新たなる旅立ち
その日の夜――
俺は宿の部屋で、欠片となった聖剣に献杯していた。
「ウィル、俺たち……レベッカを仲間にしたぞ」
セイクリッド・セブンのひとり、レベッカ=ウィンドハート……
彼女が加わったことで、俺たち『勇者亡き勇者パーティ』は格段に戦力アップした。
……いや、戦力だけではない。
ウィル王子を失って以来、ずっと不安定だったエリザにとっても、彼女の存在は心強いだろう。
辛いことも、悲しいこともたくさんあったけど……
今、俺たちはそれを乗り越えて、前に進んでいる。
「……ん?」
ふと窓の外を見ると、レベッカがどこかに出かける姿が見えた。
「どうしたんだろ? こんな夜遅く……」
気になった俺は、こっそりあとをつけてみることにした。
◇
レベッカは、森にいた。
月明かりの下、木立の間を風のように駆け抜け……レベッカはひとり、特訓をしていた。
「1匹……2匹……3匹!」
立ちはだかる魔物たちも、彼女の敵ではない。
その美しく、無駄のない動きに、俺は見とれていた。
「4匹……5匹……くっ、討ち漏らしたか……!」
急に足を止め、悔しそうに左手で木の幹を殴りつける。
「思うように……剣が動かない! 不覚! 利き腕を失ってしまうとは!」
距離が離れていたので、気のせいかもしれないが……
レベッカは、泣いているように見えた。
しかし、すぐに立ち上がり……
「1匹……2匹……3匹!」
次々と、魔物たちを狩り始めた。
鬼気迫る表情で……
俺はそっと、宿に戻ることにした。
◇
次の日の朝――
みんなで朝食をとっていると、レベッカがやって来た。
「おはようございます。レベッカさん」
「ああ。おはよう、みんな」
「領主様のご様子は、いかがですにゃん?」
「すっかり良くなったよ。エリザの回復魔法のおかげだな」
マルケーノフの邪魔立てがなくなった今、あの人なら領主としてこの地を立て直してくれるだろう。
「ところで.……クッキーを買ってきたのだが、食後にどうだ?」
「わぁ、すっごくおいしそう!」
「あの……レベッカさん、どうしてこれを?」
不思議そうに聞くエリザに、レベッカは少し複雑な表情になってこう答えた。
「ん? まぁ……エリザが好きだと思ってな」
「はい。大好きです」
女子たちは、レベッカが持ってきてくれたクッキーに夢中だ。
「ヒデオ殿、少しいいか?」
レベッカは少し、気まずそうな表情をしている。
「あぁ、あっちで話そうか」
「助かる」
◇
俺が予想していたとおり、レベッカは旅の帯同を断ってきた。
「町の問題が解決したら仲間になる。そう約束したな。……確かに、この町の問題は解決した。しかし……新しい問題が起きてしまった。それが私だ。利き腕を失ってしまった今、貴公らの足手まといになることは目に見えている」
「『失ったものを数え、悔やむのではなく、得たものを誇れ』……君が言ってくれた言葉だろ? 俺は……いや、俺たちは君と旅をしたいんだ」
「しかし……」
「それに、エリザは君を必要としている。君もそれがわかっているから、こうして宿に来てくれてるんだろ?」
「………………」
「俺たちはこの先、機械都市ヴァルカニアに立ち寄る予定だ。そこにいるアヴィゲイルは、優秀なカラクリ師だ。彼女なら、君の義手を作ってくれるはずだ」
「義手? 片腕でも生活に支障は無いが?」
「生活のためでは無く、戦うための義手だ。それさえあれば君は、今まで以上に強くなれる」
「二刀流だった頃よりも強く……か?」
「もちろんだ」
「なぜ断言できる。貴公には未来が見えているとでもいうのか?」
「いや、未来に何が起こるかなんて、誰もにわからないさ」
そう。何度もデバッグをして、このゲームのシナリオを熟知している俺でも……この世界に起こる「イレギュラー」に悩まされている。未来なんて、誰にもわからない。
「でも、みんなで力を合わせれば、選んだ選択を最善にしてゆくことはできる。レベッカ、明日の朝……一緒に船に乗ってくれないか?」
「ふっ、貴公がモテる理由……わかった気がするな」
「え? モテるって……?」
「いや、なんでもない」
そういうと、急に改まった表情になり、俺の前で跪いた。
「レベッカ=ウィンドハート、貴公の剣となることを、ここに誓おう!」
こうして『片腕の二刀流騎士』レベッカが仲間になった。




