雨の旅立ち(1)
旅立ちの日は、朝からずっと雨が降っていた。
決して激しい雨ではなく、煙雨? と言うのだろうか.……
霧のように細かく降って、まとわりついてくるような雨だ。
でも、この雨はむしろありがたかった。
俺たち全員の、涙を隠すことができるから……。
勇者となったウィル王子は、魔王デオメットを倒すため、仲間を増やそうとしていた。
それが、『セイクリッド・セブン』のひとり、女騎士レベッカだ。
彼女が住んでいるのが、港町アエリア……
そして、ウィルの仇・マルケーノフも……同じ町にいるはずだ。
港町アエリアを目指し、俺たちは雨の中……旅をしている。
……どんなに遠い道だって、こうして一歩一歩前に進んでゆけば、いつか必ず目的地に辿り着く、
今はつらいけど、顔を上げて、まっすぐ前を見て……歩き続けてゆこう。
◇
勇者亡き勇者パーティ。
あの事件以来、俺たちはそう呼ばれている。
特に否定もしないけど、そうじゃないことは俺たち全員がわかっている。
そう、俺たちは今も……これからもずっと……
勇者ウィルの魂と共に、旅をしているのだから。
俺とアネモネとミネア、そしてすっかり痩せてしまった聖女エリザで……。
最初俺は、エリザがこの旅に同行するのは難しいと思っていた。
でも彼女は、半ば強引に俺たちに付いてきた。
亡きウィルとの思い出が詰まった王都にいるより、俺たちと共に旅をしたい……そんな彼女の気持ちを尊重して、こうして4人で旅をすることになったのだ。
エリザ――エリザベス=ウィッシュハートも、『セイクリッド・セブン』のひとりだ。
魔王デオメットを倒すために、欠かせないメンバーであることは間違いない。
そういう意味では、彼女の心の傷を少しでも癒やすことが、この旅のもうひとつの目的なのだと思う。
◇
こっちの世界には傘が無い。
だからみんな、フード付きのローブを着ている。
当然ながら撥水性は低いため、水分を吸ってずっしりと重い。
しかし、その重ささえも今は心地いい。
「………………」
しばらくの間、みんな無言だった。
俺も特に、誰かに話しかけようとは思わなかった。
……いや、声を出したら、涙声になってしまう気がして、ずっと黙っていたのだ。
「ねぇヒデオ、これから先のことを教えて。港町アエリアでレベッカさんを仲間にして、その後の話……」
「未来はどんどん変わるから、今話しても余計に混乱させちゃうと言うか……」
「それでも知りたいの。あたしたちの未来を」
ミネアもエリザも、静かに頷いている。
そっか……みんな不安なんだな。
「じゃあ話すけど、レベッカを仲間にしたあと、船でスノーダムに行く予定だ。そこで、『セイクリッド・セブン』のアリア=フロストハートを仲間にする。氷姫アリアと呼ばれる氷魔法の使い手だ」
「氷魔法……ですかにゃん?」
「ミネアと被っちゃうじゃん!」
確かにそうだ。ゲームの世界では、ミネアは単なるギルドの受付嬢だったので、仲間にすること自体がイレギュラーだった。その結果、こんなキャラかぶりが発生してしまっている。
「私……お払い箱ですかにゃん?」
まるで捨て猫のような悲しい目で、こっちを見ているミネア……
「バカ言うなよ。ミネアはずっと、俺たちの仲間だ。あのスタンピードのときだって大活躍してくれたじゃないか!」
「でも、お試しで加入って言われましたにゃん」
「そうよ! ちゃんと責任取ってあげなさいよ」
アネモネが怒りんぼポーズになって、俺をにらんでいる。
「気付けなくてごめん。今から宣言するよ。ミネア、君は俺たちの正式な仲間だ! これまでも、これからもずっとな」
「はい! 頑張りますにゃん!」
こういう心配りが足りないのが、俺の欠点だな。
深く反省していると、今までずっと黙っていたエリザが、こう聞いてきた。
「それで……その先は、どうなるんですか?」
「でも、不確定な未来だから……」
「お願いします」
真剣な表情に気圧されて、俺は『その先の未来』について説明した。
「氷姫アリアを仲間にしたあとは、陸路で機械都市ヴァルカニアに行き、アヴィゲイル=ダークハートを仲間にする。カラクリ師アヴィと呼ばれる変人……あ、いや、ちょっと変わった女の子だ」
「その子も『セイクリッド・セブン』ですかにゃん?」
「もちろんだ。で、彼女の紹介で師匠であるバレット爺さんに会って、飛空艇を手に入れる」
「飛空艇? それって、空を飛ぶ船ってこと?」
「そのような船を造っているという噂は聞いたことがあります。もう完成したのですか?」
「いや、俺たちが協力して、完成させるんだ」
「す、すごいですにゃん!」
「でもなんか、ネタバレされて、ちょっと残念な気分……」
「だから、話したくないって言っただろ!」
「ご、ごめんなさい……」
「あ、いや……エリザが謝ることじゃないんだ」
なんかちょっと、微妙な空気になっちゃったけど……
俺たちの旅は、まだ始まったばかりだ。(打ち切り漫画の最終回風)




