役に立たない物勝負(2)
レベッカが持ってきたのは、『引けない弓』だった。
「武器屋に捨て値で売られていたのだが、この弓……剛性が強すぎて、どんな力持ちでも引くことができないのだそうだ。まぁ、私は片腕だから、そもそも引けないのだがな。ははは」
……いや、そんな乙○さんみたいな自虐ジョーク言われても反応に困る。
俺も試しに引いてみたが、やはりビクともしなかった。
「認定! これも役に立たない!」
「よし!」
満足そうに左手でガッツポーズするレベッカ。
でも正直、そんなに喜ぶようなことではないと思うのだが……
そして最後に残ったのは、ミネアなのだが……
彼女はなぜか、涙目になっている。
「ん? どうした、ミネア」
「うぅっ……失敗しましたにゃん」
ミネアは大きめの箱を抱えている。
箱の中には……大量のサ○ミアッキが入っていた。
「こ、これはあの……世界一まずい飴……でもどうして?」
「さっきの道具屋さんに戻ったら、『お嬢ちゃん、この飴おいしそうに食べてたよね。サービスするから持ってきな』って、無理矢理押しつけられましたにゃん」
「ま、まぁ……これもある意味、役に立たない物と言うことで……認定!」
「ぐすっ……ありがとうございますにゃん……」
……いや、泣くようなことではない。
◇
ゴムタイヤの味がする世界一まずい飴、伸びて正確に測れない定規、やたら口の悪いセルロイド人形、剛性が強すぎて引けない弓、そしてどんなに火を焚いても、沸かせない鍋……。
俺たちは、これらの『役に立たない物』を、フリーマーケットで売り始めた。
「うわっ! この店、趣味が悪いな」
「品揃えのセンスなさ過ぎ! 馬鹿なんじゃない?」
来る客全員が、そんな捨て台詞と共に去って行く……
「うぅ……心が削られていきますにゃん」
「ヒデオ、もうやめようよ。こんなの意味ないよー」
「いや、この悪評こそが、俺の求めている物なんだ」
そう、役に立たない物ばかりを集めたフリーマーケット。
この悪名が広がれば……彼女は、必ず現れる。
「商売をなめてる」「見てて不快」「頭おかしい」「死ね」
次々と浴びせられる罵声に、ミネアの目はぐるぐるになっている。
「あぅーごめんなさい……私は悪い猫ですにゃん……」
落ち込むミネアを慰めながら、アネモネは懸命に売り込みを続ける。
「いらっしゃいませー! 役に立たない物屋さんへようこそ!」
「うるさい!!」
柄の悪い客が、アネモネに『あっちいけ』という感じで手を振った。
その手が偶然、アネモネの顔に当たった。
「いったーい! なんでぶたれなきゃなんないよの!」
怒るアネモネ。しかし……
「やばい! それはこの街では禁句だ!!」
なん『でぶ』たれなきゃ……偶然重なった文字が悲劇を引き起こす。
「でぶって言ったなぁ?」
「確かに言ったぞ。あの女……許さん」
「でぶじゃない。ふくよかと呼べ」
「ヘイトスピーチ反対!」
街中の太った男たちがわらわらと集まり始め……アネモネを取り囲む。
「あああっ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
すっかりトラウマになってしまったようだ。
◇
……もう限界だ。時間も遅いし、そろそろ店を畳まなければ、みんなのメンタルがヤバいことになる。そう思い始めた時――
不気味な仮面を被った小柄な少女が現れた。
間違いない。彼女だ。
セイクリッドセブンのひとり、アヴィゲイル=ダークハートだ。
「い、いらっしゃいませ!! みんな、彼女が来たぞ!!」
アヴィは、俺たちの商品を無言のまま、じっくりと観察している。
「こ、これは世界一まずい飴ですにゃん」
「この鍋は、熱伝導率が最悪の沸かせない鍋だ」
「どんな力持ちでも引けない弓、試してみるか?」
「顔は可愛いけど、すごく毒舌な人形です」
「びにょーんと伸びるから、正確に測れない定規だよー」
全員が、それぞれの『役に立たない物』を一生懸命アピールしていると……
アヴィは無言のまま俺に駆け寄ってくる。
そして、すっと俺の手を握り……まっすぐに俺を見つめながら、すごく恥ずかしそうな声で、こう言った。
「……すき」
「「「えええ!?」」」
俺以外の全員が、驚きの声を上げた。




