番でかいサンドワームを倒そう!」
「はい」「承知」「任せて」「はいですにゃん」
エリザも気合い充分だ。
……それにしても、蛇は苦手でミミズは平気って、どういう感覚なんだろう?
まぁいいや。戦おう!
サンドワームのボスは、サンドキングという名前だった。
……なんか、名前だけ聞くと妙においしそうだ。
「はっ!」
レベッカが剣を一閃すると、サンドキングの堅い皮膚に無数の切り傷が刻まれる。
片腕でこの戦闘力って……義手が完成したら、どれだけ強くなると言うのだろう?
「必殺、MNC!! 」
アネモネが放った8本の矢はすべて、レベッカが作った傷の中心を正確に射貫いていた。
これは楽勝だな。
そう思った直後――
サンドキングは、口から粘液を吐いた。
辛うじて避けるレベッカ。
しかし、その背後の岩はドロドロに溶けている。
これをくらったら、ひとたまりもない。
「また来るぞ! 気をつけろ、アネモネ!」
「わかったわ!」
避けることに集中していたおかげで、こっちの被害はゼロだ。
「いくわよぉ!」
アネモネの放った特大の矢が、サンドキングの頭に刺さる。
「ミネア! 魔法攻撃だ!」
「はいですにゃん! サンダーフォール!!」
ミネアが雷魔法を放つ。
おそらく、元々持っていた光魔法が進化したのだと思うが……いつの間に覚えたのだろう?
雷はアネモネの放った矢を避雷針にして、サンドキングの肉を黒焦げにした。
「やったのか?」
レベッカのフラグっぽい言葉を聞いた瞬間、嫌な予感が走る。
「いや、もう一発来る! エリザ、防御魔法を!」
俺がそう叫んだ直後、サンドキングが大量の粘液を放った。
「プロテクション!!」
とっさの判断だったが、エリザのプロテクションがなければ、みんなダメージをくらっていただろう。
「ヒデオさん、とどめを!」
エリザに促され、俺も高く跳躍する。
「喰らえ! ヒデオスペシャル!!」
適当に考えた必殺技名だが、悪くない感じだ。
着地すると同時に、サンドキングは真っ二つになった。
「やりましたね!」
「すごいですにゃん!」
「うむ。さすがだな!」
しかし、アネモネだけは冷静に……
「あのさ……さっきの技名、前に作ったフルーツポンチと同じだけど……いいの?」
「あ、いや……やっぱり無しで……」
最後は、ちょっと締まらなかったが……これで機械都市ヴァルカニアの電力事情も改善されるだろう。
俺たちは、アヴィの待つ研究室へと急いだ。
ちなみに帰る途中、アネモネから『なぜ三度目の粘液が来るのを予測できたのか?』と聞かれたが、俺は曖昧な返事で誤魔化した。
『二度あることはサンドワーム』なんてダジャレが思い浮かんだせいだなんて答えたら、さらに馬鹿にされてしまうからな。




