仲間を求めて
アヴィゲイル=ダークハート、愛称アヴィ。
機械都市ヴァルカニアで隠遁生活を送る変人で、優秀なカラクリ師にして、セイクリッドセブンの一人だ。
原作のウィル王子は、レベッカを仲間にした後、北の町スノーダムへと向かった。
そこでセイクリッドセブンのアリア=フロストハートを仲間にし、その後陸路で機械都市ヴァルカニアへと向かい、アヴィを仲間にしている。
俺もそのルートを辿ろうとしたのだが、定期連絡船の運行表を見ると、ヴァルカニアへの直行便があった。
ゲームでは、そんな船は存在しなかったのだが、これもリアルとの差なのだろう。
そう、現実はオープンワールドなのだ。
アリアは優秀な氷魔法の使い手だから、仲間にしたい気持ちは当然あるけど……今回、レベッカが片腕を失っている。
これは原作に無い展開だ。
だから俺も原作の流れを無視して、ヴァルカニアでアヴィに会い、レベッカの義手を作ってもらうのを優先することにした。
だけど……
◇
今、俺たちはヴァルカニア行きの定期連絡船に乗っている。
「うわー! 綺麗!」
「お魚が泳いでますにゃん」
最初のうちは、はしゃいでいたのだが……今、俺を除く全員が船酔いに苦しんでいる。
「ごほっ……み、みないで……ください」
と、恥ずかしそうに顔を背けているのがエリザ。
「うぅ……苦しい……せ、背中さすってくださいにゃん」
と、俺に甘えているのがミネア。
「な、なんでヒデオだけ平気なのよ! ずるい……げろげろげろ」
と、怒っているのがアネモネ。
俺はまぁ、現代人なのである程度乗り物には慣れているのだと思う。
……ん? レベッカだけは冷静にしているぞ。
「さすが港町出身だな」
「ああ。騎士たるもの、人前で吐くなど……ごふっ、えろえろえろ……」
もし『1行で矛盾したことを言う選手権』があったら、ぶっちぎりで優勝しそうな勢いだ。
女の子たちが船酔いに苦しんでいる間、俺は全員の背中をさすったり、顔を拭いてあげたり、汚した場所を掃除したり……と、大忙しだった。
でも、こういうの全然嫌じゃないというか、ふだん元気な彼女たちが弱っている姿を見ると『何とかしてあげなきゃ』という気持ちが強くなって、自分でも感心するくらいテキパキと体が動いた。
◇
そうこうしているうちに波が穏やかになり、みんなも落ち着いてきたようだ。
「良かったらこれ、食べてみて。何かお腹に入れておいたほうがいいから」
俺はミント粥を振る舞った。
おにぎり用に備蓄してあった米を使って、塩とハーブで味付けをしたシンプルな料理だ。
「すごく、おいしいです」
「うん。お店開けるよこれ」
エリザとアネモネが絶賛してくれる。
「ふーふー、まだちょっと熱いですにゃん」
やはりミネアは猫舌らしい。
「ヒデオさん、フーフーしてくださいにゃん」
それを見たレベッカが、イタズラっぽい笑みを浮かべながら……
「この粥、片手では食べにくい。ヒデオ殿、食べさせてはくれぬか?」
と言って、アネモネの顔をチラッと見る。
「あー! 2人ともずるい!」
案の定、アネモネが猛抗議を始めた。
そんなわちゃわちゃした雰囲気の中、エリザが俺に頭を下げる。
「ヒデオさん、ありがとうございます。船酔いで苦しんでる私たちのために、わざわざ作ってくださったんですよね?」
「そうだね。ヒデオ、優しい!」
「好きになっちゃいますにゃん」
「確かに、ヒデオ殿はこういう細かい気配りができる殿方だな。あのウィ……いや、なんでもない」
途中で口ごもったが、全員が察してしまった。
みんながそれとなく避けていた、ウィル王子の話題だ。
ちょっと気まずい空気……。
しかし、エリザがこう呟いた。
「ウィル王子に……会いたいなぁ……」
その声からは、悲しさよりむしろ、懐かしさのような感情が読み取れた。
「ああ、裏表の無い、いい男だった」
「はい! 質問! レベッカさんって、ウィル王子とどういう関係だったの?」
わざとおどけたような感じで、レベッカに問いかけるアネモネ。
「同じ師匠から剣を習っていた。お互い良きライバルだったな。会う度に『好きな人ができた』とか、『私の天使だ』とか『告白したけど振られた』とか、『恋は人を強くする』とか……片思いのくせに、ずいぶんと惚気られたものだ」
「そ、それってまさか……」
「エリザさんのことですかにゃん?」
エリザは顔を赤くした。
その表情を見て安心したレベッカが、さらにこう続けた。
「ああ。エリザの誕生日が近づくと毎回『プレゼントの相談をしたい』と買い物に付き合わされたものだ。先日、手土産にしたクッキーも、そのときの定番だったな」
「そう言えばエリザさん、クッキー食べながら、ちょっと泣いてましたにゃん」
「そんな思い出があったんだねー」
「さ、さぁ皆さん。そろそろ到着しますよ。じゅ、準備しないと……」
エリザは、そそくさとどこかへ去っていった。
「かわいー!」
「なんか、少し元気になってきたみたいですにゃん」
そう。ちょっと前まで、ウィル王子のこんな話題は禁句だった。
……いや、直接そう言われたわけではないが、そんな空気を察してみんな黙っていた。
でも今は……少しずつだけど、エリザは彼の死を受け止め、彼女なりに前に進もうとしているように見える。
大丈夫。
俺たちが選んだ未来は、ちょっとずつ……良い方向に進んでいる。
……そうだろ? ウィル王子。




