絶望のスタンピード(3)
こんなとき……ウィル王子はどう戦ったんだろう? 俺は必死になって、ゲームの知識を辿った。
確か彼は、王都でもブレイブソードの斬撃を放ち、複数の魔物を同時に倒していたはずだ。 ……でもなぜ?
ひょっとして……勇者の剣の斬撃は、兵たちを巻き添えにせずに魔物だけを倒せる? いや、そんな設定聞いたことがないし、肝心の剣が失われてしまった今、それを考えても仕方がない。
しかし……何かヒントがあるはずなんだが……くそっ! 魔物と戦いながらだと、うまく考えがまとまらない。
「きゃっ!」
そのとき――。 魔物の攻撃を受け、アネモネが膝を付いた。
「大丈夫か?」
「平気。かすり傷だから」
ポーションで怪我を回復し、すぐに反撃を開始する。 しかし、その動きには明らかに疲労の色が見て取れた。
「アイスアロー!」
ミネアが同時に放つ氷の矢も、6本から4本に減っていた。 魔力はポーションで回復できるが、それを操る気力そのものには限界がある。
よし。ここは出し惜しみしている場合じゃない。 俺は「Ctrl」+「Shift」+Zでデバッグコマンドを起動した。
最初は【ENTRY_OFF】を試すが、イベント扱いなせいか効果はなかった。 次に【WIN_BATTLE】を試してみる。
ズバババーーン!!
懐かしい『会心の一撃』のSEと共に、フェンリルの巨体が四散した。 しかし、これだと目の前の敵を一体倒すだけなので、ファイアーボールを同時に放った方が効率がいいかもしれない。
奥の手のはずだったデバッグコマンドも効果的ではないとなると……一体どうすれば?
そのとき――。
「プロテクション・オール!」
俺の背後で、聞き覚えのある……懐かしい声が響いた。
◇
「プロテクション・オール!」
聞き覚えのある声に振り向くと……そこに、エリザが立っていた。
ちょっと見ないうちに、痛々しいほどに痩せ細っている。 ウィル王子の死後、すっかり塞ぎ込んでしまい食事も喉を通らなかったのだろう。
頬はこけ、顔色も蒼い。 それでも目には強い意志の力が宿っていた。
「タケベさん! ミネアさん! 今のうちに、範囲魔法を!」
そうだった。ゲームの中でウィル王子が市街戦をしているとき……傍らには常にエリザがいた。
市街戦のシーンはプレイアブルではなく、動画で演出されていたからわからなかったけど、あのときウィル王子が、市民や兵士たちを巻き込まずにブレイブソードの斬撃を広範囲に放つことができたのは、エリザがプロテクションの魔法を使って守っていたからだったのか!
「ありがとう! エリザ!」
――俺はただ、それしか言えなかった。 でもこの言葉には、様々な想いがこもっていた。
苦しい中、立ち上がってくれてありがとう。 ここに駆けつけてくれてありがとう。 敵を倒すヒントをくれてありがとう。 そして……また一緒に戦ってくれてありがとう。
「ファイアーストーム!」
「ブリザード!」
範囲魔法で魔物の群れを殲滅してゆく。 形勢逆転だ。
「アネモネ! エリザに肩を貸してやってくれ!」
「わかったわ」
見た感じ……エリザは立っているだけで精一杯の状態だ。 なのに、これだけ強力な補助魔法を使い続けている。
「ウィルが愛したこの街を汚す者は……この私が許さない!」
その強い想いが、彼女をここまで駆り立てているのか……。 だとしたら、俺もとことん付き合ってやる。
あれだけの数を誇っていた魔物たちが、みるみるとその勢いを失ってゆく。
「あとは魔香炉を見つけ出して破壊するだけだ」
「でも……どこにあるんですかにゃん?」
「そうよ。昨日までずっと、街中探したけど見つからなかったのよ?」
そのとき――。
「魔香炉なら……見つけました……」
ずっと肩で息をしていたエリザが、苦しそうな声で遠くを指さした。 その先には、大聖堂がそびえ立っている。
「あの大聖堂から……魔物を引き寄せる香が焚かれています。というより……大聖堂そのものが……巨大な魔香炉として設計されているようです。ごめんなさい……気付いたときには……もう手遅れで……」
そうか……ウィル王子の死後、エリザも戦っていたんだ。 悲しみを乗り越え、王子が愛したこの街を守るために、必死で魔香炉を探し続けていたんだ。
「俺はアネモネと大聖堂に行き、魔香炉を破壊する。ミネアとエリザは兵士たちと協力して、街に残った魔物を頼む」
「わかったわ……」
「任せてくださいにゃん!」
エリザの体調が心配だが、魔物たちの勢いはだいぶ弱まっている。 今のうちにスタンピードの根本原因を絶たねば……。
俺とアネモネは、大聖堂へと向かった。




