国葬
王都でスタンピードが起きてから3日……。
街はようやく、落ち着きを取り戻しつつあった。
俺たちは今、宿のリビングに集まり、今後のことについて話し合っている。
「明日、国葬が行われます。ウィル王子と教皇聖下……そして、犠牲になったたくさんの方々を弔うために……」
あくまでも事務的に伝えようとしているエリザ。
しかし、その瞳は悲しみの色に染まったままだ。 無理もない。俺たちはこの一件で、あまりにも多くのものを失った。
亡くなった兵士たちは約200人。市民は約50人。 子供たちに被害がなかったのは不幸中の幸いだった。
◇
その後、大聖堂の一室から本物の教皇の遺体が発見された。
遺体は腐敗が進んでいて、亡くなってからだいぶ時間が経っているようだった。
やはり俺が想像したとおり、この半年間は偽物の教皇が教会を仕切っていたのだろう。
「ヒデオはいつから教皇のこと疑ってたの?」
「賜剣の儀の時だ。咳で誤魔化してたけど、あの時明らかに女神の名前を言い間違えた。そんなミス、本物の教皇だったらありえないだろ?」
「破壊の女神オブリビア……偽の教皇は、その名を言いそうになり、慌てて訂正したのだと思います」
ハートランド王国の国教であるセレス教は、創造の女神セレスティアを信奉している。
しかし、ごく一部の反セレス教徒たちは、自らを『オブリ教徒』と名乗り、破壊の女神オブリビアを唯一神として崇めているのだという。
「つまり、女神像に煌炎石を仕込んだのも、教皇に化けて大聖堂を魔香炉に変え、王都でスタンピードを起こしたのも……全部オブリ教徒たちの仕業ってことか……」
「ヒデオさん、偽教皇を操っていた者の名前……聞き出してくださったんですよね?」
「ああ。魔物使いのマルケーロフだ」
「その者が……ウィルの仇です!」
「明日の国葬が終わったら……俺は旅に出るつもりだ。港町アエリアへ……。マルケーノフは、そこにいる」
「ヒデオ、港町アエリアって……確か……」
「そうだ。アエリアには、ウィルが仲間にしたがっていた女剣士レベッカもいる」
「私も……お供させてください……」
「いや、でも……」
「お願いします!」
青白い顔、そして痩せこけた頬……しかし、その目には決意の炎が燃えていた。
「断っても、付いてくる気だろ?」
「もちろんです」
「でもエリザ、旅に出る前にもう少し体調を整えておいてね」
「わかりました……」
ウィル王子を失い、ずっと塞ぎ込んでいるより……こうやって立ち上がり、前に進もうとするエリザの方がずっといい。
……例えそれが、復讐という目的のためであっても……。
◇
次の日――。
王都の外れにある墓地で、国葬が執り行われた。 楽団が物憂いメロディを奏でる中、ウィル王子たちの棺が運ばれてくる。
「ウィル……」
喪服に身を包んだエリザの碧い瞳から、止めどなく涙が流れている。 それを見て、俺もついもらい泣きをしてしまった。
知り合ってからの時間自体は短かったけど……本当にいい奴だった。
この異世界に迷い込んで、初めて出会った友……親友と言っても過言ではない。
勇者ウィリアム=ブレイブハート……。 もっと長い時間を一緒に過ごしたかった。
新しく任命された教皇は、若くてちょっと頼りない感じの男性だった。 しかし、それでも一生懸命、鎮魂の言葉を墓前に捧げている。
その言葉を遠くで聞きながら……俺は心に誓った。
涙を流すのは、今だけだ。 俺はこれから、勇者ウィルの代わりに『主人公』になる。
もちろん、あいつの代わりが簡単にできるとは思っていない。
でも、俺には勇者ウィルの『記憶』がある。 彼がこの先……どんな敵と、どのようにして戦ってきたのか……。
『セイクリッド・ハートランド』というゲームを、デバッグという仕事を通して、誰よりもプレイしてきた俺が全部覚えている。
ウィル王子の遺志を継ぎ、俺は必ず魔王デオメットを倒す!
◇
旅立ちを明日に控えた朝――
ウィル王子の墓前に花を供えていると、背後に人の気配を感じた。
静かに振り向くと、そこには……ウィルの父・ハートランド国王が立っていた。
「へ、陛下……」
「タケベ・ヒデオ殿だな?」
「な、なぜ私の名を?」
「生前、息子が嬉しそうに話してくれたものだ。『父上、私は良き友を得ました』とな……」
……こらえていた涙が……溢れてきて、止まらなくなった。
良き友……そう、ウィルは俺にとっても、かけがえのない親友だった。
「ありがとう」
「……え?」
「王都を救ってくれたこと、この国の王として、心からの感謝を伝えたい……」
そう言うとハートランド国王は、深々と頭を下げた。
「そんな、陛下……頭を上げてください」
「今は……王ではなく、一人の父親だ。ヒデオ殿……最後まで息子の友でいてくれて……本当にありがとう……!」
言い終えて顔を上げた国王は、真っ黒に焼け焦げた金属塊を、俺に手渡した。
それは間違いなく……賜剣の儀で見た勇者の剣の破片だった。
「陛下……これは……」
「旅に出るのであろう? 息子も一緒に、連れて行ってくれ」
「……わかりました」
……そうだな。
勇者パーティには、やっぱり勇者ウィルが一緒じゃなきゃダメだよな。
「さぁ、行こう。港町アエリアへ……ウィル、お前が一緒なら心強いよ」
勇者の剣の破片に、そう語りかけると……
ウィル王子の人懐っこい笑顔が見えたような気がした。
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