不確定な未来(2)
荒れ地を抜けると、奇岩地帯に辿り着く。
行ったことないけど、世界遺産のカッパドキアによく似たキノコ型の岩が立ち並ぶ絶景だ。
俺はこの旅で、あえて【ENTRY_OFF】を使わないようにしている。
前にも言ったけど、この世界を楽しむため、デバッグコマンドはなるべく封印しようと思っているのと、何より全員で強くなる必要性を感じているからだ。
俺とアネモネが前衛で敵に切り込み、ミネアとエリザが後衛で魔法を使う……戦いを重ねてゆく度に、俺たちの連携は良くなっていった。
……ただ、やっぱりちょっとアタッカー不足だ。
ウィル王子がいれば……いや、そんな考えじゃダメだな。
この先、女騎士レベッカが仲間になれば改善されるはずだ。
◇
様々な奇岩が林立する赤茶けた土地――
その中でも特別に太くて大きなキノコ岩の前で、アネモネが歓声を上げた。
「うわぁ! ご立派!」
「ほんと、そそり立ってますにゃん!」
キノコ岩をぺちぺちとさすりながら、二人が変な褒め方をする。
「いや、下ネタはいいから……」
「えへへ」
しかし、エリザにだけは通じていないらしく……
「シモネッタ? 国王の第三王妃様ですよね?」
……と、完全に誤解している感じだ。
セイクリッド王国第三王妃なんて、ゲームには登場しなかったので、その名前は全くの初耳だった。
それにしても……シモネッタって、だいぶ気の毒な名前だ。
そう言えばフランスには『ウンチーニ』って姓の人がいるらしい。
ひょっとしたら、シモネッタ・ウンチーニなんていう、最強に気の毒な名前の人が実在……おっと、ふざけてる場合じゃないな。
実はこの奇岩地帯にも、隠し宝箱がある。
『聖女のティアラ』という、まさにエリザに装備させなさいと言わんばかりのアクセサリーだ。毒などの状態異常を高確率で防ぎ、さらに一定確率で物理攻撃を無効化する効果もあるため、ゲーム終盤まで役立つ逸品だ。これを逃すわけにはいかない。
「みんなちょっと待ってくれ。俺の『物探し』のスキルが、ここで立ち止まれと囁いている」
「なに? そのメンズナッ○ルみたいな台詞……」
だいぶ古いネタなのに、通じるアネモネが怖い。
「たぶんここに、隠し宝箱があるはずだ。ほらね……」
「え?」
「でも……開いてますにゃん」
「うそ……だろ?」
いったい、どういうことだ?
隠し宝箱が……開けられている?
こんな人通りの少ない場所。しかも、普通に考えて気付かないような道の先にある宝箱が……誰かに開けられていた? いや、そんなはずがない。
俺の頭は真っ白になった。
一体誰が? まさか転生者?
いや、でも『セイクリッド・ハートランド4』は、まだ発売前のゲームだ。
ここに隠し宝箱があることを知っている人間は限られている。
俺や、二階堂主任みたいな、デバッガーが転生したのか?
あるいは……開発者の可能性もある。
俺がいた会社『ナッシング・トゥ・ルーズ』は、デバッグの請負のみを担当している。
開発と発売元は、『エクスプロージョン&グローリア』という超大手ゲーム会社。
名前が長いのは、『エクスプロージョン』社と『グローリア』社が合併してできたためで、略称はEXGLだが、口の悪いユーザーからは『エログロ』と呼ばれている。
……いや、そんなことはどうでもいい。
もし、エログロ社のスタッフがこの世界に転生していたら?
開発者だったら、俺たちデバッガーなんかより、さらに詳しい知識を持っているだろうし、ひょっとしたら、とんでもないスキルを使えるかもしれない。
もし、そんなヤツと対立することになってしまったら.……
……深く考えるのはやめよう。
今は、情報が少なすぎる。
『もし』とか、『ひょっとしたら』とか、そんなふうに仮説に仮説を重ねても意味がない。
多分、好奇心旺盛な旅人が、たまたま隠し宝箱を見つけて、開けてしまったんだ。
うん。そうに違いない。
『聖女のティアラ』を取れなかったのは残念だけど、隠し宝箱は他にもたくさんある。旅をしながら、地道に集めていくことにしよう。




