空からの警告
奇岩地帯を抜け、荒れ地をさらに進むと、開けた高台に出た。
遠くに港町が見える。
「ようやく、見えてきたな」
「やったー! 海ですにゃん!」
「なんか……潮風の香り……感じるよね?」
「はい。遠くでカモメも飛んでいます」
だんだん、エリザも会話に参加してくれるようになってきた。
でも、まだ笑顔を見せてはくれない。
俺は昔から、良く言えば聞き上手、悪く言えば口下手な人間だ。
でも、エリザのためにもう少し……場を盛り上げるような会話を続けてみよう。
「なぁみんな。港町に着いたら、まず何をしたい?」
「はい! お魚を食べたいですにゃん!」
「ミネアって、ほんとお魚が好きだよねー」
「へぇ、こっちでは、魚ってどうやって食べるんだ?」
「焼き魚にしたり、干物にしたりですにゃん」
「ねぇ、その前の『こっちでは』ってどういう意味?」
「あ、いや、その……」
返答に困っていると、エリザが助け船を出してくれた。
「ヒデオさんは、谷間の向こうから来た貴族の末裔なんですよ」
「え? そうなの?」
「き、記憶を無くしてるから……単なる想像なんだけどね」
最近、エリザの顔色が良くなってきた。
味覚が回復したおかげなのか、痩せ細っていた腕や脚も、だいぶ戻って来た気がする。
彼女の心の傷が、簡単に癒えるとは思えないけど……でも体のほうは、少しずつだけど回復しているようだ。
まぁ、焦る必要はない。旅は長いんだ。
そう思いながら、ふと空を見ると――
一羽の鳥が、俺めがけて飛んできた。
「うわっ! な、なんだ?」
「鳩ですにゃん!」
いや、俺の知ってる鳩とはちょっと違う。
額に小さな赤い魔石? のようなものが付いている。
そう、ちょっとカーバンクル風だ。
その鳩のような、カーバンクルのような鳥は、やがてパタパタと羽音を立てて俺の肩に止まり……
♪くるっくー
……と、耳元で小さく啼いた。
おぉ、啼き声は鳩そのものだ。
「これ、伝書鳩じゃない? ほら、足に手紙を付けてるよ」
アネモネが鳩にそっと近づき、手紙を俺に手渡してくれる。
でもなんか不思議だ。伝書鳩は普通、鳩の帰巣本能を使う。
だから、決まったルートにしか飛べないはずなのだ。
なのにこの鳩は、俺をめがけて飛んできた。
あとで知ったのだが、この鳩は魔物との混血で、知能が高いため届けたい人物の名前とざっくりとした特徴を言えば、手紙を届けてくれるのだそうだ。
……異世界、便利すぎるだろ?
「ねぇ、ヒデオ。早く手紙読んでよ」
「おっと、ごめん。ちょっとボーッとしてた。じゃあ読んでみるぞ。なになに……」
警告
赤バンダナに気をつけろ
伝書屋マッケンジー
「こ、この手紙は……!?」
たった三行の手紙なのに、まるで意味がわからない。
なぜ俺が警告されてる? 赤バンダナって何? 気をつけろってなぜ? 伝書屋マッケンジーって誰?
「ヒデオさんの知り合いですかにゃん?」
「いや、まったく心当たりがないんだ」
俺がずっとデバッグをしていた『セイクリッド・ハートランド4』の世界には、伝書屋もなかったし、マッケンジーなんてキャラも登場していなかった。
……ますます、俺の知らない世界に書き換わってしまっているようだ。
手紙を読み終えると、伝書鳩は飛び去っていった。
しかし、すぐさま別の鳥が……鳥が? 俺めがけて飛んでくる……
「あ、あれは何だ?」
「伝書鳩……にしては、ちょっと大きすぎる気がするわね」
「にゃんか……サイズ感がおかしいですにゃん」
「言われてみれば、ちょっと大きいかも?」
……いや、ちょっとどころではない。あまりにも大きすぎる。
あれは鳩じゃないし、鳥ですらない。
王都のスタンピードで見た……ワイバーンだ!
「こっちに来ますニャン!」
くそっ! これが噂に聞く『話の途中だがワイバーンだ!』ってヤツか……
ソシャゲのシナリオなら許せるけど、リアルでこれをやられると本気でウザい。
でもまぁ、ワイバーンなら俺の魔法で何とかなるな。
「くらえ! ファイアーボール!」
しかし、効果は今ひとつのようだ。ワイバーンはビクともしない。
「あいつ色が違う! 上位種なのかも?」
「気をつけてください。火と水の魔法耐性を持ってます!」
ゲーム世界での聖女エリザは、レベルが上がると鑑定スキルを身に付ける。
おそらくこれも、その鑑定の結果なのだろう。
……となると厄介だぞ。俺とミネアの魔法では、太刀打ちできない。
しかも、空を飛んでいるから剣の攻撃も届かない。
デバッグコマンドを使うか? いや、でも……
俺が躊躇していると、突然――
「ウィンド・カッター!」
アネモネの声が響く。
バシュッツ
つむじ風が巻き起こり……
あっという間に、ワイバーンの首を切り落とした。
「すごいぞ、アネモネ! いつの間に風の魔法を?」
「なんか、ついさっき覚えたみたい」
みんな成長している。
俺のデバッグコマンドなんて、必要ないくらいに。
感激した俺は、気がつくと自然にアネモネの頭をなでていた。
「偉いぞ。よくやった!」
「そ、そんな大げさに褒めないでよ」
口ではそう言いながらも、顔はだいぶ嬉しそうだ。
「わ、私もなでてほしいですにゃん!」
「ちょ、ちょっとぉ! ミネアは今回、活躍してないでしょ?」
「いや、ここは平等にしないとな」
そう言って、猫耳の裏の辺りをなでてみる。
「うにゃーん。ごろごろ……」
そのとき、エリザと目が合った。
「あ、いえ……わ、私は別に……」
少し顔を赤くして、後ずさりを始めるエリザに……
「エリザがいてくれるから、俺たち安心して戦えるんだ。いつもありがとう」
俺がそう言うと、エリザは素直に頭を差し出してきた。
なでなで、なでなで、なでなで……
「あ、ありがとうございます」
「おう、これで平等だ」
なでなで、なでなで、なでなで……
「ねぇ、エリザの時だけ長くない?」
「不公平ですにゃん!」
「そうよ! 全然平等じゃなーい!」
文句を言いながらも……アネモネとミネアは笑っていた。
俺たち『勇者亡き勇者パーティ』の絆も、さらに強くなったようだ。




