王都バルディア(2)
俺が上機嫌で口笛を吹いていると、突然ガラの悪い二人組に肩を掴まれた。
「おい、うっせえーんだよ! おっさん!」
「下手くそな口笛なんて吹きやがって!」
この世界でも、おっさん呼ばわりされてしまうのか……。 あと俺の口笛、そんなに下手くそだったんだろうか?
軽く絶望しながら、二人組を見る。 彼らの頭上に、ステータスウィンドウが見えた。
『アラン 盗賊 レベル5』 『クレイン 盗賊 レベル3』
中世ヨーロッパ風RPGと言うより、世紀末ディストピア風のファッションをした二人組が、ニヤニヤ笑いながら俺の目の前に立っている。
アランとクレイン、二人合わせて『あらくれ』か……。 『セイクリッド・ハートランド』の作者・山田疾風怒濤は、こういう安易なネーミングをすることが多い。
しかしこんなイベント、原作には存在しないはずだ。
おそらく、俺がこの世界に転生してしまったこと自体がイレギュラーで、それによって原作とは違うオリジナルの強制イベントが発生してしまったのだろう。
……しかし困ったな。
ゲームのストーリーを知っている、イコール未来がわかるというのが俺のアドバンテージなのに、いきなりオリジナル展開なんて……。
まぁ、文句を言っても仕方ない。 今は目の前のピンチを切り抜けることに集中しよう。
『あらくれ』二人組はモンスターではないので、デバッグコマンド【WIN_BATTLE】は使えない。 ただ、レベル的にはそれほど高くはないので、普通に戦っても問題ないだろう。
しかし不思議なものだ。 これまでの人生で、俺はこういう荒っぽいトラブルを避けて生きてきた。
殴り合いの喧嘩なんてしたこともない。 なのに今、妙に落ち着いた気持ちでこの事態を受け入れている。
これもレベルが上がった影響なのだろうか?
「おい、さっきからなぁに黙ってんだよ?」
「ビビっちまってんのか? あん?」
下卑た表情で挑発され、流石に俺も腹を立てる。 仕方ない。軽く相手をしてやるか。
そう思った瞬間――
「ふごっつ!」
「ぐへぁっ!!」
目にも止まらぬ速さで、『あらくれ』たちの顔が歪み、二人は地面に突っ伏した。
「え?」
呆気に取られていると、俺の目の前にショートカットの美少女が現れる。
「き、君は……!」
「話はあと。こっちに来て」
――と、俺の手を引いて走り出した。 まるで陸上選手のような猛スピードで……。
「はぁっ、はぁっ……」
いくらレベルが上がったとはいえ、肉体的には32歳のおっさんだ。 息が上がり、脇腹が痛くなり、心臓が口から飛び出そうになった頃――ようやく彼女の足が止まった。
「ここまで来れば大丈夫。あ、自己紹介がまだだったわね。あたし、盗賊のアネモネ」
「はぁ…はぁ、竹部秀夫だ」
「ハァハァタケベ? 変な名前ね」
ハァハァタケベって、なんか一気に変質者感が増した感じの名前になってしまった。
「ち、違う! タ・ケ・ベ!!」
「ごめんごめん。それで? タケベは何であんな奴らに絡まれてたの?」
「口笛吹いてたら、言いがかりつけられた」
「なるほどね。タケベ、お金持ってそうだし、弱そうだからカモにしようと思ったのかもね」
「よ、弱そうって……」
まぁ、事実なので反論ができない。
盗賊のアネモネは、王都でも有名なお尋ね者で、レベルは20。高額な賞金がかけられている。 ゲームでは序盤に主人公ウィルの敵として登場するキャラクターだ。
彼女も『発売前人気投票』では常に上位にいる。 ボーイッシュな元気娘なのに悪役というギャップが受けているらしい。
「えーっと、助けてくれてありがとう」
「お礼なんていいわよ。あたしはただ、あの二人がムカついたから殴っただけ」
「知り合いなの?」
「まぁね。あたしにかかってる賞金を狙ってるみたい」
見ると、ちょうど壁に張り紙があった。 アネモネの似顔絵(実物の方がずっと可愛い)の下に『賞金1000ゴールド』と大きく書かれている。
ちなみにこの1000ゴールドというのは、感覚的に100万円ぐらいだ。 アネモネは自分の貼り紙を見ると……
「何よ? この悪人顔……」
――と呟きながら、ペリっと剥がした。
「ねぇ、立ち話も何だから酒場に行かない? もちろん、あなたの奢りで」
「も、もちろんだ」
あんな魅力的な笑顔を見せられたら、断れるわけがない。




