港町アエリア(2)
港町アエリアの中心部へと進むと、大きな看板が目に入った。
そこには……
『伝書屋マッケンジー』と大きく書かれていた。
黄色の背景に、青い服を着た店主の似顔絵。
それはまるで、某インプラント歯科の看板みたいだった。
「一応、この人に……会ってみた方が良さそうね」
アネモネの顔が引きつっている。
無理もない。俺だってこんな、自己顕示欲MAXな店主には会いたくない。
でも、あの警告文のおかげでさっきの襲撃に備えられたわけだし……
(警告無しでも対処できる相手ではあったけど)
そもそも、あの赤いバンダナが何を意味しているのかを聞いておく必要がある。
「よし。気が進まないが、行ってみよう」
◇
「いらっしゃいま……おお! あなたがタケベ殿ですね?」
奥のカウンターに、看板で見た通りの男がいた。
若くて、やや筋肉質で、ちょっと嘘っぽい笑顔。青い服を着て、首には黄色いバンダナ。
看板とまったく同じ笑顔で腕組みをしている。
挨拶の途中で俺に気付いたようだが……せめて『いらっしゃいませ』の『せ』ぐらい言い切ってほしい。
「わたくし、伝書屋のマッケンジーです。いえいえいえ、皆まで言わずともわかります。手紙の件ですよね? 実は仲間のトルネからあなた様のことは聞いておりまして、まぁわたくしども商人のネットワークも、なかなか侮れないものですよ? そうそう、それで赤いバンダナの件ですよね? その前にまずお話をしておかねばならないのは……」
こういう奴の特徴として、とにかく話が長い。
こっちが質問しようとしても「いえいえいえ」と、中断を許さないのだ。
かなり我慢しながら、ようやく聞き出せた内容を箇条書きすると……
・俺のことは商人トルネから聞いた。
・バンダナは、魔物を使役できる魔道具。
・黄色いバンダナと、赤いバンダナの二種類がある。
・どちらの魔道具も、魔物使いマルケーノフが町の人々に売りつけている。
「ごめんなさいね。ウチの主人、話が長いから……」
そこに奥さんが現れ、俺たちに紅茶を出してくれた。
「おぉ、すまないな。ニーヌ」
おそらく、奥さんの名前なのだろう。
……ん? ちょっと待ってくれ。
奥さんの名前が『ニーヌ』で、旦那さんが『マッケンジー』?
ニーヌ&マッケンジー
にいぬまけんじ……
新沼○治?
これ、ひょとっとして……
……いや、間違いなく、あの昭和に大ヒット曲を出した歌手の名前だ。
「嫁に来ないか?」とか言って、奥さんを口説いたパターンだ。
「昭和かよ! いや、むしろ昭和歌謡!」
ついかっとなって、俺は最悪のダジャレを叫んでいた。
「ど、どうしたのヒデオ?」
「いきなり、びっくりしましたにゃん」
「ごめん……つい……」
確か、歌手の新沼○治は、芸能界きっての愛鳩家(レース鳩愛好家)として有名だったはずだ。
でも今は令和。誰がそんなネタ、わかるというのか?
……確か、山田疾風怒濤の年齢は50歳ぐらいだったはずだ。
ゲーム雑誌のインタビューで見た写真は、結構若い……というか、若作りしていた。
でも、さすがにこのネタは古すぎるというか、俺は知識が偏ってるからたまたま知っていたけど、彼の世代よりもさらに昔のネタのような気がする。
「つまりですね。この赤いバンダナというのは……」
またマッケンジーさんの長い話が続いたので、要約すると……
・ここ港町アエリアには、魔物使いが多い。
・ほとんどの魔物使いは、魔物を平和的に使役し、役立てている。
・しかし中には、魔物を使って悪事を働いている集団がある。
・それが『赤いバンダナ団』……略して『アバン団』なのだ。
……いや、ここも突っ込まざるを得ない。
アバン団って、なんか大学受験用単語帳の最初に出てくる言葉みたいだ。
アバンダン……見捨てる、あきらめる。
まぁ、俺が受験勉強をしていたのは、だいぶ昔のことだから今の単語帳がどうなってるのは知らないけど……
というか、もっと他の単語はなかったのだろうか?
『さぁこれから受験勉強するぞ』って気持ちになってるとき、最初に覚える英単語が、『見捨てる、あきらめる』じゃ救われない気分になってしまう。
……いや、ここで文句言っても仕方ないのだけど。
……あれ? 長いのはマッケンジーさんの話より、むしろ俺のツッコミのほうなのかもしれないと思い始めてきたぞ?




