王都バルディア(1)
多少のハプニングはあったが、俺たちは王都へと到着した。
この街ももちろん、ゲームをデバッグしていて何度も訪れている。 しかし、リアルで見たのは当然初めてで、俺はその迫力に圧倒された。
まず城壁が高い。見上げるほどある。 切り出した石でがっしりと組み上げられていて、とても堅牢な守りだ。
しかし、その割に門番の兵士はのんびりとした表情で、つい先ほどもウィルの姿を見ると……
「これは王子、お帰りなさい」
「警備、ご苦労様。あ、こちらは旅人のタケベ殿だ」
「かしこまりました。どうぞお通りください」
――と、顔パスで通してくれた。
そんな簡単によそ者を入れてしまって良いのだろうか? とも思ったが、それだけ今この国が平和で、王子が民から信頼されているということなのだろう。
ウィルたちとは街に入ってすぐに別れた。 どうやら予定があるらしい。
街を案内できないことを詫び、俺の路銀の心配までしてくれた。 本当にいいやつだ。
しかし、デバッグで街の構造を知り尽くしている俺には案内など必要ないし、実はお金に関しても心配する必要はない。
二人と固い握手をして、俺は『初めて訪れる見知った街』を探索することにした。
◇
この路地を曲がると、その先に露店がある。 俺はその店の品揃えと値段まで知っている。
しかし、知らないことも多くあった。 それは匂いだ。
肉を焼く屋台から漂う香ばしい香りや、露店に売られているスパイスの刺激的な香り……。 それに、馬車を引く馬の『落とし物』の匂いなどが、クラクラするくらいリアルに押し寄せてくる。
そうだ。やっぱりこれは、ゲームじゃない。
そしてもうひとつ、ゲームとは違う点。 それがBGMの存在だ。
『セイクリッド・ハートランド』シリーズは、音楽も人気なのだ。 全ての曲は、著名な作曲家ジャスティス田中氏が手掛けている。
ゲームでは街に入ってすぐ、オーケストラによる軽快な曲が流れてくるのだが、リアルでは当然そのような演出はなく、人々が生活する環境音が聞こえてくるだけだ。
目の前に広がる景色がゲームそのものなだけに、余計にあの名曲が聞こえてこないのが寂しい。 そう思って俺は、半ば無意識に口笛を吹いていた。
〜♪
そうそう、このメロディだ。 気持ちがどんどん上がってくる。
異世界転生とか、不安だらけだったけど、でもよく考えたら俺にはデバッグで培った知識がある。 街もフィールドもダンジョンも、おそらくこの世界の誰よりも知り尽くしている。
さらに、俺はこのゲームのストーリーも全て頭に入っている。 つまり、この先の未来で何が起こるのかを知っているのだ。
これは大きなアドバンテージだ。
それだけではない。 ある意味チート級のスキルである『デバッグコマンド』も使えるのだ。
いつの間にか不安は吹き飛び、ワクワクが込み上げてきた。
〜♪
上機嫌で口笛を吹いていると、突然ガラの悪い二人組に肩を掴まれた。




