マンバン砦跡の決戦(4)
全てが……終わった。
マルケーノフの部下たちは、人質だったはずの領主を置き去りにして、どこかへと逃げ去っていた。
……無理もない。雇い主が目の前で弾き飛んだんだからな。
領主のダグラスさんは、魂が抜け落ちたような表情でその場に座ったまま起き上がれない。目の前で愛娘の右腕が切り落とされてしまったのだ……その気持ちは痛いほどわかる。
レベッカは、本人だってつらいだろうに……ショックを受け、パニックになっているエリザを必死になだめている。
そして俺自身も……激しく動揺している。
死ぬ間際にヤツが言った『もうしわけありません……シュトゥルム・ウント・ドラングさま……』という言葉……これは、だいぶヤバい。
シュトゥルム・ウント・ドラング……つまり、ドイツ語で疾風怒濤だ。まさか……すべての黒幕は山田疾風怒濤……なのか?
山田疾風怒濤……この『セイクリッド・ハートランド』の原作者だ。
シリーズ全てのシナリオを書き、この作品の『顔』としてメディアでももてはやされている。
ヤツがマルケーノフと通じていたのだとしたら……『聖女のティアラ』の隠し宝箱が開けられていたことも説明がつく。
そして.……このエリアのシナリオが書き換えられていたことも説明がついてしまうのだ。
原作者が……この世界に……転生だって?
これは、ヤバいことになったぞ?
◇
……いや、それは後で考えよう。
今気にかけるべきなのは、エリザとレベッカだ。
「うぅ、ごめんなさい……レベッカさん……私のヒールでは……これ以上は……」
「謝ることではない。エリザ。私は二刀流だ。腕が一本になっても、充分に戦える」
「ぐすっ……でも……あなたの腕が……」
涙ぐむエリザ。
あの表情……見たことがある。そう、ウィルを失った直後も……エリザはあんな顔をしていた。
絶望と、後悔と……何もできなかった自分を責め続けている顔……
くそっ! せっかく元気になってきたところなのに……
「私の回復魔法では……誰も救えない……ウィルの時も……そうだった」
「自分を責めるな……エリザ……」
「いいえ。私は聖女失格です。大切な人を助けられないばかりか……人を癒やすべき回復魔法で、あんなことを……」
片腕を失ったレベッカが、誰よりも強く、優しく……必死にエリザに語りかけている。
そんな二人を見て、俺も彼女たちを支えたいと思った。
「エリザ、『誰も救えない』なんて言うな。俺たちみんな、君に救われたんだ」
「そうだ。貴公は、あのマルケーノフを倒し、父を救ってくれた!」
「そうですにゃん。アエリアの町も、きっと昔通りの平和を取り戻しますにゃん」
「元気出してよ、エリザ。ほら、ぎゅーっとしてあげる」
エリザに抱きつくアネモネ。
「わ、私もぎゅーしますにゃん!」
「ふっ、では私も……」
「み、みなさん……あの……嬉しいですけど.……でも……少しくるし……」
あ……ちょっとそれ、羨ましいぞ。
俺のそんな気持ちを察したのか、エリザが恥ずかしそうに……
「ひ、ヒデオさんも……許可します」
「お、おう」
「これで……平等ですね」
なんか急に、みんなで抱き合う格好になってしまった。
端から見たら、ちょっと変な感じかもしれないけど……でも、なんか嬉しい。
「エリザ……君はひとりじゃないんだ。ほら、こんなふうにね」
「ヒデオさん……」
「そうだぞ。失ったものを数え、悔やむのではなく、得たものを誇ってくれ」
「……レベッカさん」
いつの間にか雨は上がり……砦には、大きな虹が架かっていた。




