港町アエリア(3)
マッケンジーさんの話が長いせいで、それと俺がツッコミで忙しいせいですっかり忘れてたけど、まだ俺は警告文のお礼を言っていなかった。
「マッケンジーさん、ついさっき俺たち、赤いバンダナを首に巻いた老人に襲われたんです。でも、頂いた警告文のおかげで、無事に切り抜けることができました。まぁ、相手は逃げちゃいましたけどね」
途端、マッケンジーさんの営業スマイルがすぅっと消え、ひどく不安そうな顔になった。
「あの……ひょっとして、その老人の額には、大きなほくろがありませんでしたか?」
「はい。額の中心に、目立つほくろがありました」
「やはりそうでしたか……では、その男は間違いなく、私の弟・ゼンマーです」
「え? 弟……ですかにゃん?」
驚いたのはミネアだけではない。
全員が驚き、戸惑った。
「で、でも……あのお爺さん、どう見ても70過ぎでしたよ?」
「まさかマッケンジーさん、ものすごい若作りとか……」
「いえ、違います。話せば長くなるのですが……」
ここも要約させて貰う。
・マッケンジーさんは40代。見た目通りの年齢。
・弟のゼンマーは、7歳年下でまだ30代後半。
・この町で一般的なのは、黄色いバンダナ。魔力を消費して魔物を使役する。
・あの赤いバンダナは、魔力量が少ない人向けの魔道具。魔力の代わりに寿命を使って、魔物を使役する。
・誰でも使える代わりに、使えば使うほど歳を取ってしまう。
「わ、わたくしは.……何度も止めたのです。でも……魔力の弱い弟がお金を稼ぐには……あのバンダナを使うしかないと……そう押し切られて……そのうち弟は、どんどん歳衰えてゆき……あぁ、ゼンマー! わたくしは……ぐすっ……わたくしは……どうすれば?」
「そんな危険なこと、絶対にやめさせなくちゃ! マッケンジーさん、弟さんは今どこにいるの?」
「スキルを使った後は、いつもぐったりと疲れて、家で半日ほど休んでおります」
「今すぐ行ってきます!」
「し、しかし……」
「なぁに、あの警告文のお礼ですよ」
マッケンジーさんが書いてくれた地図を頼りに、俺たちはゼンマー爺さんの家へと向かった。
◇
ゼンマー爺さん……いや、実年齢は30代後半だから、こう呼ばれるのは不本意かもしれないな。ゼンマーさんと呼ぶことにしよう。
ゼンマーさんの家には、鍵がかかっていなかった。
いや、鍵そのものが壊れていて、ものすごい不用心だった。
「でもこの家、泥棒に入られる心配はないかもね」
アネモネが呟いたとおり、家の中には必要最低限の家具すら揃っていなかった。
ミニマムな生活……と言うより、明らかに貧しい、それも極貧と言って良い暮らしぶりだ。
「見つけましたにゃん」
部屋が狭いおかげで、ゼンマーさんはすぐに見つかった。
隅で毛布を被って、びっくりするくらい小さく縮こまって……冷たく、動かなくなっていた。
そう、ゼンマーさんは、死んでいたのだ。
「ど、どうして……?」
「外傷はない。おそらく……老衰だろう」
「すごく穏やかな顔をされてますね」
エリザの声は昏かった。
それは、人の死に慣れすぎてしまったような、諦めのトーンだった。
「マッケンジーさんに、知らせなくちゃな……」
部屋を出ようとする俺を、エリザが呼び止めた。
「ヒデオさん……これ……」
指さした先には、ボロボロになった人形があった。
マッケンジーさんから聞いた話によると、ゼンマーさんには妻子がいたらしい。
美人で評判の奥さんと、利発で可愛らしい女の子……
そんな妻子のために、文字通り身を削って働いてきたのだが、結局別れてしまったのだという。
詳しい事情はわからない。でも、ゼンマーさんも奥さんも、もちろん子供も……誰も悪くないはずだ。お互いがお互いのことを思いやって、一生懸命生きて……でもその結果、こんな悲劇が起こってしまった。
誰も悪くない……いや、悪い奴が一人だけいる。
こんな邪悪な魔道具を作り出し、売りつけたマルケーノフだ。




