女騎士レベッカ(1)
レベッカの話によると、赤いバンダナを斬られると魔力が暴走し、着用者は小一時間気絶しているのだという。
ちょっと安心した俺たちは、町外れのカフェでレベッカと話すことにした。
「レベッカ、事情は聞いてるとは思うけど、俺たちは勇者ウィルの遺志を継いで、旅をしている。彼は生前、君を仲間に加えようとしていたんだ。なぜなら……」
「勇者の誕生は、魔王が降誕する先触れでもある……だろ?」
「その言葉……ウィルから聞いていたのですね?」
レベッカと出会ってからずっと、エリザの目には、涙が溢れている。
そんなエリザの背を、優しくなで続けてながら、レベッカが頷いた。
「ああ。しつこいくらい念を押され、その度に約束をしたものだ。『私が貴公の剣になる』とね」
「それじゃ、仲間になってくれるのね?」
「もちろんだ。しかし共に旅をする前に……この町で解決しておくべき問題がある」
「マルケーノフか……」
「そうだ」
「ヤツは、俺たちの仇でもある。もちろん協力するよ」
そう約束した後、俺たちは魔物使いマルケーノフの悪行について聞くこととなった。
レベッカの父は港町アエリアの領主で、ある日魔物に襲われていたところを冒険者だったマルケーノフに助けられたのだそうだ。
「マルケーノフが魔物使いであることを考えると、おそらくその出会いも仕組まれたものだったんだろうな」
「同感だ。私も何度か進言した。しかし、義理堅い父はそれを信じようとはしなかった。実際、その頃のマルケーノフは魔物の力をよい方向に活用して、この町を豊かにしてくれていたからな」
「最初に恩を売って権力者の懐に入り込み、機を伺って裏切る……悪人の常道パターンよね」
「お恥ずかしい限りだ。ちょうどその頃、父が体調を崩しがちになってな。仕事を引き継いだ奴が、次第にこの町を牛耳るようになっていった」
「それで、そのマルケーノフは今どこにいるんですかにゃん?」
「東の森を抜けた先に、古い砦がある、奴はそこをアジトとしているようだ」
「よし、潜入しよう」
「助かる。あそこは警備が厳重でな。我々だけでは難しいと思っていたところだ」
「でも、その前にマッケンジーさんに会わなきゃ」
「そうだな。弟さんのこと、まだ報告していなかったからな」
嫌な報告ほど、早いほうがいい。
これは、俺が社会人時代に得た教訓だ。
◇
伝書屋に行くと、マッケンジーの顔にいつもの笑顔がなかった。
「弟さんのこと、聞いたのか?」
「はい。あいつはあの赤いバンダナに……殺されたのです」
そう言いながら、両拳を固く握りしめた。
「弟は……昔は、素直ないい子でした。兄に似ず力持ちで、荷揚の仕事を頑張っておりました。とても働き者で、よく『町一番の荷揚人足』と呼ばれていたものです」
「そんな弟さんが……なんで?」
「マルケーノフが魔物使いの魔道具を町の皆に伝え、それ以来。荷揚の仕事には魔物を使うことが当たり前になってしまったのです。それで……弟は、仕事を奪われました」
「そんな……ひどいですにゃん……」
「いえ、それが時代の流れというものです。当時の魔道具は、黄色いバンダナ……使用者の魔力を消費して、魔物を使役するものでした。しかし、弟は魔力量が少なかったため、それが使えず……弟の生活はどんどん荒れていきました。酒に溺れ、あちこちに借金を作り……ついには赤いバンダナに手を出してしまったのです」
赤いバンダナに殺された……まさに、マッケンジーさんの言葉通りだ。
これ以上、被害者を出してはいけない。
「よし! 砦に攻め込もう。アバン団を壊滅させて……奴らの悪事を、文字通り『あきらめ』させるんだ!」
(今ちょっと、『俺、上手いこと言った』って顔したよね?)
(はい。どや顔も可愛いですにゃん)
アネモネとミネアの内緒話……こっちに丸聞こえなのだが、寛容な俺は黙っていた。




