役に立たない物勝負(1)
この世界に、『役に立たない物』などない。
ただ、それを『役立てられない者』がいるだけだ。
この言葉が、ダークハート家の家訓らしい。
要するに『工夫する心』が大事だという意味なのだろう。
実際、デバッグでプレイしたアヴィの家にも、この言葉が書かれた額縁があちこちに飾ってあった。
こういう名言風の言葉が、やたら壁に貼られてるのって、ブラック企業にありがちな風景なのだが、ダークハート家はどうなんだろう?
とにかく、アヴィが気に入りそうな『役に立たない物』を集めて誘い出す。
そう、役に立たない物勝負だ。
「みんな聞いてくれ。この街は治安も良いから、バラバラに行動しても安全だ。これから手分けして『役に立たない物』を探そう」
「役に立たない物……ですかにゃん?」
「あぁ、くだらなければ、くだらないほどいい。アヴィは、そういう物を気に入ってくれるはずだ。正面から会いに行っても無駄足になりそうだから、物で釣る作戦だ」
「わかったわ。行ってくる」
「夕方になったら、またここに集合だ。いいな?」
「うん」「はい」「承知した」「はいですにゃん」
それぞれが頷いて、それぞれの方向へと去って行った。
◇
「さて、俺も何か探さなくっちゃな……」
広場ではちょうど、フリーマーケットが開かれていた。
その中で特に、やる気のなさそうな男に声をかけてみる。
「…………」
「何を売ってるんだ?」
「……いや、別に売る気はねぇよ。俺は雇われだからな。むしろ売れないほうが、時給を稼げるんだ」
「そこにある鍋が商品なのか?」
「まぁな。鍋は鍋でも、『沸かせない鍋』だ。どんなに火を焚いても、鍋の水は冷たいまま……な? まるで役に立たねぇだろ?」
……確かに、鍋としてはまるで役に立たない。
しかし、その熱伝導率の悪さは、むしろ驚異的ではないか?
「よし! 買った!」
「俺の話、ちゃんと聞いてたのか?」
「ああ。代金と、あんたの時給分、丸ごと払ってやるよ」
少し多めに金を渡すと、男は喜んで帰って行った。
この場所は、そのまま使わせてもらうことにしよう。
日が傾きかけた頃には、みんなそれぞれが『役に立たない物』を手に集まってきた。
最初に見せてくれたのは、アネモネだ。
「見てこれ、普通の定規に見えるでしょ? でもね、ぐにょーんって伸びるの。ほら、こんなに!」
そう言って、30センチぐらいの定規を60センチぐらいまで伸ばす。
「ほらね。だから定規としては、全然使えないのよね」
「た、確かに役に立たない物だ」
エリザは、可愛らしい人形を持ってきた。
青い目をしたアメリカ生まれのセルロイド風の少女人形だ。
「このお人形、可愛らしいのに、ものすごく口が悪いんです」
「けっ! なぁに言ってやがる! お前だって、ナチュラルに口が悪いだろーが!」
「うわっ! ひどい毒舌!」
「うるせー! この貧乳女!」
「な、なにこいつ?」
「貧乳に人権なんてねーんだよ!」
「ヒデオ、この人形……壊しちゃって良い?」
「や、やめてあげてくれ」
俺は人形の背中にあるスイッチを切った。
「あの……なんか、すみません、私が持ってきた人形のせいで……」
勢いよく頭を下げると、エリザの巨乳がたゆんと揺れた。
「……た、確かにナチュラルに人を傷つけるわよねぇ」
まずい。このままでは、パーティの和が乱れる。
「……さ、さぁて! つ、次の『役に立たない物』は何かな? 楽しみだな。ははは」
俺は必死に、話題を変えるのだった。




