マンバン砦跡の決戦(1)
港町アエリアから東の森を抜けた先にある古い砦……ここはマンバン砦跡と呼ばれている。かつて大魔法使いが住んでいたという伝承があり、マルケーノフはその末裔である……と、自称し、この砦をアジトとしているようだ。
港町の東門に行くと、すでにレベッカ率いるアエリア兵団が集合していた。
総勢40名。一目見ただけで、精鋭であることがわかる。
「全軍注目! 彼が我が軍の総大将、タケベ・ヒデオ殿だ」
……低い歓声が響き渡る。
「おぉっ!」
「あのお方が……噂の……」
……ど、どんな噂になっているのだろう?
気になるけど、聞いたら微妙に傷つきそうな不安がある。
っていうか、俺が総大将だなんて聞いていないのだけど……
俺の動揺をよそに、レベッカはよく通る声で、兵たちを鼓舞し続ける。
「さぁ! ついにこのときが来た! マンバン砦跡に攻め込み、魔物使いマルケーノフを倒し! アバン団から、我らが領主・ダグラス=ウィンドハートを奪還しようではないか!」
全員が一斉に頷く。
……なんか、こっちまで士気が高まって来た。
「いざ、鬨の声を上げるぞ! さぁ、タケベ殿。音頭を!」
……え? 俺ですか?
いきなり音頭って、そういうのがあるなら、昨日の打合せの時に言ってくれればよかったのに……
フリーズしていると、アネモネが助け船を出してくれた。
「ヒデオが『えいえい』って言ったら、みんなが『おー!』って言うから、ほら! みんな待ってるわよ」
「た、助かるよ。アネモネ……」
「……ふ、ふんっ!」
お礼を言ったのに、そっぽを向かれてしまった。
まだ昨日のこと、怒ってるのかな?
……でも、何で怒られたのかわからないから、謝りようがない。
おっと、悩んでる時間はないな。鬨の声の音頭だ。
俺は兵たちの前に立った。
……なんか、緊張で吐きそうだ。
「み、みんな準備は良いか……? えいえい!」
「「「「「「おーーーーー!!!!!!!」」」」」」
ちょっと声が裏返った気がするけど、なんとか格好が付いた気がする。
見ると、レベッカも深く頷いていた。
兵たちの士気も上がったし、さぁ! いよいよ決戦だ!
こうして、マンバン砦跡・攻略作戦が開始されたのだった。
◇
40名の軍隊と、俺たち5人。
別に【ENTRY_OFF】を使っているわけではないのに、道中魔物に遭うことはなかった。
やはり魔物のほうも、この大軍に戦いを挑む気にはなれないのだろう。
「ミネア、砦の様子は?」
「傭兵が50人。正面に集まってますにゃん。奥には、赤いバンダナのお年寄り軍団が200人……すごい大軍で待ち構えてますにゃん」
レベルが上がったことで、ミネアには敵の気配を察知するスキルが身に付いたのだった。
……うん、本当に便利な猫だ。
「まぁ、こっちもこれだけの人数で行軍しているわけで、当然見つかって警戒はされるだろうな」
砦は高い石垣で守られている。
かつて、マンバン砦が、難攻不落と呼ばれていた由縁だ。
進軍しようとする兵たちは、高い石垣によって足止めをされ、上から魔法や矢などの遠距離攻撃を喰らってしまい、次々と数を減らしてゆく……というパターンでやられてしまうのだ。
しかし、この対策は既に考えてある。
「ミネア、作戦開始だ!」
「はいですにゃん。アブソリュート・ゼロ(絶対零度)!!」
強力な氷の範囲魔法によって、石垣は一瞬で凍り付き、兵たちの動きもフリーズする。
しかも、この氷塊によってちょうど良い足場ができたため、俺たちは難なくこの石垣を乗り越えることができるという寸法だ。
スタンピードで魔物を倒しまくったことで、超強力な氷魔法を使えるようになったミネアがいるからこそ、実行できる作戦なのだ。
……でも、よく考えたら絶対零度が発見されたのって17世紀ぐらいだったはずで、中世ヨーロッパ的世界観から考えると……おっと、突っ込んでいるヒマはない。攻撃命令を出さなくちゃ。
「よし! 全軍、出撃!!!」
「「「「「「おーーーーー!!!!!!!」」」」」」
俺たちは全員、あらかじめ用意しておいた滑りにくい靴を履いている。
そのおかげで、あっという間に凍った石垣に辿り着き、乗り越えることができた。
「た、タケベさん! MPが尽きましたにゃん」
「安心しろ。ここにマジックポーションが256個ある!」
これはもちろん、デバッグコマンド【ADD_ITEM】で用意したものだ。
「ふぇー! ヒデオさん、やっぱり猫使いが荒いですにゃん」
ザシュッ!!! ザシュッ!!!
ザシュッ!!! ザシュッ!!!
戦場を駆け抜ける二筋の閃光!
やはりここでも、レベッカは無双していた。
老人軍団のまっただ中へ攻め込み、次々と赤いバンダナを切り裂いてゆく。
老人たちは、魔物を呼び出す暇もないまま、次々と気絶していった。
「レベッカさん、すごい!」
「ああ、圧倒的だな……」
やはり、ウィル王子が仲間にしたかっただけのことはある。
……しかし、老人の数があまりにも多い。
「兵と老人を、できれば分断させたいところだな」
レベッカが効率よく赤バンダナを切り続けるためには、兵たちの存在が邪魔だ。
なんとか敵の兵だけを揺動し、こっちの兵士と戦わせることはできないだろうか……?
「アネモネ、風魔法で見張り塔を攻撃してくれ!」
「え? でも、ヒデオの魔法のほうが強力だから、塔を壊すならそっちのほうが……」
「壊し切らないくらいがちょうど良いんだ。頼む」
「わかったわ。ウィンド・カッター!」
派手な音と共に、見張り塔が大きく揺れる。
それを見た兵士たちが、次々と援軍に向かって行った。
「すごい! ほんとに分断できた! でもどうして?」
「兵たちは、見張り塔の大切さを理解しているからな。アドリブで試してみたけど、上手くいったようだ」
「ヒデオさん、天才ですにゃん」
「いや、本当にすごいのはレベッカだ。見てみろ!」
既にレベッカは、ほとんどの老人軍団を気絶させていた。
しかも、老人たちが呼び出した魔物まで、次々と倒している。
「俺たちも負けられないぞ! 突撃だ!!」
無数の魔物を倒し、敵兵たちを気絶させ……
しばらくすると、戦場に敵の姿はほとんど見えなくなっていた。
「よし! エリザ、怪我人の手当てだ!」
「わかりました」
張り詰めていた空気が、いつのまにか安堵へと変わっていた。
よし、勝ち筋は見えた。
そう思った瞬間――
「ぬひひひっ! そこまでです!」
そこには、デバッグで何度も見た魔物使い・マルケーノフが立っていた。




