マンバン砦跡の決戦(3)
魔物使いマルケーノフが操る、見えない魔物たち……
俺の立てた『絵の具作戦』は、雨によって阻まれてしまう。
くそっ! 雨で絵の具が洗い流されてしまうなんて、全くの予想外だった。雨なんて……ん? 雨?
今降っている雨は、小雨というか、どちらかというと霧雨に近い。この雨がもっと激しくなれば……水しぶきで、敵が見えるようになるはずだ!
「ミネア! 水魔法で土砂降りの雨を!」
「はいですにゃん! アクア・ジ・エンド!」
ミネアが両手を大きく広げると、上空に巨大な水の玉が現れ、どんどん大きくなっていった。
「弾けろにゃん!」
浮かび上がった巨大な水玉は、合図と共に『音のない爆発』を起こし……直後、広範囲に土砂降りの雨を降らせる。
これによって、2体の『見えない魔物』の姿が水しぶきと共にあらわになった。
「今だ! レベッカ!」
「承知!!」
ザシュッ!!! ザシュッ!!!
目にもとまらぬ速さで大地を駆け、インビジブルたちの息の根を止める。
その姿を見て、マルケーノフのニヤニヤ笑いが……止まった。
「双剣の女騎士レベッカ……やはりあなたが、私の野望にとって最大の障壁のようですね」
一瞬だけ真顔になったが、その直後――
さっきよりもずっと邪悪な顔付きになって、笑い始めた。
「ぬひひひっ! 彼を人質に取っておいて、本当に良かったです」
「な、なにぃ!?」
屈強な傭兵たちに両脇を抱えられ……
レベッカの父・ダグラス=ウィンドハートが姿を現す。
全身傷だらけで……やつれ切った表情で……。
「ち、父上!」
「おっと、動かないでください。おかしな真似をしたら、お父上の命はないですよ?」
兵士たちは手にナイフを持ち、領主の首と、心臓を狙って突きつけている。
「くっ! 卑怯な……」
「ぬひひひっ! 最高の褒め言葉ですね。ありがとうございます!」
マルケーノフは、俺たちとはやや離れた位置に立っている。
「ヒデオ、あいつの赤いバンダナを切って気絶させるのはどう?」
「いや、ヤツの被っている聖女のティアラ……あれに阻まれる危険性がある」
そんなことになったら、領主の命はないだろう。
「くそっ、どうすりゃいいんだ……」
形勢を一気に逆転させ、マルケーノフは上機嫌だ。
レベッカの目の前を、踊るように歩き回り、挑発している。
「ぬひっ! さすがの女剣士様も、手も足も出ませんかね? ぷくくっ……二刀流? 生意気なんですよ。私がほら、こうしてやりましょう!」
そう言うとマルケーノフは、腰に差した剣を抜き、レベッカの右腕を切り落とした。
「ぐぁっ!!」
予想もしなかった行動に、誰もが凍り付く中……
真っ先に動いたのはエリザだった。
「ヒール!!」
レベッカの傷口が塞がり、流れ出ていた血が止まる。
しかし、失われてしまった右腕は戻らない。
「ぬひひっ! さすがの聖女様も、切り落とした腕を戻すことはできないようですね。これはよい知見を得ました」
しかし、レベッカはその声を遮るように、凜とした表情でこう言い切った。
「いいや。ありがとう、エリザ……おかげで痛みが消えたよ」
苦痛をこらえながら……必死に笑顔を作っている。
そんなレベッカを見て、エリザの肩が大きく震えた。
「マルケーノフ! あなただけは……許しません!」
「ぬひっ! 許さない? 回復しかできない聖女様が? いったい、この私に何ができるというのですかぁ?」
「あなたの言うとおりです。私には、回復しかできません」
「ぬひひっ! ではどうぞ、気が済むまで、私を回復してくださいな」
マルケーノフの挑発に、エリザは大きく頷く。
「傷を癒やしたまえ! ヒール!!」
「おぉ! 体の痛みが、癒えてゆく……しかしあなた、馬鹿ですか? わざわざ敵を回復するなんて、ぬひひっ!」
「傷を癒やしたまえ!! ヒール!!!」
さらに回復魔法を唱えるエリザ。
その目には、強い憎しみの色が宿っている。
おとなしくて、心優しいエリザからは考えられないほどの……
「んぐっ! ごふっ……あぁぁぁぁ……」
やがてマルケーノフの体に……異常が起こり始める。
薄かった髪が急に増え、どんどん伸び始める。
そして、両手の爪が……異常な速度で伸びてゆく!
「や、やめろ! これ以上の回復は……あぐぐっ!」
「傷を癒やしたまえ! ヒール!!」
過剰回復……とでも言うのだろうか?
生命力が爆発し、その器である肉体を破壊し始めている。
こんな仕様……ゲームには無かったはずだ。
「ぐふっ……もはや……これまで……か……ぐぼっ! も、もうしわけありません……シュトゥルム・ウント・ドラングさま……ぐごばっ!」
「傷を癒やしたまえ!! ヒール!!!」
「うごぐげっ! ごばぁーー!!」
眼窩から両目が飛び出し、口からは腸が吐き出されてゆく……
腹が膨れ上がり、骨格は変な方向に歪み続け……
やがて、マルケーノフは爆死した。




