押し寄せる危機(2)
『老人と海』という小説がある。しかし、今俺たちの目の前に広がっているのは、老人の海。何十人もの爺さんと婆さんが、俺たちを取り囲んでいる。
こんなにたくさんのお年寄り、いったいどこにいたんだ?
……いや、ちょっと待て。初めてこの港町に入ったとき、俺は妙な違和感を持った。結局そのときは、使役されている魔物にばかり目をやっていたが……あのとき、魔物を使う側の人たち……妙に年寄りばかりではなかったか? あのとき嗅いだ匂い……魔物の体臭だけではなく、人間の加齢臭だったのではないか?
「い、嫌ぁーーー!!」
アネモネがパニックで絶叫する。
ミネアもエリザも怯えている……
じりじりと迫ってくる老人軍団。
反撃をしたら、老人虐待になってしまう。
かと言って、無抵抗のままでは圧死……老圧に押し潰されてしまう。
頭がクラクラしてきた。目がぐるぐる回ってくる。
ドキッ! シニアだらけの加齢ド・スコープ!
……駄目だ。加齢臭にやられて、頭がどんどん馬鹿になる……
絶体絶命のピンチ。しかし、デバッグコマンドは使えない。
対人だし、イベント扱いだからな……
それにしても……誰がこんな悪趣味なイベントを考えたんだ?
「もう駄目ですにゃん。戦うことも、逃げることもできませんにゃん……」
くそっ! どうすればいいんだ……?
途方に暮れた、そのとき――
ザシュッ!!!
二筋の閃光が駆け抜けた。
光は目にもとまらぬ早さで、老人たちの海を切り裂き、モーセの十戒が十回繰り返されたかのように、海は割れ続け……老人たちは次々と気絶し、倒れ続けていった。
「い、いったい……何が起こったんだ?」
突然の急展開に思考がついていけず、立ち尽くしていると……
まるでパリコレモデルのようにすらっと背の高い、黒髪ロングの美少女が、凜とした声でこう言った。
「危ないところだったな」
あたりには、気絶した老人たちが、堆く積まれている。
それを見てようやく理解が追いついた。
彼女は、目にもとまらぬ剣技で、老人たちのバンダナを正確に切り裂いたのだ。
「き、君は……?」
「私の名は、レベッカ=ウィンドハートだ」
「タケベ・ヒデオだ。助かったよ」
すらっと伸びた長い両手には、二本の刀……
そう。間違いなく彼女がセイクリッド・セブンの一人、双刀の女騎士レベッカだ。
レベッカは俺たちを見ると、よく通る声でこう聞いてきた。
「タケベ・ヒデオ……ひょっとして、貴公らが『勇者亡き勇者パーティ』か……?」
「そうよ。あたしはアネモネ。よろしくね」
「ふぇー、かっこいい人ですにゃん……私はミネア。よろしくですにゃん」
「お初にお目にかかる」
すっと頭を下げるその所作が、ものすごく自然で、つい見とれてしまう。
おっと、エリザの紹介をしないとな。
そう思って目をやると……
「ぐすっ……ずっと、お会いしたかったです。レベッカさん……」
エリザの目には大粒の涙が……
え? 二人はどういう関係なんだ?
見るとレベッカの黒い瞳にも、キラリと光るものが見えた。
「名乗らなくても……わかる。貴女が、エリザだな。その名は、ウィルから何度も聞いた」
「うぅっ……レベッカさん……」
あとで聞いた話だが、レベッカとウィル王子は同じ師匠の元で剣を習った仲らしい。幼い頃から、二人は何度も手合わせをし、共に切磋琢磨して剣の腕を磨いていたのだという。
……いや、ここでもゲームの設定と変わっている。
前にも説明したけど、ゲームでは二人は初対面で、マルケーノフに悪い噂を吹き込まれ、対立して……という流れだった。これはもう元のシナリオ全ボツというか、設定自体の書き換えが発生している。
……ど、どうなるんだ? これ……




